5話 平日にあえて休む勇気
暗い闇が世界を喰っていく。
徐々に広がるその穴の前でドヤ顔のラインはさらばとばかりに人差し指、中指を伸ばし頭の横へ持っていった。
しかしそこでリリアが動いた。
「【それキャンセルで】」
かざした手から赤い霧が吹き出し《世界渡りの回廊》を侵食していく。
そして後に残ったのはこめかみをひくつかせながら佇むラインだけだった。
「どうしてくれる!魔力を2日ためないと次の世界間移動は出来ないんだぞ!」
激昂するラインにリリアは言う。
「今のは危なかった」
「どういうことだ?」
カイセが問うとそちらを向いた。
「穴の奥に精霊が見えた。移動先を変えられていた可能性がある。」
「おいおいかなりやばかったじゃねぇか…」
その言葉に驚くカイセとライン。
精霊とは魔術師の成れの果て。
魔術に飲まれて存在が欠落することで成り上がるもの。
当然魔術師よりも魔術の深淵に近い存在で、亡霊のように動き続ける哀れな存在だ。
詳しくは明らかになっていないが機関では世界崩壊に関わっていると教えられた。
強力な魔術を代償なしに行使する、今の無防備だったカイセなど一瞬でお陀仏だったであろう。
「と、いうわけで近辺調査だ。」
あれから問題を棚上げし方針を決める段になって、ラインが言う。
「んぁ?結局一緒に来んのな。」
「誰のせいだと…!」
眉をひくつかせながら言うラインの視線から逃れるようにカイセはリリアを見る。
するとリリアは顔を逸らしてこれまた前と同じ猫に目を向ける。
「それはもうやった。しつけーよ。」
「なんのことか分からないわ」
しれっと言ってのけるリリア。二人のやりとりが長くなることを察したラインがテーブルを叩く。
「とにかく!オレはここを中心に展開されている【祝福】が怪しいと睨んでる。そこを調べるぞ。」
「祝福ねぇ、確かに…。」
カイセは直属の上司であり、所属する世界の女王、レアルカ リアリードの言葉を思い出す。
それはエージェントになった日に彼女が言った与太話。
しかし力強くカイセに告げた言葉を。
世界は元々一つだった。
そこに特別な力を持つニンゲンが生まれるようになった。
同時期に精霊、魔人、幻魔、それらが現れニンゲンに敵対する。
ニンゲンは弱かったが一人の女が幻魔の魔王といかなる手段をもってか契約、世界を断裂することで攻撃を分散させることに成功。
そうして100年前に今の世界の形が生まれた。
そうしてその後自分達の世界の防衛の為に、精鋭を集める為に生まれたのが俺たちの機関、らしい。
代わりにこの世界が狙われたとき、この世界は滅ぶだろう…こんなこと侵略と変わらないじゃないか…
「カイセ?」
リリアがこちらを気遣わしげに見ている。
そんな少女に暗い感情を隠して応えた。
「…なんでもない、じゃあそのあたりから調べてみますか」
今日はラスト