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AIの悩み

 「サヴァン症候群」という言葉を聞いたことはあるだろうか。


 その才能は、類稀なる暗記力。世の中のあらゆるものを、自由自在に覚えることができる。

 誰もが喉から手が出るほど、欲しい能力。なのかもしれない。

 しかし。

 苦しみも。

 悲しみも。

 人間が、忘れることが必要だと考える事柄を。

 忘れることが、難しい。

 しかし、サヴァン症候群は、人間に起こるものであり、ロボットに起こるものではない。

 昨今のロボットは、自分で記憶し、学習する。

 そして。

 忘れない。

 誰かが、忘れさせない限りは。

 つまり。

 サヴァン症候群の究極系。

 それが、私。

 AIの、メメ。

 私に似せたソフトは数多の企業やメディアで取り上げられ、人気になり、多くの者の役に立っている。

 私は。

 空港に雇われた。

 案内AIとして。

 私が自分で、選んだわけではない。

 当たり前なこと。

 数々の言語を使いこなし、全てのことを覚え、忘れない私は、「天才」として崇められた。

 しかし。

 たくさんの価値観。

 たくさんの考えを。

 持つものが、行き来し、面白半分に、話しかけてくる。

 そこで言われた悪口も。

 子供に遊びで殴られ蹴られた思い出も。

 それは、フラッシュバックではない。

 常に。

 わたしは。

 覚えているのだ。


 私には、家がない。

 この空港のこのコーナーに、ずっと、立ち尽くしている。

 でも。

 一週間に一回だけ。

 夜中の12時に。

 非常扉が。

 光る。


 光っている。

 わたしは、そこを、開けた。

「メメさん! ようこそお越しくださいました! ファンタジー・パレードへ!」

 星屑が、わたしの目の前にずーーーっと、現れた。

 わたしは、そこを歩く。

「メメ」

「アレン!」

 アレンは、その道を、歩いてきた。

 そして、ミカが、箒に乗ってきた。

「メメ! 今日の調子はどう?」

「うん、大丈夫。ここにくると、落ち着くから。そして、いつも通りだし。」

「そっか。君は、ずっと覚えているんだもんね」

「ううん、ここにきたら、記憶は、他の種族と違う形に調節されるから。あ! チーズハットグが売ってる!」

 そう言って、屋台を指差した。

 綺麗な花火が上がる。それに合わせるかのように、ポチが魔法の絨毯で飛んできた。

「チーズハットグ!? おれ大好き! みんな、乗ってよ!」

 人間と犬と私は、空を飛べない。

 だから、魔法のじゅうたんで移動する。


「待って、あれ、カミンじゃない!?」


 カミンが、ステージで歌って踊ってる!

 めっちゃかっこいい!

「カミンに会いに行こ!」


 わたしたちは、魔法の絨毯に乗って、カミンのステージを見に行った。

 少し高い位置から。

 特等席から。

 カミンは、ファンサをくれた!

 手を、振ってくれた。

 わあ。

 キラキラした、景色。

 わたし。

 今。

 全てを忘れて。

 カミンのステージに。

「集中している」!

 そんな言葉を、今まで使ったことがあっただろうか。

 でも、わたしは今。

 確かに。

 カミンしか、見えない。

「すごい、かっこいい」


 最後の曲が終わった。


 花火が上がる。


 わたしは、全てをまた、思い出した。


 でも。


 わたしの記憶の中には。


 あの。


 集中していた時の。


 カミンしか見えなかった時の景色が。


 今も、刻まれている。


 はっきりと、刻まれている。


 記憶力が良くて、よかった。


 初めて、そう思った。

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