011 帝城への報告(協会長視点)
俺の名前はマルコ。錬金術師協会の協会長なんかをやっているが、れっきとした平民だ。
ま、元々はルッソ伯爵家の3男であったわけだが、貧乏貴族の3男なんぞ、お荷物以外の何物でもないので成人したのを機に貴族籍を捨てて平民になったってわけだ。
錬金術師の天職を得ていたので、錬金術師協会の職員になって、そこそこ優雅に暮らしていたのだが、元貴族という肩書から協会長の役職を押し付けられて現在に至るってわけだ。
え? 元貴族だからって協会長になるのかって? そりゃ、なるさ。協会長の仕事は他の協会やギルドとのやり取りがメインだ。
でかい組織同士のやり取りなんざ、面倒の押し付け合いになるから、立場が下の人間がトップを張ってれば、良いように使われることになる。
だからこそ、協会長には元貴族や大商人なんかの、権力はないけれど発言力のある人間に押し付けられるってわけだ。
とはいえ、協会長の仕事なんざ、結局のところすり合わせに過ぎないから、書類仕事が増える以外では特に面倒でもないんだが、今回ばかりは例外だ。
エレオノーラが連れてきたカズ……稀人様だ。稀人様は神様が遣わした使いとも、いとし子とも呼ばれる存在で、発見したら丁重に保護することが法律で決まっている。
稀人様がこの世界の発展に寄与していること、神様のいとし子を不遇な目に合わせて天罰を食らわないための措置だな。
で、俺はこうして、城の謁見室で跪いて、皇帝陛下からの許しを待っているという状態だな。
お笑いだろ? 貴族だった時だって帝城に足を踏み入れたことはなかったってのに、平民になってから陛下に謁見するなんてさ。
「顔を上げよ」
「はっ!」
陛下の声に反応して顔を上げると、一息には近づけない距離に陛下が玉座位に腰を掛け、その周囲には護衛の騎士、それに宰相と思わしき書類を持っている人が立っている。
平民として跪いている俺の傍にも警戒態勢の騎士が2人がかりでついているし、やはり帝城というのは暗殺などを常時警戒しているんだな、と思わせる。
「錬金術師協会長マルコ、稀人様を保護したというのは本当か?」
「はっ! 私の協会に所属するギルド長が、冒険者ギルドから追い出される稀人様を保護。落ち着いたのちに、協会へと報告に参りました」
「「「なっ」」」
俺の報告を聞き、謁見の間にいた人間がどよめく。
そりゃそうだろ。この世界に生まれたのなら、子供だって稀人様を大事にすべきだってわかっているのに、いい年をした冒険者が稀人様を虐げたなんて聞けばな。
「……それで、稀人様は無事なのか?」
「はっ! 幸いにも保護したギルド長は貴族でしたので、稀人様の重要性は理解していました」
「ほう、貴族」
「保護したのはエレオノーラ・ディ・オリアーニ。オリアーニ公爵家の長女です」
保護された当人のカズは夢にも思っていないだろうが、エレオノーラはあれでも立派な貴族で本来ならオリアーニ公爵家を継ぐ立場の人間だった。
だが、年の離れた弟が生まれたこと、空間魔術師の天職を持ち、市井でも暮らしていけることから、後継ぎの立場を離れて錬金術師ギルドを立ち上げた。
女だてらにギルド長をやっていること、実績が少ないことから敬遠されがちだが、稀人様を保護するなら広い帝都といえど、エレオノーラのところが最適だろう。
「オリアーニ公爵の娘か」
「はっ」
「……稀人様を帝城にて保護することは叶わんか?」
「稀人様は保護をしたエレオノーラに恩義を感じています。こちらからも、何もせずに暮らすことも可能だと示しましたが、すげなく断られました」
「……そうか」
この答えにはさすがの陛下も気落ちしている。まあ、法律で稀人様の意志は何よりも優先されると明記されているので、いくら陛下であっても稀人様を無理に招へいすることは叶わない。
本当なら帝城にて保護し、稀人様がいた世界の知識を授けてもらったり、他国へのけん制に使いたいのだろうが、稀人様の意志を無視してそんなことをすれば天罰が落ちるだろう。
「こちらでも稀人様の周囲には目を配っておきます」
「ああ、帝城からだと警戒されそうだからな。もしも、稀人様が何か作り出した際には報告に来るように……そうそう、一応聞くだけ聞いておくが、件の冒険者ギルドは?」
「稀人様を追い出した冒険者ギルドですね。翌日にボヤを起こして不正がばれ、現在はなくなっております」
「ふむ……宰相、念のために対処しておけ。二度と帝都に足を踏み入れさせるな」
「はっ!」
冒険者ギルドの連中は不正の捜査のために拘束されているが、罪が軽いものならひと月もかからずに出てきてしまう。
稀人様のこともわからなかった連中だ。手前勝手な八つ当たりで稀人様に怒りを向けるのは目に見えているし、対処をするのは当然だな。




