004 錬金術師ギルド
「さあ、ここが私が経営している錬金術師ギルドよ!」
女性に連れられ、やってきたのは先ほどのギルドと比べることもできないほど、こじんまりとした一軒家。
道に面した場所には花壇があり、出入り口には階段と足の悪い人のためだろうか、スロープが設置されている以外は、ほとんど周囲の民家と変わらない外観をしている。
「ギルド? 先ほどのギルドとは違うんですか?」
「さっきまで居たのは冒険者ギルド。戦闘や探し物が得意な人間が所属するギルドで、荒事や人・物探しが主な業務ね。ここは錬金術師ギルド。天職が錬金術師の人間だけが所属できて、ポーションや魔導具を作るのが主な業務よ」
こちらの疑問に対して女性は簡単に説明してくれる……思えば、神様が言っていたギルドとは錬金術師ギルドのことだったのだろう。
「まあ、立ち話もなんだから、中に入りましょう?」
女性はそういうと、建物……錬金術師ギルドの入り口を開ける。
錬金術師ギルドの入り口をくぐると、左手にはカウンターがあり、その奥には扉が見える。
また、右手にも扉が見え、左右の部屋に挟まれる形で廊下が伸びている。
「おじゃまします」
「とにかく落ち着きたいわね。こちらに来て?」
女性は右側の扉を開いて、こちらを手招きする。
中に入ってみると、複数人が座れるほどに広いテーブルに個別の椅子が4つ、それに奥にはキッチンまで見える……どうやら、ここはダイニングキッチンのようだな。
キッチンが嫌に小綺麗だから、もしかしたら目の前の女性は綺麗好きなのかもしれない。
「さ、座って落ち着きましょう」
「ありがとうございます……えーと」
その時、愕然とした。助けられたというのに、まともな礼だけでなく、そもそも自己紹介すらしていなかったのだ。
「す、すみません。お礼を言っていませんでした。先ほどは助けていただいて、ありがとうございました。僕の名前は吾妻和央です」
「あら? そういえば自己紹介はしていなかったわね。私はエレオノーラよ。……アズマが名前? それともカズヒーサ?」
「和央が名前ですよ。カズヒーサじゃなくて、カズヒサです」
「カズヒサー? ……うーんダメね。発音が難しいみたい。カズでいいかしら?」
「ええ、もちろんですよ。こちらはエレオノーラさんと、お呼びすれば?」
「呼び捨てでも構わないわよ。年齢は同じくらいでしょ?」
エレオノーラと名乗った女性は、確かに見た目でいえば自分と大して変わりないように見えるが、学校や会社で女性は化粧で、いくらでも化けられることを知っている。
ましてや、彼女は異世界人。顔の作りも前の世界で周囲にいた人間とは違うから、正確な年齢を当てるのは難しいだろう。
「こちらは24歳ですが、エレオノーラさんは?」
「……えっ!? 24歳? ……私は18歳です」
こちらの年齢を明かすと、彼女は急にかしこまった雰囲気になった。
まあ、同い年くらいかと思っていたら、じつは6歳も上と気づけば、こうなるか。
「急にかしこまらなくても良いですよ。こちらは、この世界のことを教えてもらう身ですし、楽に話してください」
「でも、そちらも丁寧な言葉ですし」
「僕は元々こういう話し方なんです。目上はもちろん、年下相手でも似たような話し方でした」
父親が誰が相手でも丁寧な話し方をする人で、それを真似ているうちに自分も丁寧な話し方がスタンダードになってしまった過去がある。
子供の時分にはからかわれることも多かったが、大学生、社会人となると丁寧な話し方をする方が当たり前という環境もあり、そのまま通してしまった。
もちろん、本当に仲の良い親友と呼べるほどの相手には、ざっくばらんな話し方をすることもあったが、いくら助けられたからといっても出会ったばかりの女性相手に話し方を変えるのは不自然だろう。
「ん~、そうなんですか?」
「ええ、なので気にせず楽な話し方をしてください」
「わかったわ。こちらはカズと呼ばせてもらうわね」
「はい。ところで、こちらのギルドに誘っていただいたということは、雇っていただけるのでしょうか?」
「もちろん! 稀人であるカズは知らないでしょうけど、天職が錬金術師という人間は少ないの。それでいて、ポーションや魔導具といった生活に根ざしたものを作っているから、いつでも人手不足なのよ」
なるほど。エレオノーラさんが僕を助けてくれたのは、もちろんエレオノーラさん自身が優しいからということもあるのだろうけど、貴重な錬金術師の天職持ちだったからということもあるのかな?
まあ、こちらとしては右も左もわからない異世界で助けてもらったのだから、どんな思惑があったとしても、ありがたいことに変わりはない。




