031 師匠への説明
「で、また調子に乗って新しい魔導具を作ったってわけ?」
着火用、小型送風機、水瓶という3種類の魔導具の作成が終わり、師匠へと報告をしたんだが、この状態だ。
いや、言い訳をさせてくれ。最初は師匠もニコニコだったんだ。そりゃ、弟子が初めての魔導具づくりで、指定した魔導具全てを作成出来たら嬉しいだろう。
風向きが変わったのは、点火棒と水差しの魔導具を師匠に見せて、手持ちの送風機を作りたいから、小さめの桶を用意したいと伝えてからだ。
「いやいや、ちょっと工夫しただけですよ。完全新規の魔導具じゃないですから」
「はあ。あのね、私が知っている範囲でも、着火用や水瓶の形を変更した魔導具なんて存在しないのよ」
ん? そうなのか? 錬金術師……それも魔導具を作成できるレベルの人は少ないというのは聞いたことがあるけれど、誰も工夫したことがないのか?
だって、言っちゃ悪いけど、僕が作ったのなんて大したことないよ? 着火用は再構成で形をいじったけど、水差しなんてどこにでもあるものだ。
「そうなんですか? 水瓶を水差しにするなんて誰でも思いつきそうですけど」
「言っておくけど、完全新規で自分が想像したものならともかく、既存の魔導具の形を変えようなんて考える人はいないから」
「ええと、マズかったですか?」
もしかしたら、魔導具には形まで含めての特許のようなものがあるのかな? だとしたら、勝手に形を変えて作ったのはマズかったか?
「マズくはないわ。顧客側の都合で、持ち込みの水瓶を魔導具にするなんてこともあるから。でもね、ただでさえ大変な魔導具づくりで、さらに苦労しようなんて考えの錬金術師はいないの」
「でも、後に便利になるってわかってたら、作ってみようってなりません?」
「ならないわ。カズは割と簡単に回路を理解しているけれど、そもそも回路の理解は天職から外れているの」
「……は?」
「錬金術師の天職は、錬金術のスキルに全振りされているの。書記や数学者、商人みたいにスキルがない天職は、書物から得る知識の習得スピードが上がったりもするけど、錬金術師はそうじゃないの」
なるほど。スキルの有無によって、天職関連の知識の習得スピードが違うと。
師匠が錬金術を教える時に教科書を利用せずに、実践形式だった理由がわかった。
僕は僕で勝手に書物から知識を得ていたけれど、それはスタンダードなやり方ではなかったのか。
「それで師匠は本を読まないんですね」
「読まないわけじゃないわ。苦手なだけよ」
まあ、ギルド内にも僕が読んでいたような本はあったから完全に読まないわけじゃないだろうけれど、少なくとも僕がギルドに入ってから師匠が本を開いている姿は見たことがない。
「逆にカズはどうして、そんな簡単に本の知識を理解できるの?」
「ん~、前の世界では本をたくさん読んでいたからですかね?」
それこそ、学校では教科書を使っての授業が主体だったし、受験勉強なんて参考書を使いながらの自習が多かったからね。
もちろん、この世界の本は前の世界よりも不親切な部分というか、自分が分かればいいように書かれている部分が多くて、わかりにくかったけれど。
「やっぱり稀人様の世界は、私たちの世界とは違うのね」
「まあ、そもそも僕のいた世界には天職もなければ魔法やスキルもないですからね」
「ま、そんなわけで回路は正確に書くことはできても、応用できる人は少ないのよ」
そういえば、コンロや冷蔵庫といった家電に似た魔導具は、異世界人の家電を真似たんだったか。
それを考えたら、新規の魔導具というのは貴重なのかもしれない。
「じゃあ、この工夫しただけの魔導具は?」
「協会行きね。そこで回路を模写してもらって、他の錬金術師が作れるか試して、需要がありそうなら作成依頼がくるわ」
「ええと、小型送風機の新作は?」
「そっちも作ったら提出よ」
マジか。楽になるかな? くらいの気持ちで作った物が、なんだか大事になってきたな。
「ええと、師匠にはご迷惑をおかけします……?」
「いいのよ。新しい魔導具が出来るのは歓迎すべきことだから……ただ、先に回路の説明をしてくれる?」
「点火棒と水差しのですか? そんな複雑じゃないですよ。点火棒は着火用とほぼ一緒で、先端まで延長用の回路を延ばしているだけですよ」
「筐体は? 着火用の魔導具とは形が違うじゃない?」
「2つ分使ってます。持ち手の部分はそのままで、着火部分をもう1つの筐体を再構成で延ばして、合成でくっつけてます」
「なるほどね……水差しは?」
「こっちは水瓶よりも表面積が狭いので、いらない部分を圧縮していますね」
「いらない部分?」
「水瓶にも着火用や小型送風機のように水の出現スピードを調整する部分がありましたけど、必要ないので削ってます」
水瓶には溢れないように最大値を設定する回路と、水の出現スピードを3段階で調節する回路があったが、最大値はともかく調整は必要ないので削った。
「……確かに、水瓶の魔導具には調整は必要ないわね。…………はあ、水栓の魔導具に調整があるから、いらないなんて考えたことなかったわ」
ちなみに水栓の魔導具には3段階の調整があって、弱はコップに、中は水差しなど、強は大鍋でスープを作る時なんかに使う。
「まあ、そんな感じで削って、持ち手の方に延長用の回路を延ばしてますね」
「なんで、持ち手に付けたの? 水瓶と同じで注ぎ口の近くじゃダメだったの?」
「水差しは持ちながら使うので、大量に水が必要なときは持ちながら水が出せたら便利じゃないですか?」
「……考えたこともなかったわ」




