表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

STORIES 043:電車には乗らずに夕食を

作者: 雨崎紫音

STORIES 043

挿絵(By みてみん)



よく晴れた土曜、夏休み直前。


その頃の学校は、週5日制だった。

土曜は午前だけでおしまい。

授業が終わる頃には、休日よりも開放感でいっぱい。


もうすぐ夏休みだし、特にね。


HR前の掃除の時間。

箒とスリッパでホッケーなんかに興じていると、仲の良い友達が駆け寄ってきた。


「今日さ、あのコたち海まで泳ぎに行くんだって。」


どこで聞き出してきたのだろう。

顔をパァッと輝かせながら。


…あ、よそ見してたから。

スリッパが廊下の端のほうまで吹っ飛ばされた…


.


K君は別のクラスのコに恋をしている。


共通の友人はいたけれど、話しかける機会もないまま。

もう今年も1学期を終えようとしていた。


こんなにいい天気で、午後に海、ね。


「じゃあさ、俺らも行こうぜ。

 何食わぬ顔して合流しちゃえばいいっしょ。」


「いや、でも、何で来たの?ってなるんじゃない?」


「ダ〜イジョブだって。

 偶然会ったことにしちゃえばいいんだよ。

 こんなチャンスないぜ。」


決まり。

こんな面白いネタ、逃してなるものか。


急いでそれぞれの家に帰り、支度を済ませてから駅で待ち合わせる。


電車で移動して…


目的地の最寄駅からはタクシー。

バスを待つ余裕はないからね。


急げ急げ…


.


海へ着いた。

あの遠くに見える3人組じゃない?


チャチャっと水着に着替えて歩き出そうとする俺を、K君がグイと引き戻す。


「おいおい、ノープランで勝手に行くなってば。

 やっぱ帰りたい…

 どういう顔したらいいか全然わかんないよ。」


「ここまで来て何いってんの。何とかなるって。」


戸惑う彼を、まだこちらに気付いていない彼女たちの方へ引っ張ってゆく。


「お〜い♪」


「あれ?どうしたの、ふたりして。」


彼女たちのうち、1人は同じクラスだからよく話す。


「海に行くなんて話が聞こえてきてさ、

 俺らも泳ぎに行きたいな、ってなってさ。」


見事なまでのノープラン。


潔くていいじゃない。考えてる時間もなかったしね。

いや、わかったから背中つねるなって。

大丈夫だから、たぶん。


たまたま通りかかったバイクが何台か停まって、こちらに声をかけてくる。


「よぉ、お前ら泳ぎに来てたの?」


「そう!天気もいいし、気持ちいいよ!

 それにしても、同級生とたくさん会うねぇ」


そんな感じだったから、全く違和感なし。

結果オーライ、良かったじゃん。


しかし水着の女のコ、俺までドキッとするよ。

そういえば、俺もこういうの初めてか…


陽が傾くまでの楽しい時間。

あの頃、土曜の午後って長かったなぁ。


.


一緒にバスで駅まで戻ることになった。

歩いて帰れる距離のコが1人減って、4人で駅へ。


車中でこっそり作戦会議…


楽しかったけどさ、これで終わりじゃ物足りないよね。

あんまりあのコと話せてないんじゃないの?

いやもう、今日は充分、いっぱいいっぱいだけど…


なんて。


田舎の小さな駅。

それでもここは、少し駅前商店街が充実しているほう。


あ、上りの電車きてるよ、ホームに。

走れば間に合うね、たぶん。(走らんけど)


ほら、あ、閉まるね、閉まれ…


思惑通りドアは閉まり、上り電車は走り去る。

次の電車までは30分以上。


「もうさぁ、ゆっくりなんか食べていこーか。ねぇ?」


「そうだねー。そうしようか。」


極めて自然な流れだな。

よしよし。


K君を振り返ると、ガッツポーズを出しそうな勢いで満面の笑みを浮かべている。


.


4人でテーブルを囲みながら、いろいろ話した。

やっぱり座って落ち着けると、雰囲気も違うよね。


かわいいね、彼女。

友達になれてよかったじゃん。


その場は、あからさまには煽らないことにした。

というより、自分もね。

自然にワイワイと楽しく過ごしていた感じかな。


とても長い土曜日の午後。

少しだけ日焼けした肌と、ピザやパスタの並ぶ賑やかなテーブル。


楽しいよね、こういうの。


.


夏が終わり、風が少し冷たく感じられ始めた頃…


彼らは付き合い始めた。

いい雰囲気だったからね。

すぐ両思いになったみたい。


うらやましい…

いや、なんとなく悔しい気もするなぁ。


卒業まで、あと半年くらい。

そこからは彼ら2人だけの物語で…


.


あの4人で食事した駅前通りの店。

いまでもまだ残ってるかな?


もう場所も名前も思い出せないけれど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ