017 回復草タブレットとお疲れの師匠
「親父さん、これ作ってみたんですけど、試してもらえます?」
「お、カズちゃん。何を作ったんだい?」
ここは錬金術師ギルドの目の前にある肉屋さん。コロッケやらメンチカツやら、肉屋で買える総菜を幾度となく購入しているから、店主の親父さんとは顔見知りになっている。
「ポーションを作った後の回復草から作ったラムネ。ちょっとピリッとするから、眠気覚ましに良いと思うんだよね」
あれから回復草を使ったタブレットも作成してみたが、師匠にはイマイチだったようなので、いつも疲れて眠そうな肉屋の親父さんに試してもらうことにした。
もちろんレシピは師匠に伝えて、試してもらうことも師匠には了解を得ている。
「ふーん……おっ、こりゃスースーして目が覚めるな」
「ああ、覚醒を促す成分は入っていないので、気休めですよ? 眠気を覚ます最良の手段は、よく眠ることですから、眠い時はコレに頼らないで眠ってくださいね」
「わかっちゃいるが、忙しいとなかなかな」
前の世界でもエナジードリンクやら、この手の眠気覚ましに頼りすぎて危ない目に遭った人は多くいたし、きちんと警告はしておかないとな。
「ま、大量生産は難しいので適当に試してみてください。……あ、今日はバラ肉をください」
「おっ、今日は出来合いの商品じゃなくて肉なんだな」
「八百屋のアスパラがおいしそうだったので、肉巻きにしようかと」
「いいねぇ……ラムネ分おまけしておいたからなっ!」
親父さんの良い笑顔に見送られつつ、肉屋を後にする。ミントタブレットならぬ回復草タブレットの試作は他にも渡したいところだけど、流石にこの世界に来てから間がないので知り合いも少ない。
というわけで、肉屋の親父さん以外には師匠の方でなんとかしてもらいますか。
「師匠、ただいま戻りましたよ」
「……おかえり」
「お疲れのようですね……今日の夕飯はアスパラの肉巻きにするので元気出してください」
「……誰のせいで疲れてると」
昨日も協会で質問攻めにあっていたらしい師匠だけれど、今日も協会で何かあったのかもしれない。
「やっぱり錬金術師協会の反応は良かったんですか?」
「……うん。職員の中にスースーするのが好きな人がいてさ。昨日の回復草茶に対する反応もすごかったけど、今日の回復草タブレットは本当にすごくてさ」
あー、確かに前の世界でもガムでも飴でもミント味じゃないとダメって人もいたし、この世界でもそういう人がいてもおかしくはないか。
「まあ反応が良くても量産は難しいですからね」
「……それがさ。錬金術師協会の職員が各ギルドを回って使用済みの回復草を集めて、回復草茶と回復草タブレットを作成・販売するって」
「……そこまでの手間をかけるんですか? それほど売れるとは思いませんけど」
「焼肉屋とかステーキ屋みたいな香りの強い飲食店と提携するらしいよ。ま、こっちとしては回収に来てくれるなら、手間はないし反対はしないけどさ」
「……誰が作るんですか?」
「ああ、それは協会に所属する錬金術師の天職持ちがやるから心配ないわ」
師匠に詳しく聞くと、錬金術師協会には錬金術師としての仕事に慣れなくて、書類仕事や外回りの仕事をしている錬金術師も所属しているらしい。
まあ、確かに錬金術師としてギルドに所属すると錬金術を使い続ける生活となってしまい、外との交流がなくなってしまう。
もちろん、魔力の関係で丸一日ずっとというわけではないけれど、素材の勉強だったり、納品だったりで時間も使うから普通の職業よりは引きこもることになる。
「まあ、他の錬金術師たちに恨まれないなら良いですけど……協会所属の錬金術師は納得してるんですか?」
「もともと協会所属でも錬金術は頼まれているから、大丈夫でしょ」
師匠は軽く言っているけれど、大丈夫だろうか? まあ、心配しすぎても僕にできることがないというのは確かだけれど。
「というわけで、私は疲れたから夕飯まで部屋で寝るわ」
「はい。夕飯は用意しますから、ゆっくり休んでください」
見ようによっては甘やかしているように見えるかもしれないけれど、僕が不用意に回復草を再利用しようと思ったのがきっかけで師匠が疲れているのだから、休ませるのは当然だろう。
うーん、師匠には無理をさせてしまったから、しばらくは既存のポーション作成に精を出すかな。
別に新しい何かを作らなくても、見知らぬ食材に見知らぬ街並み……異世界であるというだけで十分以上に楽しいしな。




