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021 学校は必要?

「学校……ですか」


「そうですわ! 稀人様の手記や伝承を調べると、成人するまでは学校に通うことで、国全体の知識量を上げているのでしょう?」


 まあ、そういう一面もあるかな?


「……師匠、この世界での教育ってどうなっているんですか?」


 早々に協会のお茶に飽きて、クッキーを貪り食う機械と化していた師匠に質問を振ってみる。


「ん? 貴族とか大商会の子供とかは家庭教師がついて歴史・語学・算術を習うよ。平民は教会で読み書きと算数を習うくらいかな?」


 なるほど、基礎教養はできているということか。言葉からして、語学は外国語、算術は四則計算じゃなくて数学っぽい感じだけど。


「そうなんです! 今は平民の子たちは学ぶことができない環境なんですの。稀人様の世界では違うんでしょう?」


「確かに、僕がいたところでは誰もが自国や世界の歴史を学んだり、外国語や高等と呼ばれるような教育を受けますけど……」


「へ~、カズのいた世界は大変だね~」


「お姉さま! 教育を受けるのは素晴らしいことですわ!」


「そりゃそうだけど、全員が全員、教育を受けたいと思ってるとは限らないでしょ」


「まあ、どちらの言い分も間違ってはないですね。教育を受けたいかどうかは別として、教育を受けられるのは素晴らしいことだと思いますよ」


 前の世界でも学校の勉強なんて社会に出たら、何の役にも立たないという意見は多かった。

 だけど、世界的な情勢を見てみれば、教育を受けられるというのは、それだけで素晴らしいことだとも思う。


「ですわよね! だから、わたくしは稀人様の世界の学校をこの世界に再現したいのですわ!」


「とても立派な考えだとは思いますが、意味はないかと」


「……え?」


「まず前提として、僕のいた世界とこの世界は同じではないということがあります。僕のいた世界には魔法はありませんし、その代わりに発展している技術があります」


「……つまり?」


「僕のいた世界で有効だったとしても、それがそのままこの世界で有効だという保証はないということです」


 前にいた世界では誰でも使える科学技術が発達していたけれど、この世界では特定の人しか使えない魔法技術が発達している。

 それに……


「カズ、それだけが理由じゃないでしょ?」


「師匠はわかっているんですね。そう、この世界にある天職が問題です」


「……天職が?」


 オリアーニ嬢は驚いたような声を上げる。


「この世界には天職という神様がくれた素晴らしいシステムがあります。天職を持っている人は、持ってない人が絶対にたどり着けない場所まで行くことができます」


 例えば錬金術師の天職……師匠に聞いたところでは、天職を持っていなくても錬金術師のスキルを覚えることはできるけれど、天職持ちが初めから持っているスキルですら取得には数年を要するらしい。

 一生を費やせば、そこそこ頑張っている天職持ちと同じくらいにはスキルを鍛えられるけれど、錬金術師一本で一生を費やした天職持ちに追いつくことは絶対にできない……とも。


「ソフィア、貴女の持っている書記の天職もそうでしょう? 貴女は一度見た書類の内容や聞いた内容は書き記すまで忘れないけれど、それは私たちには無理なの」


「……」


「僕たちのいた世界の学校は、何ができるのか、何が得意なのかを探す場でもあると思うのですよ。ですから、自分の得意分野がわかっているこの世界では、あまり意味がないかと」


 前にいた世界では自分に何ができるのか明確にわかっていなかったからこそ、学校に通って見聞を広める意味があった。

 だけど、この世界では天職があるから、自分が何をするべきなのかが学校に通わなくてもわかる。


「……天職以外の職に就きたい子だっていますわ」


「でしょうね。ですが、そちらは自己責任では? 天職持ちでなくても受け入れてくれるギルドもあるそうですし」


「わたくしは……わたくしは、稀人様たちの話を聞いて、学校は素晴らしいものだと」


「ええ、あの世界で学校は幅広い知識と、同世代との交流という素晴らしい経験を与えてくれました。しかし、それがこの世界でも素晴らしいかは別問題です」


 そもそもの話、これまでにこの世界にやってきた稀人たちが学校を作っていないことから、わかることだ。

 師匠が言うには稀人の願いはできるだけ叶えられるもの……それなのに、これまで学校が作られていないということは、これまにやってきた稀人もこの世界に学校は必要ないと判断したのだろう。


「私財を投じて学校を建設するのは自由です。しかし、通う人がいるかはわかりませんし、国のお金を使って作るものではないと思いますよ」

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