第2話:ヒロインも転生者!? 裏切りと暴露の学園デビュー
王立エルディア魔法学園、入学式の日。
広い講堂に貴族の子息たちが整列し、私はその最前列、悪役令嬢ポジションの“主席”として座っていた。
正確には、裏設定でチート並の政治力と魔術才能を持つ悪役令嬢である。
(ここまでは予定通り。問題は──)
壇上に現れた、銀髪の少女。
“聖女”と称されるこのゲームのヒロイン、リリアーナ=セリーヌ。
(彼女は、ルート次第で天使にも魔王にもなる、いわばプレイヤーの鏡写しの存在。そして――)
「はじめまして。皆さんと、仲良くなれると嬉しいです」
穏やかな笑顔。天使のような物腰。
しかし、私に向けられたその目だけが、ぞわっとするほど冷たかった。
「……ふふ。ようやく見つけた、“プレイヤー仲間”」
(……やっぱりかあああああ!!)
ヒロインもまた、前世の記憶を持った転生者だった。
しかも、こちらが“攻略情報マニア”だったのに対し、彼女はたぶん“ヘビー百周勢”だ。
「お久しぶりね、エリシア。
前の世界ではいつも私の邪魔をしてくれた、憎たらしいライバルプレイヤーさん」
(お、お前だったのか……!マルチバッドエンドを量産してた犯人!)
どうやら彼女は、自分がリリアーナに転生していることに気づいたうえで、
このゲーム世界そのものを“改変”しようとしているらしい。
「せっかくだから、今度こそ完璧なエンディングを作るわ。
だから、邪魔はさせない。私の愛も、勝利も、あなただけには譲らない」
「いや、私いま全然恋愛方面に興味ないんだけど!?」
そんな中、式後の立食パーティーで、さらなるトラブルが起こる。
「おい、エリシア。なぜ君がラファエル=ノクスと繋がっている?」
王子ルートの本命キャラ、セシル=アルベリオ王子が、私に詰め寄ってきた。
「“王家に仇なす者”と交友するなど、正気とは思えん!」
(あー、やばい。このままだと、原作イベント“陰謀の証拠捏造→婚約破棄”に繋がるパターンだわ)
しかし、私は慌てない。
ここがこのルートの最初の分岐点。
私がラファエルと関係を結んだ理由を“政治的正義”として説明できれば、破滅は避けられる!
「殿下。ラファエル=ノクスは闇組織と接点があるとされる一方で、
“古代王朝に関する真実”を追っている調査官でもあります」
「……なんだと?」
「私は、この国の未来のために、あえて“裏の情報”と接触しているのです。
王国が滅ぶ未来を、知っているからこそ──」
すると、後方から割って入る声。
「それは真実です。彼女は、本物です」
……ラファエル。
いつの間にかその場に現れた彼は、王子に向かって深々と頭を下げる。
「エリシア様は、私の“命の恩人”です。
私が持つ機密情報すら、王国の安定のために利用しようとしている」
「…………」
セシル王子は険しい顔で私を見たが、
「“あえて悪を利用する政治センス”」という裏設定を知っていた私からすれば、ここが最大の押しどころだった。
「私はただ、未来の滅亡を避けたいだけです。誰の恋路にも、邪魔をする気はありません」
「……そうか。ならば見守らせてもらおう」
──ルート分岐成功。
「王子からの敵対フラグ」を解除!
(ふふ……私はもう、誰かの“噛ませ役”にはならない)
一方その頃、学園の塔の最上階では。
リリアーナが鏡に向かい、こう呟いていた。
「やっぱり、エリシアは手強いわね。
でも、私の“裏設定”は……誰にも知られていない」
鏡に映るのは、ヒロインではなく、黒い羽を持つ少女の影。
リリアーナの裏設定──
それは、王国滅亡の元凶“堕天の契約者”であり、全ルートの真のラスボス。
「私の完璧な世界のために、邪魔者は全員排除する。
たとえ……前世のライバルであっても」