3話 週休3日は最低ラインだろ…
「やっぱりカイセは強い」
リリアは膝に手をついてぜぇぜぇと乱れた呼吸をするカイセに向かって満足げに言う。
カイセは決めた、後でしばくと。
「街の方向は確認した。こんなところでグズグズしている時間はない」
やっと息が整ってきたところでリリアが告げた。
もう誰がどの口で〜とかてめぇふざけんなぁ〜とか言っても無駄と悟ったカイセはぐっと文句を飲み込んだ。
ひとつ大人への階段を昇れた気がする。
「もう…なんでもいいから行こう…」
「ん、着いてきて」
《グラビデ・フライト》を使ってリリアは飛んでいった。
「は⁉︎まてぇぇ!お前もうわざとだろぉぉぉ⁉︎」
カイセは結局恨み節を吐きながら走りだす。
第2レースの幕開けである。
ある街での光景。
黒いローブを羽織った美しい白銀髪の少女が佇んでいる。
少女は誰かを待っているのか入り口で棒立ちになっていた。
こんな無防備な少女を放っておくほどこの街は治安が良くなかったようで、ガラの悪い男達が少女に近づいていく。
「よぉ小娘、この街に何の用だ?ここは聖女様の加護の中心だ。誰に断って入ってきやがった?あぁ?」
へっへっへと下品に笑う男達。
遠巻きに眺める人々は運がないだのかわいそうだのと言うが誰も助けに入ろうとはしていなかった。
ここに置いてけぼりを食らったかわいそうな黒髪の青年がいたならば、「だれが運がないだって?だれがかわいそうだ?あの男達(そして俺)のほうが運がなくてかわいそうだろうが!」と叫ぶだろう。
少女は男達を見た、そして首を傾げる。
「だれ?」
「だれって…は?てめぇ状況わかってんのか⁉︎あぁ?」
ざわざわする人々。
青筋を浮かべる男達。
「知り合い?」
誰なのか思い出そうとするようにこめかみを抑える少女。
あぁん?あぁん?と吠える男達に向かって少女は思い出した!と言わんばかりにぽんと手をたたく。
「思い出した、あなたケイル?久しぶり」
手を振る少女、男達の怒りのボルテージは振り切れている。
「マジでふざけんなよ!!てめぇら、やっちまえ!あぁ?」
やってやる!ふざけやがって!などと叫びながら男達がジリジリと間合いを詰めていく。
その男達の間に少女は見知った黒いローブを羽織った黒髪の青年を見つけた。
少女、リリアは魔術 《スピード・コントロール》を使って男達の間を縫って青年の元へ向かった。
「げ、なんだあの柄の悪い連中は?絡まれたら厄介だな。」
時は少し遡り、青年、カイセは街に到着していた。
生来、カイセは面倒ごとは嫌いで頑張ることが嫌いだ。
なぜなら努力が報われないことを知っているから。
なぜなら自分がちっぽけなことを思い知っているからってこれ全部女王のせいだな。
大体すべてのことにおいて女王に負けてきたカイセは暗い考えを振り払うように息を殺した。
そして、そろりそろりと酒場へ向かう。
一歩踏み出したその時だ。
「カイセ、待ってた。行こう」
平坦な声が目の前から聞こえた。
そこには悪魔、もといリリアが立っている。
なぜか後ろにごろつきのおまけ付きで。
「人違いです(キリッ)」