第5話:繰り返されたループと、結末を書き換える者
「──思い出したの。私は、この世界に何度も転生していた」
そう口にした瞬間、私の中で、
いくつもの“記憶の断片”が一斉に繋がった。
プレイヤー時代に何度も繰り返した、マルチエンド。
そして、気づかぬうちに“ゲームの外”で感じていた既視感。
──それらは全て、**この世界のループによって刻まれた“痕跡”**だった。
(リリアーナと同じように、私も……世界のバグによって“ループ”していた)
私はエリシア・グランツェルとして、すでに5度目の人生を歩んでいる。
すべての破滅ルートを経験し、
すべての分岐で滅亡を目の当たりにし、
それでも再びここに戻ってきてしまった。
「ねえ、リリアーナ。あなたも、覚えているのでしょう?過去の世界を」
放課後の屋上。私はリリアーナと向き合う。
「……ええ。もちろんよ。忘れるわけないじゃない。
何度あなたに敗れたか、何度……セシルに裏切られたか」
「……!」
リリアーナの瞳に宿るのは、“絶望”ではなく、“執着”。
その感情は、かつての“プレイヤー”ではなく──
もう、この世界に取り込まれた“存在”のものだった。
「私はね、エリシア。今度こそ、すべてを思い通りにしてみせるの。
王子も、騎士も、攻略対象も、そして……あなたも」
「……それが、あなたの望み?」
「そうよ。だって、何度も繰り返した結果、
一番私を求めてくれたのは“あなただけ”だったから」
(……私!?)
「だったら、いっそこの世界を壊してでも、あなたを手に入れたかった」
「……リリアーナ。私があなたを好きだったのは、
あなたが“ヒロイン”だったからじゃない」
「え?」
「プレイヤーとしてじゃなく、“この世界で生きる人間”として──
私は、あなたが好きだった。あなたが“壊れる”前の、笑うあなたが」
彼女の瞳が揺れた。
「やめてよ。今さらそんな言葉……!もう遅いのよ……!」
リリアーナの背から、黒い羽根が広がり、魔力が暴走しはじめる。
──“堕天の契約者”、覚醒寸前。
だがその瞬間、風を切る音とともに、誰かが私たちの間に立った。
「させるかよ。……ようやく会えたってのに、
また同じ破滅を繰り返す気か、お前ら」
銀髪の青年。
その顔には見覚えがなかったが、どこか懐かしさを感じた。
「……あなた、誰?」
「忘れたか?エリシア。いや、前の前の“お前”が最後に選ばなかった男だ」
彼の名はゼイン=アルファード。
没設定に存在した「第七の攻略対象」、
そして“世界の管理者が創り出したもう一人の対話者”。
「お前ら二人とも、“選択”を間違え続けた。
だから今度は俺が、結末を書き換えに来た」
リリアーナの暴走を止めるように、ゼインが魔力を展開し、
ラズも背後から援護する。
「……ゼイン、お前もループの中にいたのか?」
「まぁな。俺は“最終イベント発生前に消されるキャラ”だったからな。
でも今度こそ、このバグまみれのゲームに、完結を与える」
私の胸の中で、何かが点火した。
(そうか──“攻略対象”の中に、
私たちのループを監視していたキャラがいたのね)
私は立ち上がり、黒き羽根のリリアーナに手を差し出す。
「リリアーナ、終わらせよう。この物語を、ちゃんと。
“あなた”も、“私”も、何度も同じセリフを繰り返してきた。
でも今度こそ、“選ぶ”の。自分自身のエンディングを」
しばらくの沈黙のあと、リリアーナの瞳に涙が浮かぶ。
「……私、ずっと、怖かったの。
この世界が“本物”じゃないって気づいてから、ずっと……」
その手が、私の手に重なった瞬間──
黒い羽根が、光へと変わった。




