2話 日曜日は精神が辛いため、実質週休1日
貯蓄分
「いたい」
制服である意匠が凝っている黒いローブを羽織った白銀の髪の少女、リリアは頭の白銀にある盛り上がり、もといたんこぶを抑えながら涙まじりに言う。
「うるさい、こしゃくにも《ディバインウォール》で防ごうとするからだ!」
はたこうとした手を、無駄極まりない高位の防御魔術でいなそうとした為げんこつに切り替えたのであった。
カイセはそんなリリアに構うことなくなんとか方角を調べようとしていた。
しかしこの世界にきて日が浅く、見渡す限り樹海のこの場所で方向を示すものなど見当たらない。
(おいおい、本格的に遭難したんじゃねーか、これ?ここで死んだら部屋に残してきたコレクションとかあの店の新作メニューとかどうなる!考えろ俺!)
ふと、自分たちを送り出したカイセらの女王のこちらをバカにしたような笑みと嫌味を思い出す。
(世界間偏差も現地心瘴値も少ない慣れないペアにはぴったりな世界ですよ〜、これも失敗するようでしたら…あはは、女王様な上に美少女である私からのご褒美をお見舞いするかもしれません☆
具体的には事務仕事の追加と減俸、そしてカイセさんに関する面白そうな噂を有る事無い事流します、ふふ、楽しみですねぇ)
自分を送り出す我らが《女王》の言葉を思い出して頭を抱えるカイセ、リリアはそんな青年の方を見ると言った。
「カイセがなにを悩んでるのかわからない。街なら《グラビティ》で私が飛べばすぐに見つかる。」
「いや、早く言えよ!!」
真っ白になっている青年と小首をかしげる少女の図がそこにはあった。
思い返すとリリアはおそらくこの3日間、《グラビティ》を維持し続ける、アホではあるが、魔術の天才といって差し支えない。
そんなリリアが重力の指向制御が必要な応用魔術ができないわけがないのだ。
「なぜ、いままで、使わなかった?」
なぜかカタコトになってしまうカイセにリリアは無表情のまま言う。
「なぜ?意味が分からない。このままでもたどり着けるはず…いつか」
放たれたこの言葉に理解が追いつかない。
このときカイセは認識を改めた。
こいつアホ過ぎるだろ…
呆れているとふと涼しくなったことに、続いてカイセとリリアは自分たちを大きな影が覆っていることに気づき空を見上げる。
突然、身の丈より大きな怪鳥が体を揺らすほどの風圧を纏いながら舞い降りた。
「へ?」
動揺を隠しきれないカイセは少女の方を見ると、なんとどこにも見当たらない。
代わりに上から声が降ってきた
「早く逃げる」
そこには一足先に飛行魔法を使っているリリアの姿が。
「ちょっとまてぇぇ!俺飛べないんだって!ヘルプぅぅ!」
カイセはみっともなくも走って逃げながら叫ぶ。
怪鳥はカイセを追っていて、リリアは相手にしていない。
「ちょ、マジ助けて!もう足いたいよぉ!うわ!今くちばしかすったぁ!」
「カイセ、言う通りにして」
女神の言葉が降ってくる。カイセは助けを期待して見上げるとリリアはかすかにその鉄面皮に笑みを浮かべながら言った。
「気合いがあれば勝てる。カイセはできる子」
「いや、そういうのいいからマジ助けてぇぇ!ママぁぁ!」
それからカイセが怪鳥を振り切ったのは1時間後のこと。
なぜか嬉しそうなリリアがカイセの傍に降り立った。