私たち、悲しみに散った桜の精と人間だけど、生まれ変わって再会出来ました!ー桜かさね恋あわせー
※「仙道企画その6」参加作品です。後半に歌詞があります。
「うわっ、みて。このあたり一帯、昔は湾だったんだって。うちってば、海の底だったのね!」
飾られた古い地図を見て、別の班のコが声をあげている。
「地名に"さんずい"ついてるとこって、元は水関係だって言うよな。巨大地震きたら、液状化現象に気をつけろな」
「気をつけてどうにかなるもんでもないでしょ。避難一択よ」
「おい、そこ。静かにしろ」
先生の注意が飛んだ。
校外学習で、郷土資料館に来ている。
街の歴史を学ぶため、集められた古い道具や過去の地図、歴史書なんかを見て回り、最終的にはレポートにまとめて、班ごとに発表だ。
「カナ。良いのあった?」
「う、うん」
「って、どうしたの? なんで泣いてるの? しんどいの?」
親友のあさぎちゃんの声に、周りがザワッと注目してくる。
「な、なんでもないの。なんかこのお話読んだら、悲しい気持ちになっちゃって……」
「ええ? ええと、伝承集? つまり昔ばなし的な? えっ、これで?」
私が手に持つ資料集を覗き込み、あさぎちゃんが言った。
自分でも、なんで涙がこぼれたのかわからない。
ただすごく辛くなって、読んだお話が頭から離れず、立ち尽くしてしまっていた。
「体調が良くないのかもよ。無理せず、休憩してなよ」
あさぎちゃんが心配そうに私を、談話用のソファに誘導する。
郷土館のロビーにある休憩スペースは、自販機もあって、座って休めるようになっていた。
「ついててあげたいけど、うちの班、まとめ入ったみたいだから、ちょっと行ってくるね。先生とカナの班の子には伝えとくから」
「ありがとう、あさぎちゃん」
にこっと頷いて、あさぎちゃんは戻っていった。その背中を見送って、気付く。
「あっ、伝承の本、持ってきちゃった」
(まあいいか。帰るまでに返そう)
ぱらり、と、さっき読んだページをめくる。
(ほんと何の変哲もない、単なる"昔ばなし"なのに──)
内容はというと。
昔、街を見下ろす丘に、ひときわ大きく立派な"桜の古木"があったらしい。
"千年桜"と呼ばれたその木は、いまはもう無く、かわりにたくさんの桜たちが植えられていて、シーズンには花見客でにぎわう人気スポットになっている。
満開の桜が咲き揃うと本当に見事らしいんだけど、私はなんとなくその場所が苦手で、これまでも足を運ぶことなく避けて来た。
人混みがイヤなのか、高いところがイヤなのか。
昔ばなしは、かつてあったという高台の"桜の古木"に関する逸話だ。
一説において、桜の名の由来は、「サ」、「クラ」という言葉に分けられる。
「サ」は田の神様、「クラ」は神様の坐す場所、鞍を意味するという。
五月雨や早乙女につく「サ」も、田の神様がらみの単語だ。
季節になると山の神が里に下り、田の神こと稲の穀霊となることで豊作がもたらされると言われている。
高台の古木は、神様が宿る神聖な桜だと言われていた。
そして麓の村には、苦しい生活をしている少女がいて……。
早くに両親を亡くし、長者の家で下働きをしていた彼女は、屋敷の人間たちに酷く当たられていた。
(いまで言う、ドアマットね)
このくだりで既に目を逸らしたくなるくらい辛い。こんなに感情移入するタイプだったっけ、と自分でも思う程、その昔ばなしが胸を締め付けてくる。
身寄りのなかった彼女は、よく桜の木のもとに泣きに来ては、木のあたたかさや香りに癒され、なんとか日々を過ごしていた。
けれどある日、決定的なことが起こる。
長者の屋敷で盗みがあり、犯人として疑われたのだ。
娘の無実は後で判明するのだが、その時は大勢に囲まれ、「白状しろ」と打ち据えられて、息も絶え絶え、逃げ出したらしい。
そして桜の根本で息絶えた。
(無理ッ……!)
ぶわっと全身が哀しみで覆われる。
昔ばなしによると、桜の神様? 桜の木の精? とにかく人為を越えた存在と、かの少女は想い合っていたらしい。
娘の死を悼み、怒った桜の木は雨雲を呼び、村は数日激しい雨に襲われた。
そして最後は。
桜の大木は落雷を呼んで、娘の亡骸もろとも、燃え上がったらしい。
娘のあとを桜が追った、と、言われている。
これが丘に、"千年桜"がなくなった理由。
桜は娘と一緒に、灰と化して消えたのだ。
(うっううう、ここでもう限界)
私の涙腺は、再び崩壊し始める。
桜の木を失った村は、田の神様を呼べなくなった。その年以降不作が続き、とうとう村をあげて神と娘に許しを請い、鎮魂を込めて、桜の若木たちを丘に植える。
それこそが、今の名所スポット、桜の丘の始まりだ。
娘を冤罪で追い込んだ長者の家は、村人たちから怒りを買い、惨めに落ちぶれたようだけど……。
(そうなる前に、娘と桜を助けて欲しかったわ──)
えぐえぐと鼻を啜っていると。
「あの、大丈夫ですか?」
気遣う声と共に、ハンカチが差し出された。
驚いて顔を上げた途端。
(桜の精──?)
違う、違う。普通に同じ年位の男子だ。
(他校の生徒? けど……)
私の目は、釘づけになった。
何を驚いているのか、相手の男の子も目を見開いて、私を凝視している。
「やっと会えた……」
ぽつり、彼が呟いた。
「え?」
「え? あれ、俺、何を……」
私と彼はしばらく互いを窺っていたけれど。
私が持ってる伝承集に気づいた少年が、
「あ、それ、俺が気になる昔ばなしが載ってるやつ」
と言ったところから会話が始まり。
お互い同じ昔ばなしが心にかかっていたと判明して、私たちはどちらからともなく、自己紹介しあった後。
連絡先まで交換しちゃった。自分の勢いにびっくり。
「あの日、心配してたのに。カナってば、ちゃっかり彼氏作っちゃうなんて」
「彼氏じゃないってば」
「でも、今度デートするんでしょ? 例の桜の丘で。私が何度誘っても、"あの丘ニガテ"って、行ってくれなかった場所じゃない」
「う、うーん。昔ばなしの流れから、誘われたの。今まで行かず嫌いだったけど、勇気出すことにしたんだ。もし行って平気だったら、次からは一緒に行こう? あさぎちゃん」
「どうせ私の扱いは、二番目よね~」
「違うって、そうじゃないよぉ。機嫌直してよぉぉ」
拗ねたように口を尖らせるあさぎちゃんを宥めながら、自分でも不思議だったけど。
その後、彼と訪れた丘で、空いっぱいに広がる桜の花と、満開の薄紅色にすっかり魅了されて。
桜の丘は、私にとって特別な場所になった。
私はもう、昔ばなしを読んでも泣かなくなったし。
桜を見ると安心して、彼と一緒にいる時みたいに、幸せな気持ちになれるようになった。
私、桜が大好きだわ。
彼の次くらいに!!
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空を染め上げるほど 満開の薄紅色
街を見下ろす丘の 千年桜の樹
遠い昔にあった 恋の物語では
桜の精と人間の娘 結ばれずともに散った
そんな、なんてことのない昔話だと思ってたけど
苦しく甘く胸、締め付ける
出会った相手から私 目をそらせないでいるの
生まれ変われるのなら添い遂げたいねと
あの日交わした約束 今この時、蘇える
遭いたかったあなたと もう離れないわ
ふたりの時間 取り戻した
(AIイラスト作成:仙道アリマサ様)
お読みいただき有難うございました!
ぽっと出の彼氏くんにカナをとられたあさぎちゃん。仁義なき戦いが今はじまる──?
「ぽっと出じゃない。こっちは千年越しだ!」by.桜の精
という冗談はさておき、というわけで「仙道企画その6」参加作品でしたーっっ。
このたびは仙道アリマサ様(ID:2082320)に多大なご迷惑をお掛けし、下げた頭を上げることが出来ません!
春の企画だったのです(遠い目)。参加表明して、詩を途中まで書いたまま、どうしても「ラララ」の音符の数と、歌詞が合わず「出来ないぃぃぃ」と凍結させていたところ。優しい仙道様にたくさん助けていただいて、無事、日の目を見る栄誉に預かりましたー!
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動画ココです。★の下にAI画像とリンク貼ってますので、どうぞ曲を聞いていってくださいませ!
https://www.youtube.com/watch?v=OFk8Yh43kBE
仙道様、このたびは本当に有難うございました!!
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曲名の「桜襲 恋合わせ」は、かさね=繰り返す、貝合わせ=運命の相手 みたいなイメージでつけました。桜の花びらが重なるとキレイだなぁと想像しながら。koiとkaiは響き似てるし。←