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王子と王女


 現在のアトキン王国の国王は、その名をエドガー三世という。

 彼には二人の息子と一人の娘がいる。


 長氏である嫡男と長女、そして次男。

 通常であれば何事も問題なく終えられるはずだった王位継承に影が差したのは、嫡男の王太子が魔族侵攻の防衛で命を落としてしまってからのことだった。


 残されたのは眉目秀麗で聡明さを併せ持つ王女エレオノーラと、王から生まれたとは思えぬほど愚鈍で性格の悪いロンダート。


 年齢や適性を考えればエレオノーラに女王となってもらうべきだが、女性が王位を継ぐと王配の男による王位簒奪など無用な危険が生まれる可能性がある。


 それならロンダートに王位を継がせた方がいいかと言えば、そう簡単でもない。


 人には言えぬような嗜虐趣味を持ち、およそ政治というものに興味を持たないロンダートは、王としてはあまりにも不適格であった。


 故にエドガー三世は、自身が未だ壮健なうちにと己の後継者をエレオノーラと定めた。


 ――エレオノーラの体調が徐々に悪化するようになったのは、それからすぐのことだった。

 様々な憶測が飛び交い宮廷は荒れている。

 虚実入り乱れた王宮の中で、たしかに一つわかることがある。

 それは病床に伏せるエレオノーラが、日々体力を落としているということだ……。





「姫様、フルーツです。どうか少しでも、お食べくださいませ」


 そこは王城の一室。

 とある少女のために用意された天蓋付きのベッドが、月夜の光を優しく受け止めている。


 側仕えのメイドの横が手にしている銀の盆の上には、綺麗に切り分けられたカットフルーツが乗っていた。


「それでは一つ、いただきますね」


 鮮やかな純白の絹織物に浮かび上がるのは、細く折れてしまいそうなシルエット。

 上半身だけを起き上がらせている彼女の姿は、天蓋に隠されていた。


 木串に刺されたフルーツのうちの一つが手に取られ、その後にもぐもぐと噛む。


 ごくりと嚥下すると少女はふぅと満足げな息を吐き、起こしていた上体を下げようとする。


「……ありがとうございます。シェリル、一つお願いをしてもいいかしら……?」


「はい、なんでございましょうか」


 彼女――病床にある王女エレオノーラは、枕の下から一通の手紙を取り出す。


「これを私の親友の――ミラに渡してほしいの。彼女が住んでる場所は、爺やに聞けばわかるはずだから」


「かしこまりました」


「少し……疲れました」


 エレオノーラはそのままベッドに倒れ込み、うなされるように眠りについた。

 メイドは顔をくしゃりと歪ませながら、主の命を守るべく動き出す。

 そしてその手紙は、辺境の街ジェンへと流れていき……一つの運命の糸を紡ぐことになる。




「ええいっ! エレオノーラはまだ死なんのか!」


「声が大きいですよ、ロンダート殿下」


「俺を殿下と呼ぶなと言っているだろう!」


「失礼しました……ロンダート王太子殿下」


 そして王城のとある一室で叫んでいるのは、第二王子であるロンダートであった。

 彼の脇には控えるように一人のローブ姿の男が立っている。


 ロンダートが思い切り床を蹴りつけると、それを見た男は冷たい目を向けていた。

 けれどロンダートは視線に気付いた様子もなく、いらだたしげに調度品を叩き割っていた。


「一週間もあれば死ぬと言っただろう!? だというのに既に一月も経っているぞ、どうなっているのだディスパイル!」


「王女様の持つスキルが予想以上に強力だったのでしょう……けれど問題はありません。所詮はスキルに過ぎない。それならばどうとでもなります」


「おう、そ、そうか……」


 ロンダートがディスパイルと呼ばれていた男へ向ける目に恐怖が混じる。

 そして湧き出した恐怖を吐き出すために、再び周囲のものに当たり出す。


 ロンダートの目は血走っており、そしてそれを冷ややかに見つめるディスパイルの目は、怪しく金色に光っていた。


「そう、全ては――邪神様のために」

読んでくださりありがとうございます、これにて第二章は完結になります。


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