第3話:偽聖女の覚醒と、闇から来たもう一人の攻略キャラ
リリアーナが“裏設定ラスボス”だと知ったところで、私ができることは限られている。
私は悪役令嬢エリシア。
このゲーム世界に転生してからずっと、プレイヤーとして知っていた裏設定だけを頼りに生きてきた。
(でも、ゲームのヒロインが中身ごと別人──プレイヤー転生者だったなんて……)
しかも彼女は、“堕天の契約者”。
それはルートの最終盤、プレイヤーがヒロインを救えなかった場合にのみ登場する、真のラスボスルートの存在。
本来ゲーム内では描かれない“隠し中の隠し設定”だった。
(つまり、私がうっかり刺激すれば、この世界そのものが闇落ちENDに突入する可能性があるってことね……)
私はリリアーナを敵に回さず、かつ彼女の覚醒を防ぐ方向で立ち回ると決めた。
そのために、まず“ゲーム未登場”の超危険人物に接触する。
──それが、ラズ・ヴェイル。
闇の大陸出身、魔族と人間の混血。
ゲームには実装されなかったが、開発段階の設定資料集にだけ存在した、裏の攻略キャラ。
ルートに入るには、“夜の市”で起こる未実装イベントをトリガーにしなければならない。
(転生前の私は、そのトリガーが“学園で銀の香炉を使うこと”って情報を、公式リークで知ってたんだから……)
夜、学園の錬金塔で私はこっそり銀の香炉を使い、儀式を行った。
辺りが淡い紫に染まり、空気がひやりと凍る。
──そのとき、闇の中から現れたのは。
「呼んだのは、お前か? 人間のくせに、よくもこんな魔術を知っていたな」
長い黒髪に赤い瞳。獣のように研ぎ澄まされた気配。
彼が、ラズ・ヴェイルだった。
「……ラズ。私はエリシア・グランツェル。貴方に頼みがあるの」
「悪役令嬢か。だが妙だな。貴様の気配、まるで“この世界の住人ではない”ように感じる」
「……!?」
まさか……彼まで転生者?
いや、それは違う。彼はこの世界の“深層”と繋がっている存在。
プレイヤーとは異なる、システムの“抜け道”のような存在なのだ。
「俺の“契約対象”が目を覚まし始めている。……あの女、“リリアーナ”とか言ったか」
「彼女を、知っているの?」
「あれは、かつて世界を滅ぼした“始まりの堕天使”の器だ。俺は彼女を監視するために、眠りから目覚めた」
(つまり……彼はリリアーナを“止められる存在”でもある)
これはチャンス。
私は自分の“前世知識”と“彼の役割”を組み合わせて、彼と同盟を結ぶことに成功する。
「俺の条件はただ一つ。“嘘はつくな”」
「ええ、私は全てを明かす。転生者であることも、この世界がゲームだったことも、リリアーナが覚醒しかけてることも」
ラズは、にやりと笑った。
「面白い。
ならば“今度こそ、世界を救ってみろ”――プレイヤーよ」
翌日。
学園では、ちょっとした事件が起きていた。
リリアーナの寮の部屋が、“黒い羽根”と“紫の火”に包まれたというのだ。
そして彼女は、気を失ったまま目を覚まさない。
(……もしかして、すでに第一段階の覚醒が始まってる?)
だが、その現場に残されていた羽根を見た瞬間、私は確信した。
これは、彼女の暴走ではない。
──「外部の何者か」が、彼女を無理やり“覚醒させようとしている」。
(つまり、リリアーナはこの世界のラスボスではなく……ラスボスに“されようとしている”!?)
混迷する運命。
表と裏が入り乱れる中、私は決意する。
「絶対に、救ってみせる。リリアーナも、この世界も。
知ってるのよ、全部。
……だから、私が守るわ」