4話 あ、なんか熱ある気がする…休まなきゃなー(棒)
リリアがゴロツキを率いてやってきた。
カイセはその光景を見て、フリーズしそうになる頭を必死に動かして知らない人のふりをしたが無駄だったようで次の打開策を考える。
しかしそれもリリアの前では無駄なあがきであった。
「さ、行こう。早く報告しないとラインに怒られる」
リリアはカイセの手を取り歩き出す。
しかしそれを許す強面の男達ではなかった。
「てめぇら無視してんじゃねぇよ!あぁ?」
大声で喚き散らす可哀想な彼らは標的を二人に広げていた。
なんだか、少女に絡んでると話が進まなそうだし…というのが本音だ。
それを察したのかカイセは10年来の仲間を見るような目で男達を見た。
「お前ら、苦労したんだな…なんでこんなやつと一緒にいるんだろ俺…」
そのつぶやきに男達は静かになる。
今ゴロツキ+1は奇妙な連帯感を抱いていた。
(これが…世界平和か…)
今ならなんでも許せる気がした。
男達+1は互いに微笑みながら慰めあった。
しかし世界は彼らに優しくなかった。
カイセが男達に握手を求めながら近づくとふと気付いたようにリリアが右手を男たちに向けて詠唱する。
「【風よ】」
リリアは手から暴風を巻き起こし男達をはるか彼方へ飛ばしてしまった。
通常、このような規模の範囲魔法には詠唱時間がかかるのだが短いスペルにかかわらずリリアが使うと適当な詠唱で災害のような魔術になる、というか存在自体がイカサマみたいな奴なのでもしかしたら詠唱なんていらないのかもしれない。
「これで通れる。さ、行こう」
カイセは言葉も出なかった。
世界に平和が訪れる日が来るのか、飛ばされて星になった男達のことを想うと平和なんて永遠に実現しない気がした。
そんな昼下がりの街の風景。
「つまり街中で魔術を使ったと、そういうことだな?」
この世界にしては洒落た喫茶店で落ちあった同僚のエルライン、通称ラインは険しい顔をしてカイセ達を問い詰める。
その問い詰めるような視線をリレーするようにカイセはリリアにじと目を向ける。
すると当人のリリアが無表情ながらじと目を席の下で日向ぼっこをしている猫に向けた。
「いやリリア、お前だから。絡まれたのも魔法使ったのも!」
「私?」
小首を傾げて言う。
「なにか問題が?」
「いや、問題ありまくりだから!目立ったらここからの任務に支障が出るから!」
「そうだ、どうなっているカイセ!」
矛先がなぜかカイセに向いてきた。
「はぁ⁉︎俺は関係ないだろ!こんなか弱い俺にこいつを止められるわけねぇだろ!」
無駄なか弱いアピールをするカイセ。
ラインは半眼でそれを見る。
「リリアを導くことがお前の任務だ。忘れたか?他の誰でもないお前がこの方に選ばれたんだからな。」
その言葉にカイセはうんざりしたように頭を振る。
「こんなの何を考えてるかわからない天才様の気まぐれだろ!もう帰して!三食昼寝付き酒つきグータラできる夢のようなあの生活にもどしてくれぇ!」
「お前、機関に入るまで無職のニートじゃなかったか?」
フリーターである。
カイセは髪をかきあげ無駄にポーズを取りながら言う。
「ふ、後1年もすればそんな暮らしが(死後の世界で)約束されていたさ。」
おぉーと無表情にリリアが拍手する。
「というわけでグータラ用の家建てて貰おうか。ほら早く、うちの機関ってそういうの得意じゃん?」
「それはいいアイディア」
「だろ?ってかお前はついて来ないよね…?」
少し怯え始めたカイセを尻目にラインが眉間を押さえながらうめく。
「お前ら、なんだかんだで似たもの同士だな。コンビを組んでからどんどんうざくなっていってるぞ」
「だれと似てるだとこら。さぁ早く《世界渡りの回廊》開いて!帰るぞ!」
完全に帰るモードのカイセに向かってずっとしかめっ面だったラインは笑う。
「悪いなカイセ、この魔法は一人用なんだ」
世界が歪む、 曲がる、 淀む、 を繰り返すこと10秒。
虚空の先が真っ黒な道ができる。
これが世界を侵略するために女王によって開発された《世界渡りの回廊》だ。