023 スライムボールを作る
「カズ、これがスライムの素材よ」
師匠に渡されたのは、白く濁った塊。大きさとしては人の頭ほどもあるだろうか……ぶよぶよとしていて、確かにこれを薄く引き伸ばせば冷蔵庫のパッキン代わりになるだろう。
「冷蔵庫のパッキンは再構成で薄く引き伸ばしているんですか?」
「ええ、再構成は塊にするだけでなく、素材の形を変更させることもできらからね」
なるほど。鉄鉱石から鉄を作る時はインゴットの形に再構成することしかしていなかったけれど、再構成には形を変更させる能力もあるってことか。
「再構成」
イメージするのはゴムボール。スライムの素材の一部を使用し、空気が中に入った状態でボールを思い浮かべる。
「…………」
鉄をインゴットの形にするのとは違って、イメージが複雑なので時間がかかる。
とはいえ、魔力の減りは鉄の時と変わりはないので、再構成一回にかかる魔力は固定なのだろう。
「できた」
「ふーん、これがカズが言っていた遊びの手段?」
「ええ、これを投げたりして遊ぶんですよ。……ちょっと待ってください、大きいものも作りますから」
作ったボールはソフトテニスのボール、あるいは子供が遊ぶ野球のゴムボールくらいの大きさ。
そこそこ跳ねるので、テニスや野球など遊びの幅も大きいだろうが、それでもかなり小さいので、サッカーやドッジボールができるくらいの大きさのものも必要だろう。
「……………………」
大きさが大きさなだけに、先ほどのゴムボールを作った時よりも時間と材料がかかる。
「こんな感じですね」
作成できたゴムボールならぬスライムボールは、素材の色がそのまま出ているので、サッカーボールともドッジボールとも違う。
あえて言うなら、子供が遊ぶようなゴムボール(大)って感じで、こちらは先ほど作ったスライムボールよりも跳ねないが、サッカーやドッジボールをするのには支障がないだろう。
ただ、跳ねないのでバスケットボールなんかは難しいか。
「こちらは持つのが大変ですわね」
「ええ、どちらも一長一短ですので、遊び方が変わってくるでしょう」
「稀人様の世界では、どんな遊び方をしているのですか?」
「オリアーニ嬢、僕はこのボールの遊び方を支持するつもりはありません。子供というのは、勝手に遊び方を作るものですから。大人があれこれ言わなくても勝手に遊びますよ」
ここで僕がサッカーや野球の遊び方を提示するのは簡単だけれど、子供というのは自由なもので大人からああしろこうしろと言われながらやる遊びには興味を示さない。
そんなことをしなくても、自分たちで遊び方を作って、ルールを決めるものだから、変に大人が手出ししないほうが良い。
ま、初歩的なルールは知っていても、詳しいルールや協議に必要なコートの大きさなんかを把握していないというのも、あるんだけどね。
「師匠、この辺りで子供が遊んでいる場所、あとはボールを使って遊べそうな広い空き地はありますか?」
「ん、子供? そりゃ帝都は広いから子供はいくらでもいるし、近くにウチが持ってる空地もあるわよ」
そういえば師匠は第一王子の婚約者が出るような家の生まれだったな、それなら広い土地くらい持っててもおかしくはないか。
「その空き地で子供を遊ばせても?」
「開発する予定はないと思うから、何かしらの計画が経つまではいいんじゃない? お父様と弟にはこっちで連絡しておくし」
「では、子供たちを集めて空き地に向かいましょう」
師匠とオリアーニ嬢を連れて、まずは街にいる子供たちを回収して、それから師匠の家が持っている空地へと向かう。
街にいる子供は木の棒を振り回している男の子、それに簡素な人形で遊んでいる女の子などがいるが、とりあえず性別は考えずに連れて行く。
まあ、やりたくなければやらなければいいし、やりたければやればいいだろう乃精神だ。
「さて、君たちに来てもらったのは新しい遊びを提供するためだ」
「「「「遊び?」」」」
「ここに小さいボールと大きなボールがある。これは君たちが自由にしていいものだ。これを使って遊んでみないか?」
師匠に聞いたところ、スライムの素材はかなり安いようで、ボールに使った分なら大した金額ではないから子供にあげても構わないらしい。
「どうやって遊ぶの?」
「それを決めるのは君たちだよ。投げ合ってもいいし、ぶつけ合ってもいい。見ての通り、このボールはやわらかいから当たったくらいじゃ怪我をしないよ」
子供たちは、まずは小さいボールを投げあうことにしたらしい。困惑しつつも、お互いに距離を取って、ボールを投げあっている。
「アズマさん。子供たちが勝手に遊んでいますけれど、これで良いのですか?」
「ええ。さっきまで子供たちは男の子と女の子に分かれて遊んでいましたよね?」
「はい。男の子は木の枝を振り回して、女の子はお人形で遊んでいましたわ」
「それが、今は男の子も女の子も一緒になって遊んでいる。これが同世代の交流ですよ」




