第4話:バグだらけの学園生活と、ラズの過去
学園は今日も平穏……の“ふり”をしていた。
本当は、もう世界の根幹はとっくに壊れ始めている。
“裏設定”が干渉しすぎて、イベントの順序がバグり始めていたのだ。
たとえば。
・本来、王子とヒロインが初デートする日 → 何故か校舎が一時的に消失
・騎士団実習のはずの時間 → 闇魔法の召喚陣が勝手に発動
・お茶会イベント → 毒耐性のスキルチェックが唐突に挿入される(※通常非表示)
(これは……ゲームシナリオの“順番”が崩れてる)
私は昼食をとりながら思う。
どうやら、プレイヤーである私とリリアーナの同時転生によって、
この乙女ゲーム世界そのものがバグっているらしい。
しかも問題は、私たちの影響だけじゃない。
「やっぱり“誰かが意図的にコードを書き換えてる”わね……」
そう呟いた私に、隣の席の男が紅茶を差し出した。
「──確かに。世界の挙動が、外部から干渉されている」
ラズ・ヴェイル。
裏ルートの影の住人にして、今や私の最大の協力者だ。
「今朝、また“魔力構造の改ざん痕”があった。
たぶんそれは、リリアーナ本人の意思じゃない」
「……じゃあ、彼女を操ってる奴がいるの?」
「そうだ。そしてその存在は、“この世界の外”に近い」
(この世界の外──つまり、“開発段階”で抹消された存在?)
私の脳裏に、プレイヤー時代に見た“没設定リスト”が蘇る。
開発中に消えた「第七の攻略キャラ」、
没ボイスの中でだけ語られていた「管理者の影」、
そして“ある特定のルート”でだけ言及される「記憶を食う者」。
(もしかして、それらがすべて繋がって……この世界を壊そうとしてる?)
その日の放課後。
私はラズを連れて、学園の旧図書館に足を踏み入れた。
ここは通常ルートでは立ち入り不可、
“未実装エリア”のはずだった。
なのに、今は普通に扉が開く。
「……ここが、俺の眠っていた場所だ」
「え?」
「数百年前、俺は“契約を破った存在”として、この場所に封印された。
理由は、俺が“ヒロインと恋に落ちた”からだ」
(……なるほど)
つまりラズは、過去にこの“世界そのもの”と契約していた存在だった。
ヒロイン(=世界の中心)に愛されたことで、“存在規定”から外れ、バグと判断された──
だから封印された。
「皮肉なものだな。
今こうしてまた、ヒロインの器が暴走し、世界が揺らいでいる」
彼の視線は真剣だった。
「俺はもう、過ちを繰り返さない。
だが──今度は、君が“選ぶ”番だ」
「選ぶ……?」
「君はこの世界を知り尽くしている。
ならば、今度こそ正しい結末を選べ。リリアーナを、世界を、そして……自分を、どうするのか」
私は返事をしないまま、図書館の奥に足を踏み入れる。
その先にあったのは──
“未実装イベントログ”。
“キャラクター削除記録”。
そして、“管理者IDのアクセス履歴”。
(やっぱり……この世界は“書き換えられている”。プレイヤーじゃない何かによって)
そのとき、不意に私のスカートのポケットが震えた。
見れば、システムに接続された旧型の通信端末が。
転生直後に拾った、壊れてるはずのガジェット。
そこに、文字が浮かぶ。
「また、会えたね」
──From:You(過去のプレイヤーID)
(……また!?)
これは、“前の世界”の私が送っていたメッセージ?
でも私が記憶しているログには、こんなものはなかった。
「……エリシア、これは?」
「ラズ……これ、過去の私からの手紙よ。
もしかすると、もっと前からこの世界には“ループ”の痕跡があったのかもしれない」
(私たちはいったい、何回この世界をやり直しているの……?)
次第に見えてくるのは、
乙女ゲームに隠された“永遠の輪廻”と、“やり直しの代償”。
そして私は知ることになる。
──この世界を真に救う方法はただひとつ。
この物語を“完結”させること。