①
「早くおきろー!」
そんな言葉と同時に俺の身体に衝撃がやってきて現実の世界に引き戻される。
「いてえな」
仰向けで寝ている俺に容赦なさすぎだろ。
もっと、優しく起こしてくれ。
いや、起こすなよ。
「早く!起きて!」
年上のお兄さんに、遠慮のないくそ生意気な無駄に魔法が使える女子中学生は、
「見回り行くよ」
本当に容赦ねえな。
昨日の酒が残ってんじゃねえかな。
「ていうかさ、今日いつもより早くね」
まだ、くそ眠いんだけど。
「うん。だってまだ三時だもん」
当たり前のように、さらっと言うんじゃねえよ。
「ふざけんなよ。なんで早いんだよ」
「なんでって」
「起きちゃったから」
「てへっ!」
自分の右手をグーにして頭を叩いて可愛らしくリアクションしやがった。
「てへじゃねえよ。このくそガキ!」
たくさんの文句の束をなんとか飲み込んで、今日もこいつと魔法使いの日課の見回りとやらをするか。なんもねえよ。このくそ田舎は。
はあ、まじで面倒くせえな。
「今日は俺を空から落とすなよ」
毎回死ぬ思いしてんだから。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん丈夫じゃん」
しれっと軽く言いやがって。
「アホか。俺は壊れやすいんだよ。デリケートなんだから優しくしろ」
俺は両手を腰に添えて偉そうに言う。
「アラサーが何言ってんの。引くんだけど」
口を両手で押さえながら引いている魔法使いの少女は、
「いいから行くよおっさん」
早くしてよと言わんばかりに俺をせかしてくる。
「誰がおっさんだよ。格好いいお兄さんに訂正しろ」
待ってましたと言わんばかりに、
「いやだ! おっさん!」
女の子は元気よく嬉しそうにおっさんを強調して言ってくる。
まだ、20代だっていうのに、若い子からしたらもう俺はおっさんなのか。だとしてもこいつに言われるのか気に食わん。ぶっ飛ばす。
「ねえ」
ジト目で俺を見てくる。
「なんだよ」
「可愛くて可憐な女の子をぶっ飛ばそうと思ってる?」
可愛くて可憐な女の子は何処にいるんだよ? 誰か教えてくれよ。
「だったらどうだって言うんだよ」
「返り討ちにするから」
俺を睨み付けながら力強く言い放ってくる。
「怖いこと言うなよ」
これ以上喧嘩売るのは止めておこう。
「悪かったって。早く行こうぜ」
俺は手を上げて降参のポーズをとる。
「先に下に行ってるから早く来てね!」
「ああ」
永久に行きたくないけど。
まあ、女の子を怒らせたくないから大人しく言うこと聞くか。
まあでも、あいつは普通の女の子じゃないからな。
まあでも覚えておけよ。
女子中学生の魔法使い魔法院真衣。お見知りおきだぜ。