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エレベーター
その日私は35階でエレベーターに乗り込んだ。
33階で、父子が乗り込んで来た。
エレベーターの中、父親が息子の背中をトントンと叩いている。
そのリズムが、エレベーターの降下のカウントと一致して、カウントダウンをしている様に感じる。
30.29.28...父親の腕の中にいた子供がどんどんと小さくなっていく。
20.19.18...父親は気付かない様だ。すでに子供の姿は、母親の体内に居るときのよう。
15.14.13...子供の姿は、すでに豆粒ほどだ。
チーン、という音で8階に止まり、父子は降りていく。
私は1階で降り、外に出ると8階を見上げて目を細めた。
8階からはキラキラした光がいくつか飛び出して、そのうち一つが私のお腹めがけて飛んで来た。
私は身ごもったのだ。