再会
トイレから帰ってきた。スレが落ちなくてよかった。続きを書いていくね。
秋葉原のビジネスホテルで泊まって、翌日に新幹線で地元に帰った。東京駅のお土産屋さんでお菓子を見ていた。職場と家族に買って帰ろうと思っていた。無難に東京ばななにしようと決めた。
「イッチ?」
私の横で男性の声が聞こえる。その声は、1年間聞いていた声。懐かしい声である。横に立っていたのは、ヨシ先輩(仮名)だった。ヨシ先輩は2学年上の先輩である。ヨシ先輩が卒業してから、数年間会っていなかった。メールのやりとりはしていた。声を聞いたのは久しぶりだった。
「イッチだよな?」
「はい、イッチです。お久しぶりです先輩」
お土産を買って、地下のカフェに移動した。向かい合わせに座った。ヨシ先輩は、大人びていた。入社式にスーツ姿の写真が送られてきたのが最後だった。あれから数年、すっかり大人の男性になっていた。
「何年ぶりに会う?」
「先輩が高校卒業してからなので、数年ぶりに会いますね」
「イッチは変わらないな」
「そうですか?」
ヨシ先輩は頷いた。
「今は何してんの?」
「普通に働いてますよ。先輩は?」
「俺は〇〇(都内の某所)のカラオケ店で働いてるよ」
聞くところによると、ヨシ先輩は卒業後、某飲食店に入社したが、人間関係が原因で退職し、職を転々としていた。今はカラオケ店の店員である。
ヨシ先輩のスペックを書いておく。
ヨシ先輩 20代男性、先輩、カラオケ店店員
彼の風貌は変わっていた。背が高いひょろい体の短髪メガネの先輩が、少しふっくらした金髪ロン毛の男になっていた。背が高いから余計ガラが悪く見える。
「先輩めっちゃ変わりましたね」
「そうかな?」
「ふっくらしてますよ」
「それを言うなよ。結構気にしてるんだから」
私はふふふと笑った。
ケータイのバイブレーションが鳴った。オカンからメールが届いてた。「駅に着いた?」「何時に出発するの?」「おばさんにもお土産買って」などと、大量のメールが届いている。次第に動悸が止まらなくなった。ヨシ先輩は顔を覗き込んだ。
「イッチ大丈夫?」
「何がですか?」
「イッチの顔色が悪い」
動悸が止まらない。言葉を詰まらせながら、ヨシ先輩にオカンのことを洗いざらい話した。ヨシ先輩は黙って聞いてくれた。オカンのメールを見せた。
「なんだこれ」とヨシ先輩は驚いていた。それもそうだ。こんな大量のメールを送るのはメンヘラな女子かオカンだけだと思う。
「これ全部オカンからですよ」
「イッチの母親からのメール?」
「そうです」
「家を出よう。イッチのためだよ」
「無理ですよ。あの人たちしつこいですから」
家出をしたことが一度だけある。あれは家出未遂だった。祖母と口喧嘩をして、リュックに必要最小限の荷物とお金を入れ、バスに乗った。行先は駅だった。そこから新幹線の切符を買って東京に行こうとしたのだ。バスの乗車中にメールと電話の着信音が鳴りやまなかった。バイブレーションにしても、バスの中はうるさかった。
祖母は泣きながら「私が悪かった。戻ってきてほしい」と電話をかけていた。「いったん戻ってきて」などと大量のメールを送るオカン。これを振り切ると地獄の底までやってくると思う。しつこく連絡を寄越されるのが嫌なので、私は自宅に戻った。
「何かあったら東京に来ればいい。俺助けるよ」
「ありがとうございます」
新幹線の乗車時間が迫っていた。私たちはカフェを出た。
「じゃあ、失礼します」と私は会釈した。
ヨシ先輩は「待って」と止めた。ヨシ先輩はジャケットからガラケーを取り出す。
「メール変えたんだ。新しいメール教えるよ」
「あ、ありがとうございます」
ガラケーにヨシ先輩の新メールを入力した。
「何かあったらメールしろよ」
「はい!」
ヨシ先輩とカフェの前で別れた。私は手を振った。先輩が小さくなるまで手を振り続け、新幹線に乗った。




