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天城優輝は、窓の外に広がる灰色の街並みを見つめていた。彼の視線はどこか遠く、心の中は嵐のように揺れている。15歳の誕生日に告げられた、過去最低のZランク──それは単なる数字ではなかった。彼の存在価値そのものを否定されたに等しかった。
「こんなはずじゃない……」
そう呟いたが、虚しく空気に溶けていった。彼の周囲では、異能を持つ者たちが華々しく輝き、国のために力を振るっている。優輝にはその光景が遠い星のように見えた。彼自身には何の力もない。だが、それは表向きの話だった。
優輝には、「模倣」という隠された異能があった。周囲には知られていない、誰にも理解されない能力。異能者の力を模倣し、一時的に自分のものにできるが、成功率は低く、失敗すれば体が崩壊する危険もある。
今日も彼は、薄暗い部屋でひとり、己の限界に挑んでいた。心臓は激しく打ち、額には汗が浮かぶ。体を動かし、精神を集中し、過去の映像を頭に描く。模倣のためには、対象の能力を鮮明に記憶し、その動作や感覚を完璧に再現しなければならない。だが、彼はいつも途中で破綻し、強烈な痛みに襲われて倒れ込んでしまう。
「諦めない……」
彼は自分に言い聞かせるように呟き、また立ち上がる。どんなに辛くても、努力し続けるしかないのだ。これが彼の唯一の武器。才能もない、血筋もない、ただの努力だけが彼を支えている。
ある日、彼は街で起きた異能者同士の衝突現場に偶然居合わせた。異能者たちのバトルは激しく、エネルギーの閃光が飛び交う。優輝は恐怖と興奮で心が震えた。これこそが、彼の憧れた世界だ。彼はその中で、模倣を使い初めての実戦に挑む決意を固める。
彼は目を閉じ、相手の能力の動きを全身で覚え、限界まで集中した。体に電流が走り、視界が歪む。成功すれば、彼はあの異能者と同じ力を使える。だが、失敗すれば……。
結果は激しい痛みと共に訪れた。体の一部が痙攣し、呼吸が苦しくなる。だが彼は倒れなかった。必死に耐え、痛みを乗り越えた。その瞬間、彼の体に小さな変化が現れた。指先にエネルギーの痕跡が残っていたのだ。
「やった……」
彼は小さな勝利を噛み締めた。周囲の異能者は彼の存在に気づかない。彼はまだ最弱だ。しかし、彼の内側では確かな成長が始まっていた。
それからの日々は、模倣の失敗と成功を繰り返す修羅の道だった。彼は己の限界を知り、それを超えるために努力を重ねた。周囲の嘲笑や無理解にも耐え、孤独な戦いを続けた。
やがて、彼の噂は国家の異能組織の耳にも届く。彼の能力に興味を持った組織は、彼をスカウトしようと動き出す。彼は自分の未来に再び希望を見出すが、同時に新たな試練と敵対者の存在を知ることになる。
優輝の物語は、ここから始まった。絶望の底から這い上がる少年が、模倣という危険な能力を武器に、国家と組織、そして異能バトルの渦中へと巻き込まれていく。