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「斥候の報告では下級魔物の巣しかいないと聞いていた場所でスタンピードが起きました」


「それで父はやられたか。北の方で煙が上がっているのが見えた。場所はそこか」


「はい。実はまだ完了していません。かと言って撤退せねばならないほどの状況ではないのです」


 ゆえにヨセフをはじめクエスタで選りすぐりの魔導師三人がこの洞窟にとどまったままでいられる。


 戦力を裂いても問題ないが、本邸へ父負傷の知らせは瞬時に届けられなかった。

 理由は伝令能力に長けた魔導師が父と共にやられたからだ。

 魔道具も破壊され、代わりに早馬を駆けさせたという。


「それは、確かに妙だな」


 顎に手をあてて、人差し指をとんとんと叩く。


「…兄、もしくは私をおびき出すためか」


 これは明らかに罠だろう。

 偶然と言うには出来過ぎている。


 敵の計画としてはこうだ。


 まず父を魔物に殺させ、あらゆる意味で討伐隊の力を削ぐ。

 次に伝令がすぐに届かないよう細工する。

 それにより当主急死の報が時間をかけて本邸へ届き、対処が遅れる。

 おそらく、そこから王都に滞在しているヴァレンシアが王宮魔導師もしくは魔塔に金を積んでの最上級転移魔法で瞬時帰国までどれだけかかるかを敵は計算している筈だ。


 ただし、兄が獣人に攫われたのは予想外でいま既に自分がここにいるのも予定外。

 豪快に魔物に食われたはずの父が生きているのも。


 勝機はまだクエスタにある。


 考えを巡らせたのち、ヴァレンシアは結論を出す。


「討伐隊をとどまらせるために今はわざと弱い魔物を撒いているに違いない。ようは時間稼ぎだ」


 あっさりクエスタの騎士たちを全滅させてしまうと国の問題へと発展し、北の辺境伯や王の騎士団が動いてしまう。

 そうさせないために、『自力で対処できるかもしれない』ぎりぎりの状態を引っ張っているということか。


「多分第二のスタンピードの準備をしている段階だろう。そしてそれはすぐには放てないということか」


「それでは…」


「考えられるのはマルティナとマリアーノとクエスタ領内の統治権を手に入れること。まあ、ようは十中八九ビルバオが仕掛けたな」


 第二のスタンピードでヴァレンシアを殺してしまえば、護るべき佳人二人と旨味のある港が残る。

 容易に手に入れられると思ったか。


「ずいぶんと舐められたものだ」


 ヴァレンシアは嗤う。


「アルバロ・クエスタが魔物なぞに食われて死んだとなればそれこそ国の終わりだ。王も黙っていないだろうに」


 たかが伯爵の死。

 そう思えばこそそんな杜撰な計画をたてて実行に移し、成功できると信じられるのだろう。


「話はわかった。お前たちは引き続き父を守れ。私がその巣とやらに行ってみよう」


「ヴァレンシア様!」


 ヨセフたちは顔色を変え、声を上げた。


「お前たちも知っての通り、私もちょっとやそっとでは死なない。父と同じ呪いを受けているからな」


 内臓全て失ってもなお、生き続ける。

 これを呪いと言わずしてなんとする。


「案ずるな。父より若い分、私の方が強い」 


 魔方陣の中に横たわるアルバロの指がびくりと動いたのをイヴァンは見た。





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