026 異世界定番のリバーシ
「はい、というわけでカズは新しい遊びを考えておいて」
子供たちと別れて錬金術師ギルドに戻ってくると、師匠はそう言い放ち、外へと出て行った。
どうも協会にスライムボールの有用性を訴えかけて量産を頼むと同時に、公爵家に空地を子供たちに開放するように交渉してくるみたいだ。
「はいはい。夕飯までには帰ってきてくださいね」
慌てて飛び出していく師匠を見送って、こちらも準備に入る。
師匠は簡単に新しい遊びと言っていたけれど、前の世界の文字が通じない以上、提供できる遊びは限られてくる。
「ところで、オリアーニ嬢は帰らなくてよいのですか?」
「迎えが来るまで時間がありますから、アズマさんが遊びを考えているのを見ていますわ」
師匠は外に出て行ったが、師匠の妹であるオリアーニ嬢はギルドに残ってしまった。
第一王子の婚約者で貴族でもあるオリアーニ嬢と二人きりというのはマズいと思うのだが、師匠もオリアーニ嬢も気にしてない様子……これでいいのか?
「まあ、この世界の意見が聞けるのは良いことだと思うことにします」
「ええ! で、どんな遊びを作りますの?」
「作るわけじゃないですよ。僕のいた世界にあった遊びを再現するだけです」
これは間違えてはいけない。自分で作った物じゃないから自慢できないとか卑下する気はないけれど、他の誰かが作った物を自分で作ったと言い張るのは違う。
「まず、文字を使った……というか、文字が重要になる遊びはムリですね」
「そうなのですか?」
「勝手に変換されているので気にはならないのですが、この世界の文字や言葉と僕がいた世界の文字や言葉は違うようなのです」
単純に言語が違うというのもあるのだけれど、そもそも物体の名称自体が違うこともあるようで、前の世界なら少ない文字数の野菜なんかがやけに長い文字で書かれていることがある。
となると、カルタなんかの何かの名称と頭文字を連動させる遊びを作ってしまうと、思わぬところで同じ頭文字、ということが発生するだろう。
「なので、簡単なところでリバーシと五目並べですかね」
「リバーシ……五目並べ……」
「聞いたことはありますか?」
「ないと思います。朝にも言いましたが、貴族の遊びは遊戯盤だけなのです」
ふむ。オリアーニ嬢も知らない……とはいえ、名前を知らないだけで似たような遊びがあることは考慮すべきだろう。
僕がこの世界にやってきた一人目ならともかく、異世界転生者が複数人やってきている世界なのだからね。
「さて、材料はギルドにある板と黒いインクですね」
この世界でもベニヤ板というか合板は存在するようで、錬金術師ギルドでは魔導具を作る時に利用しているので、それを拝借する。
あとは、これまた魔導具を作る時や師匠が書類を作成するときに使用している黒いインク。
「それだけですの?」
「誰でも遊べる簡単な遊びですからね」
言いながら板をリバーシを行うために必要な大きさへと素材分解で加工していく。駒を置く場所は8×8? あれ、10×10だっけ?
こういうことがあるから、前の世界の遊びを再現するのは難しいんだよな。
確か8×8だったよな? 真ん中にマス目がないから偶数だったってのは覚えてるんだけどな。
「確かこんな感じ」
子供のころは磁石式で遊んでいたけれど、そこまで再現はしなくてもいいだろう。
ボードにする板には8×8になるように溝を作って、その分で出来た廃材はボードの周囲に合成することで駒が外に弾かれないようにしておく。
あとは駒を128個作って、半分は黒いインクを合成して着色、さらに合成して表裏が木の色と黒になる駒を64個作成する。
「は~」
オリアーニ嬢は僕が遊びを作るのに錬金術を使ったからビックリしているようだが、そもそも素材を探すために錬金室に入った時点で錬金術を使うとはわからなかったのだろうか?
「できましたよ」
「遊び方を教えてください!」
「まずは中央に斜めになるように裏表で駒を設置します。あとは順番にそれぞれ駒を置いて、同色で挟んだらひっくり返すというのを繰り返して駒の数が多い方が勝ちです」
とりあえず初期位置に駒を置いて説明する。
「挟んだらひっくり返すのです?」
「ええ、それぞれ黒と白……じゃない木の色が自分の持ち駒ってことです。とりあえず、オリアーニ嬢が黒、僕が木でやりましょうか」
初心者相手なので、ここに置けますよ。こちらに置くと、いっぱい取られちゃいますね。などと、教えながら一戦する。
第一王子の婚約者に選ばれているだけあって、オリアーニ嬢の頭の良さは僕を軽く超えているようだ。
少し助言をするだけでリバーシのルールを飲み込んだようで、後半はほとんど助言なしでの戦いとなった。
「どうです? これなら文字の読み書きがないから、平民でも貴族でも楽しめるかと」
「そうですわね。……少しやっただけですけど、奥が深い遊びだと思いますわ」




