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美兄が襲われまして



 クエスタ辺境伯の領地はゼルデシア王国の北西に位置する。


 西は海と見紛う大きな湖があり他国へ渡る玄関口になる港をいくつも営んでいる。

 そして北は好戦的な大国との境になるが標高の高い山の峰々が連なり高原や渓谷を挟んでいるおかげで安易に攻められる心配はないが、魔物が多く住み、これらを定期的に討伐せねば領民が襲われる危険性があった。


 最も大きな港は交易船が頻繁に停泊し、そこから王都へ続く道が整備されており、交通の要衝でもある。


 岸辺が凍結してしまう冬を覗くと様々な人々が行きかう港を抱えているクエスタ辺境伯は国にとって重要な家門の一つだ。


 故に当主は一年の多くを領地で過ごす。


 そのめったにない当主不在の時に事件が起きた。



 事の発端は留守を守る本宅へある日先約なしに訪問者が現れたことだ。


 その者は自国の侯爵家の次男で、湖を挟んで向かい側にある友好国へ留学しており、休暇を得て王都へ戻るついでに立ち寄ったという。

 留学先の王族から辺境伯への土産を預かった言う令息を仕方なく邸内に迎え入れた。

 家臣が当主は王に呼ばれ登城しているゆえこのまま王都へ向かうよう説得したが、行き違いを防ぐために待つと主張し動かない。

 高位貴族の令息を放り出すわけにもいかず、客間を整えしばらく滞在してもらう事となった。


 男は身分を盾に我が家のようにくつろぎ、ある夜、とある部屋へ忍び込んだ。

 その場所は当主の嫡男、マリアーノの寝室だった。

 結局のところ彼の来訪の目的は絶世の美少年と名高いマリアーノ・クエスタを一目見ることだったのだ。


 どのような手を使ったのかはわからない。

 執念深く探した末に見つけ出し、就寝中のマリアーノを見るなり獣のように襲い掛かった。


 異変に気付いたのは、隣室で眠る妹のヴァレンシアだ。

 彼女は飛び込むなり、兄の上に乗る男の後頭部めがけて己の靴を投げつけた。


 力の加減をしたつもりだった。

 時間稼ぎ程度のつもりだった。


 しかしとっさの事であり、月の光が雲に隠されていたため、予想外にも。

 侯爵令息は打ち所が悪かったのかあっさり絶命してしまった。 



 男が当主へと携えていた品は、一年のほとんどを王都の邸宅で暮らし社交の仕事を担っている辺境伯夫人への手紙と宝飾だった。

 つまりは口実にもならないものだと知った家宰は迂闊にも男を屋敷内に招き入れてしまったことを後悔した。


 女性王族の一人が美貌の辺境伯夫人と古くから親交があり、普段なら別の使者が預かり直接王都へ運ぶものを辺境伯家と自分は親しい間柄だと嘘をつき強引に手に入れたことも、のちに分かったのだが。


 まず侯爵家はヴァレンシアの除籍及び平民への降格とクエスタ家から多額の慰謝料を払わせるよう訴えた。

 しかし、勝手に部屋へ侵入し狼藉を働いたのは事実。

 高位貴族たちが立ち会う貴族裁判へと発展した。

 


 結局、国をぐるりと取り囲んで護る五大辺境伯たちがヴァレンシアを擁護し、兄を護った立派な妹だと裁定され、しかも取り調べの結果侯爵令息がプペルから買い取った魔石装飾を使って子どもたちの部屋へ侵入したこと、自国他国問わずあちこちで少年を漁り性的虐待をしていたこと、さらに掘り下げるなら加害者の父親自身、プペルの共同経営者ともいえる関係だったことが発覚し、領地没収と名ばかりの男爵への降格処分を受けた。

 その後、暴利をむさぼった侯爵一門の行方は知れない。

 もともと評判のよくない家門であったため、これまた国の中が清められたこととなる。



 これにより、十歳にしてヴァレンシア・クエスタの名は広く知られた。



 ちなみに、すでに武骨な辺境伯たちのアイドルだったヴァレンシアは同じく脳筋な辺境騎士たちの幼神として崇められ、密かに小さな絵姿が売られている。それをお守りとして懐に入れて出陣すれば難を逃れることができるとまで噂された。


 そんななか辺境伯夫人はこの事件を知ると激怒して夫にマリアーノの警備体制が甘すぎると詰め寄り、更にヴァレンシアには淑女教育が足りていないようねと花開くように笑いかけた。


 そして、ヴァレンシアは度々辺境伯夫人直々の教育をみっちり受ける羽目になり、鬼神の身体に淑女の鎧をまとう令嬢へと進化した。


 とはいえ。

 中身はいたって魔獣の首を掴んで走る野生児のままだったのだが。



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