035 スクロール
「じゃあ、協会長には周辺国でも販売していいって伝えるわね」
「ええ、周辺国だけでなく、どこでも買えるようにしてもらって良いですから」
僕が生きている間にはわからないことだろうけど、リバーシと五目並べが他の国で新しい遊びを生み出す原動力になってくれると嬉しいな。
「ああ、ちなみに帝都での売上も良いみたいよ。リバーシと五目並べで仕事が増えたって木工師と石細工師が喜んでいたわ」
「ああ、それはいいですね。錬金術師だけに仕事が集中するのは良くないですから」
「ま、錬金術師は錬金術師でスライムボール作りがあるしね」
ああ、スライムボール……よく考えたら、まだゴムボール状態というか。前の世界で使っていたようなボールではないんだよな。
幼児が使うような簡単なゴムボール……うーん、耐久性を考えたら革でも張るように指示したほうが良いのかな?
「……師匠、子供たちからスライムボールの使い勝手は聞きました?」
「ん? 数が足りないとは聞いてるわね。あと、何個か壊れたって。ま、スライムの素材って耐久性が低いからね。冷蔵庫なんかの扉に張り付けているやつも消耗品で取り換えるわけだし」
「うーん、師匠。この街の皮革職人って暇ですか?」
「ん? 皮革職人? まあ革靴や鞄の需要はあるから暇すぎず忙しすぎずって感じじゃない?」
「じつは僕の世界ではボールといえば革が張ってあるものなんですよ」
「ボールに革……」
「ええ、ボールは球状なので形を工夫して張るんですけど、革を張ると耐久性が上がるんですよ」
「なるほどねぇ」
幼児の力くらいならゴムボール……もといスライムボールでも良いけれど、年齢が二桁にもなれば力もついてくるから、スライムボールでは厳しいだろう。
サッカーボールやバスケットボールのように、革を張ったほうが耐久性は上がるだろう。
「まあ、一案として覚えておいてください。今はまだ子供たちの遊びの道具なので必要ないかもしれませんし」
「……今はまだ?」
「僕の世界ではボールで遊ぶのは子供だけではなかったですからね。何だったら興行として大人がお金を取って試合をしていましたし」
サッカーにしろバスケにしろ、何だったら子供たちがやっているドッジボールだってプロがいた。
まあ、この世界は前の世界とは違って街の外には魔物や魔獣といった脅威がいて、旅をするのも苦労するから、そこまで流行りはしないだろうけど。
「……興行」
「ええ、平和になると人は娯楽を求めますからね。本を読んで喜ぶ人たちもいれば、人が戦っているのを見るのを喜ぶ人もいるんですよ」
この世界だったら戦闘系の天職持ちもいるらしいから、決闘だったり闘技場だったりの方が流行りそうだけど、血を見るのが苦手な人たちはスポーツを見たがるかもしれない。
そんなときにスライムボールしかなかったら、大した戦いは見られないだろう。
「ん~、協会長の方にそれとなく伝えておくわ。私も他の職種の忙しさは、なんとなくしかわからないしね」
「ええ、必要であれば子供たちや周囲の人が求めると思いますし」
子供があれだけ遊んでいるのだ。保護者である大人が遊びたがっても不思議ではない。
「……ああ、そうだ。そういえばカズにスクロールって教えたかしら?」
「…………スクロール?」
「ええ。魔法は自分が覚えたものを詠唱して放つものだけど、じつは自分が覚えていない魔法も使うことができるの。それがスクロール」
ほうほう、昔のRPGなんかにあった使い切りのアイテムみたいだな。
「紙職人が作成した魔紙に自分が使える魔法を転写するの。魔紙に転写された魔法は、自分でも使えるし他人でも使える」
「へ~、便利ですね」
「ええ、魔紙に転写する際に魔力は使われるけど、転写した魔紙から魔法を使うときには魔力がいらないのが特徴よ。だから、高レベルになって魔力が余ってきたらスクロールを作ることが増えるわ」
なるほど。確かに錬金術と違って、魔法は使用頻度がそこまで高くないから、魔力が余りがちなのか。
ちなみに普通の人は天職を2つ持っているが、それぞれに魔力が独立しているので、僕の場合は錬金術で魔力を使い果たしても付与魔法の魔力は残っている場合が多い。
「ふむ。じゃあ、付与魔法のスクロールを作ったほうが良いと?」
「ま、そのうちね。今はまだいいわ。低レベルの付与魔法は需要が少ないし」
なるほど。確かに攻撃力上昇や防御力上昇、それに敏捷上昇や器用上昇は便利だけど、戦闘系の天職持ちから見ると上昇量は微々たるものだって聞いたしな。
ん~、でも僕でも他の魔法が使えるかもしれないってのは朗報かもしれないな。




