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036 キウイジャム

 スクロールという自分が持つ天職以外の魔法が使える可能性のことは一旦忘れるとして、それからは日常が戻ってきた。

 初級の小型魔導具とポーションを作成する日々で、たまに師匠と外食をしたり酒盛りをしたりといった日々が続いていた。


「で、これは何?」


 そして、今日もまた師匠にこうして詰められているというわけだ。なにゆえ?


「いやいや、見ればわかるじゃないですか。これはジャムですよ」


 お茶の時間に師匠の前に出したのは、ビスケットとジャム。ビスケットはいつも出しているお馴染みのモノで、ジャムは瓶に入っているちょっと高級なものだ。


「ジャムなのはわかるの。……でも、なんで黄緑色なの? カビが生えているの?」


「いやいや、これは果実の色ですよ。悪くなっているわけではありません」


 この世界ではジャムといえばリンゴかオレンジ、それとイチゴくらいで前の世界にあったような変わり種のジャムはほとんど見かけない。

 考えてみたら当たり前のことなんだけど、前の世界ほど冷蔵・冷凍技術が発展していないし、なにより流通速度が段違いだから、万が一にも売れないものなんて運べないわけだ。

 というわけで、ジャムといえばリンゴの黄色、オレンジのだいだい色、イチゴの赤色しか見たことなく、目の前にあるような黄緑色のジャムはカビが生えたようにしか見えない。


「果実? 黄緑色の果実なんてあったかしら?」


「キウイですよ。師匠も八百屋で見たことがあるでしょう?」


 この国では生産されていないらしいけれど、周辺国からやってきたという果実は僕の目にはキウイにしか見えない。

 ま、師匠や八百屋のおばちゃんは、まったく違う呼び方をしているようだけど、翻訳の都合か僕にはキウイと聞こえるものだ。


「キウイ? あの見た目の悪い?」


「外は毛むくじゃらで黄土色というか茶色というかな色ですけど、中身は鮮やかな黄緑色なんですよ」


 八百屋で売られていたキウイは、その見た目から不人気で、かといって周辺国との輸出入の関係上、入荷しないというわけにもいかない果実らしい。

 で、売れ残りが大量発生しているという話しを八百屋のおばちゃんから聞いた僕が、馴染みのパン屋に協力してもらって作ったのが、このジャム。


「キウイねぇ。美味しいの?」


「僕の個人的な嗜好で言ったら好きな味ですよ。もちろん、味覚は人それぞれなので師匠の口に合うかはわかりませんが」


 子供のころはイチゴだったり、リンゴだったりの甘いジャムが好きだったけれど、成長するにつれて酸味があるジャムが好きになった。

 というわけで、キウイやルバーブ、ラズベリーなんかのジャムを使うことが増えていったな。


「うーん、カズがそこまで言うなら試してみても良いかな」


「ええ、師匠の口に合わなかったら僕が消費しますから」


「……うーん、悪くは……ないかな?」


「ふふ、僕は好きですよ」


「でも、カズが自分で作ったの?」


「いえいえ、パン屋のご主人に作ってもらいましたよ。八百屋のおばちゃんが腐らせるのはもったいないっていうんで、パン屋のご主人に事情を説明してジャムにしてもらったんですよ」


 八百屋のおばちゃんは在庫がさばけるし、パン屋のご主人は安く仕入れることができた、両者ともに損はない。

 もちろん、キウイのジャムが定番になって売れてくれれば万々歳だろう。


「ふーん、あの主人が良く新しいジャムなんて作ったわね」


「なんでも最近はマンネリ気味で売上が落ちていたそうで、新商品を求めていたそうですよ」


「……これもカズの発明になるのかしら?」


「いやいや、これは八百屋のおばちゃんとパン屋のご主人が作ったものですよ」


「でも、カズのアイディアでしょう?」


 いやいや、こんな食べたいなと思ったものを作ってもらっただけで、発明とか言われていたら何をやっても発明になってしまうだろう。


「ま、もしも流行ったのなら八百屋のおばちゃんとパン屋のご主人のおかげって報告しておいてください。僕はジャムの種類が増えただけで大満足ですから」


 これを機にジャムだけでなくキウイ自体が流行って、もっと値段が下がってくれれば朝食に使える果実が増えるという目論見もある。

 今はヨーグルトとオレンジを食べているが、キウイが手ごろな値段になるのなら、オレンジの代わりにキウイを食べるのもいいだろう。

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