表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

smile ―レイ―

 アイの身体にある小さな陰。

 その小さな陰が、遠くない未来、アイの命を奪う。

 変えられない、未来。


 アイの入った施設。

 ここでは、治療は行われていない。

 患者の苦しみを取り除くだけ。

 できるだけ安らかな死を迎えられるようにするだけ。

 生きて退院する人はいない。

 希望を持った人も、いない。


 アイがそんな場所にいる意味は……………絶望。


 アイがここに入ってから、2ヶ月。

 僕が知っているだけで、5人、亡くなっている。


 ――地獄だ……。


 そんな呟きを漏らした僕に、看護の人が笑いかけた。


 『違うわ。ここは天国に一番近い場所なのよ』


 ――天国? 人の死が日常の場所が? 本当の笑顔がない場所が?


 『そう。みんな苦しまずに、安らかに亡くなったんだから。やっと、心の苦しみからも解放されたんだから』


 そうなんだ。

 どんなに身体の痛みを抑えても、心の痛みは消せない。

 アイは、どんな想いで、僕たちに笑いかけているんだろう。

 どんな苦しみを、かくしているんだろう。



 少し前、アイは『新しい友達よ』って、スズさんを紹介してくれた。

 すごくきれいで、無垢な笑顔の女の子だった。

 どうして、そんな笑顔ができるのか、僕にはどうしてもわからなかった。

 わからないけど、なぜか、スズさんの無垢な笑顔は、悲しかった。

 悲しくて…………怖かった。

 怖くて、けれど、やっぱり、きれいだった。


 この、地獄で。

 もしくは、天国に一番近い場所で。


 笑顔を交わすアイとスズさん。

 どんな想いを、もっているんだろう。

 どんな苦しみを抱えているんだろう。


 結局、僕には何もわからない。

 だけど、わからなくてもいいんだと思う。

 今までだって、お互いに本当のことはわからなかったのだから。

 それでも、僕たちは親友だったのだから。


 そう。

 アイと、マナと、僕。

 三人は親友なんだ。

 いつまでだって、親友なんだから。


 だから、僕も笑顔でいよう。

 いつまでかはわからない。

 明日にも終わるかもしれない。

 その瞬間まで、笑顔でいればいいんだ。


 怖いぐらいに無垢で、悲しいくらいにきれいな、スズさんの笑顔。

 その笑顔は僕に大切なことを教えてくれた。

 アイが大好きだと言っていたスズさんの笑顔。

 それは、僕にとっても、大好きな笑顔になった。

読んでいただきありがとうございました。


貴重なお時間を費やしていただき感謝いたします。


気にいってただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ