旅立ち
俺は死んだ。
ある日のことだ。俺はいつも通り神事を行っていた。だが、その最中、何やらすごい形相で僕の親友兼宮司のである晴義を見ていた。
そして、遂にその男が俺たちの目の前へと来た。
次の瞬間、その男は懐からナイフを取りだし、晴義に向かってその刃を突き立てた。
俺は気づいた時には晴義の前に飛び出していた。
胸が熱い。だが、そうしてはいられない。その男は次のナイフへと手をかけているのだ。
俺は残りの体力を使い、その男を張り倒した。男は俺へと新たなナイフを突き立てる。だが、そんなことはどうでもいい。晴義が無事ならどうでもいい。
それから間もなくして、警備員がやってきた。俺の傍には晴義が俺の手を握りながら俺に声を必死に掛けていた。
「ひろ。ひろ!しっかりしろ!死ぬな。死ぬな」
俺の意識はどんどん遠のいていった。そして、暗闇へと落ちていく。走馬灯が頭の中を走り回った。そしてまた、晴義の泣き顔を見た。
「晴義、笑って」
晴義は泣きながらも笑ってくれた。俺の意識はその笑顔を最後に消えていった。
「──きて、起きて、起きて!」
俺はその声で目が覚めた。
辺りを見渡した。そこはどこかの部屋の一室のようだった。それと共に、俺の目の前に1人の女性がいた。
「はぁ、やっと起きてくれました」
「あの〜、貴方は?」
「私はフローリア。想像を司る神よ」
「か、神様!?これは大変失礼致しました。貴方様が神とは知らずこのような物言い、どうかお許し頂きたく……」
神だと聞いた瞬間、体が本能的に動き、俺は跪いた。頭の中では神の怒りに触れたかなど、色々な構想が飛び交った。
「許すも何も、私は別に気にしてないわよ。だから、気にしないで頂戴」
その慈悲に溢れた声を聞き、驚きのあまり顔を上げた。
「寛大な処置、ありがとうございます」
その神は不機嫌になるどころか、より親身になってくれていた。予想に反した行動で俺は困惑した。
「あの〜、普通に接して欲しいんですけど」
「あ、はい。フローリア様がそう仰るのであれば」
神の意向に反することはするはずもなく、その言葉通り普通に接した。
「それで、本題に入るのだけど、いいかしら?」
「はい」
「貴方には別の世界に行ってもらうわ」
「はぁ〜」
「リアクション薄いわね。転生よ、て・ん・せ・い! 何か思い当たらない」
「中世の魔法がある世界にでも行くんですか?」
転生と聞いて思いつくのは魔法載せかいくらいだった。俺は昔ラノベにハマっていた時期があり、その頃ちょうど読んでたのがそういうものだった。
「そうよ。よくわかってるじゃない!」
「え?ええええ!」
まさか、ほんとにそれだとは思わなかった。それだけでなく、実際に魔法が使えるという事実に胸が高鳴った。
「それじゃあ、早速だけどこれに触って」
そう言ってブローリア様が取り出したのは透明な推奨だ。どうやら、これで魂の質というものを測るらしい。
俺は水晶にそっと手を置いた。
すると、水晶は眩しい光を発し、1面その光に包まれた。
「こんなことって。でも、そうとしか……」
光が収まるとフローリア様は何やらぶつぶつと独り言を言い出した。ただ、何かが起きたことは事実だ。
「あのー、どうしたのですか?」
フローリア様は俺の言葉にビクッとなり、顔を震撼させながらもこちらを向いた。
「貴方、すごい質ね。こんなの数千年ぶりだわ。貴方、一体前世でどんの偉業を成し遂げていたのよ」
「これといって何をしたということもありません。ただ、奉職させていただいてました」
「ははぁ、なるほどね。それでか。あまりの信仰心の強さが理由ね」
何故か呆れられていた。何かそんなこと言っただろうか。
「取り敢えず、『ステータス・オープン』って言ってみて。そうしたらステータスが見れるはずよ」
「ステータス・オープン」
名前
種族 神獣
年齢
Lv.1
HP 1000/1000
MP 1200/1200
物理攻撃力(STR) 500
物理防御力(DEF) 300
魔法攻撃力(INT) 600
魔法防御力(MDEF) 800
運(DEX) 1000
魔法適正
スキル(MAXレベル100)
信仰心Lv.120
特殊スキル
レベル限界突破
称号
転生者
加護
「見えたかしら?これが貴方の今のステータスよ。そして、種族のところを見なさい」
目の先には神獣という文字があった。
「神獣って言うのは、あちらの世界で言う神様よ」
俺は驚きのあまり言葉を失った。
自分が神になるとは予想だにもしなかった。
「それで、ステータスの事なんだけど貴方が決める?膨大なステータスポイントを振り分けるの大変だと思うから、良かったら私がやるわよ」
「お願いします」
「何か希望はある?これが入れたいとか」
異世界で必要なもの…… 頭を捻って考える。生きてく上で必要なスキルを言っていった。
「言語理解のスキルや完全記憶のスキルってありますか?」
「ええ、あるわよ。他には何かある?」
「あとは、魔法が使ってみたいので魔法をお願いします。あとは、アイテムボックスくらいですかね」
「分かったわ。あとは、私に任せて頂戴。久々の大仕事に腕がなるわ。こんな逸材滅多にお目にかかれないもの」
それから、彼女は1人別室へと向かった。そこは時間の進む速さがここに比べて速いため、ゆっくり決められるかららしい。
そして、数十分後部屋からフローリア様がでてきた。
「お待たせー。ようやく終わったわよ。思いのほかステータスポイントが多くて焦ったわ」
「はぁ〜。おつかれです」
「それで、一つ質問なんだけど、なにかあちらの世界に持っていきたいものはある?」
「この今着ている狩衣一式をお願いします」
この狩衣は瑠璃色を基調とした絹織物で、空色の単と若緑色の袴といったもので、これは奉職祝いに晴義がくれたものだ。
「分かったわ」
何かを察したのか、フローリア様はそう一言だけ言った。
暫くの間しんみりとした時が流れた。俺自身も空気を変えないとと思い、フローリア様に話題をふろうとしていた時にそれは起こった。
突然、部屋が揺れだしたのだ。なんの前触れもなく揺れた。フローリア様は焦った様子で、顔を歪ませていた。
「大変なことになったわね。緊急事態よ。今から貴方をあちらの世界に送ることになったわ」
「どうされたのですか?」
「貴方の魂に勘づいたのか、邪神が貴方の魂を破壊しようとしているの。あちらの世界なら、神は非干渉だから貴方に害を与えることが出来ないわ」
「分かりました。短い間ですが、お世話になりました」
「ええ。幸多からんことを」
その言葉を最後に俺の意識は光となって消えた。