019 師匠の妹
それからの日々は、毎日が同じことの繰り返し。回復草からポーションを作り、使い終わった回復草は錬金術師協会の職員に引き渡す。
変わったことといえば、町の雑貨屋に回復草茶と回復草タブレットが売られ始めたことくらい。
開発者である僕には、レシピ代としてある程度の金額が口座に振り込まれているらしいけれど、師匠から渡される日々の賃金だけで生活できるから、まだ確認していない。
「師匠、もう昼ですし、少し休憩したらどうです?」
「……カズ。うん、そうね」
ポーション作成を僕に任せることができるようになったので、師匠は魔導具作りに専念しているのだけれど、やはりポーションと違って1つ作るのに時間がかかるらしい。
ポーションを作っていた時は昼前には魔力を使い果たしていた師匠だが、魔導具作りに専念してからは夕方になっても魔力がなくならないらしい。
「そんなに大変なんですか、魔導具作りは?」
「大変っていうか……回路を書いたりするのが時間がかかるのよねぇ」
師匠が言うには、魔導具作りには筐体に回路を書く作業と、本体である魔石を作る作業があるらしい。
魔石作りは材料があれば鉄鉱石から鉄を作るのと大差ない作業量らしいのだけれど、回路の方は細く魔力を出しながら正確に書かなければならないから時間がかかるらしい。
「うーん、何か手伝えれば良いんですけど、まだ錬金術師のレベルは上がらないんですよね」
「気遣いとご飯の用意をしてくれるだけで、ありがたいわ」
「いえいえ、これも恩返しの一環ですから」
師匠には命を救ってくれた恩があるから、気遣いや食事の世話などは当たり前のことだ。
もちろん、恩がなくても錬金術という未知の技術を習っている師匠である以上、お世話をするのは当たり前のことだろう。
「お姉さま、いらっしゃいますか?」
師匠とお昼のパスタを食べながら話しをしていると、受付の方から扉の開く音と少女の声が響いてきた。
「師匠、お客様ですかね?」
「ああ、あれは私の妹よ。たまに城を抜け出して、ここまで遊びに来るのよ」
師匠の妹というと、第一王子の婚約者をやっているという例のお人か。
貴族自体に縁がない庶民だけれど、第一王子の婚約者なんてどんな人か想像もできないな。
「お姉さま、こちらにいらしたのですね」
「ソフィア、また城を抜け出してきたのね」
「抜け出したなど人聞きが悪いですわ、息抜きです……あら、そちらの方は?」
「この子は詭弁ばかりがうまくなるわね。……新しい弟子のカズよ」
「初めまして、師匠の弟子をやらせていただいています。吾妻和央です。アズマでもカズでも好きに呼んでください」
「弟子? 失礼ですけれど、お姉さまより年上ではないですか?」
師匠の妹さんは僕の年齢が師匠よりもずいぶん年上なのが気になるようだ。まあ、弟子と言ったら普通は年下というか子供を想像するだろうか仕方がないか。
「カズは稀人様なの。お城にも報告がいっているでしょう? この世界の常識なんて何も知らないから、色々と教えているのよ」
「稀人様……確かに報告はありましたが、お姉さまの元にいらっしゃったのですね。……稀人様はよろしいのですか、年下の元で働くなんて?」
「ええと、なんてお呼びすれば?」
「ソフィア、自己紹介がまだよ」
「これは失礼いたしました。お姉さまの妹で、ソフィア・ディ・オリアーニと申します。稀人様のお好きに呼んでいただいて構いませんわ」
「では、オリアーニ嬢ですね。様付けで呼ばれるのは慣れていないので、稀人様という呼び方はご勘弁を。……師匠が年下ということですね、こちらは問題ありません。師匠には命を救っていただいた恩がありますから」
師匠が簡単に僕が稀人……異世界の住人だということをバラしたが、オリアーニ嬢は第一王子の婚約者なので、元々知っていると判断してのことだろう。
というか、錬金術師協会の協会長にはバラしているのだから、この国の国政を預かるような人たちは知っていると考えたほうが良いだろう……師匠の話しだと稀人は国にとって重要らしいし。
「命を?」
「ええ、こちらの世界にやってきた時は本当に何も知らなかったものですから、師匠に助けていただかなかったら野宿を強いられ、下手をしたらならず者に命を狙われていたでしょう」
冒険者ギルドにたまたま師匠がやってこなかったら、あのまま街をさまよう羽目になっていただろうし、お金の価値もわからなかったのだから良からぬ企みを持つものに金銭だけでなく命を奪われていてもおかしくはなかった。
「ですから、師匠を師匠と呼ぶのに抵抗はありませんし、師匠にいろいろと教わるのは助かっているのですよ」




