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新たな勇者と料理スキル

 


「あ! アーノルスさん、アーノルスさん! お久しぶりです」

「トール!」


 翌、早朝。

 リガル様、アーノルス様と手合わせをしてもらっていると朝霧の中から馬に乗った一組のパーティーがコホセの街へとたどり着いた。

 青い髪、青いマント…そして鎧には中央大陸東のキャスティリア国の紋章。


「…おお、トール様! お久しぶりです!」

「リガルも久しぶり! 元気だった?」

「ええ! それはもう!」


 ………あれが、アーノルス様の次にレベルが高いキャスティリア国の勇者…トール様!

 で、でかい…!

 二メートルはありそうな巨体…。

 これでアーノルス様よりも年下なのか。


「ん? こちらは? アーノルスさんの新しいパーティーメンバー?」

「この街で我々が世話になっている冒険者の一人で、戦士オルガだ。レベルは70近い」

「ええ⁉︎ 勇者ボーナスもなしに⁉︎」

「オルガと申します」


 頭を下げる。

 まあ、私の場合パーティーメンバーのお二人のレベルが冗談みたいに高い。

 ほぼ丸一日戦い続けても疲れないし問題もないのだ。

 …腹は減るけど。

 パーティーボーナスも人数が少ない状態で高レベルの魔物を倒すと少し増える。

 この間、クリス様の助力を得ながら森のボスを倒したのも大きい。

 …元々カルセドニーよりレベルは高かったしな…。


「凄い! 僕はトールといいます! キャスティリア国の勇者です! よろしくお願いします!」

「は、はい、よろしくお願いします」


 …リガル様と系統が似ているけど…。

 二メートルくらいある巨体。

 漂う獣臭。

 ぼ、ボサボサの髪と髭…。

 ゆ…勇者というよりもさいおっさん冒険者のようだな…?


「…待ってトール。彼女は女性だよ」

「え⁉︎ 女性⁉︎」

「女性にそんな何日もお風呂に入っていなさそうな姿で握手を求めるのはどうかと思うな。君、まずは宿屋でお風呂を借りておいでよ。臭うよ?」

「あーはははは…。急いで来たので一週間くらい入ってなかったの忘れてました」

「…………」


 う、うわぁ…。


「トール様、二週間ですぞ。近道と言って、魔獣の森を突っ切って来たのですから」

「あ、そんなになるっけ?」

「…君たちも早くお風呂入っておいでよ」


 アーノルス様でさえやや離れてトール様のパーティーを見送る。

 ご自分たちの泊まっている宿の風呂を、とりあえずはお貸しするようだ。

 確かに…は、早めにお風呂に入ってこられた方がいいな…。


「…………全く。相変わらず容姿に頓着しないパーティーだなぁ」

「まあ、見目ばかり気にするよりはいいのでしょうが…一国の勇者があれではキャスティリア国も大変ですね」

「あの、アーノルス様」

「なんだい、オルガ」

「トール様のパーティーは皆体が大きくていらっしゃいますが…まさか…」

「……ああ、そのまさかだ」


 …あの噂は…本当だったのか。

 それは弱ったな…。









「…え、勇者トールって人のパーティーは全員前衛ー?」

「はい」


 手合わせ後、寝泊まりさせてもらっている食堂でアレク様たちと朝食を摂る。

 昨日のサラマンダーの肉のスープ。

 パンと暴走草のサラダ。

 …食卓の半分が魔物というのは複雑だが、暴走草を茹でてドレッシングで和えたやつが意外と美味しくておかわりできる。

 …暴走草…また狩ってこよう。


「えー、なにそれバランス悪くなーい? 勇者のパーティーなのに前衛しかいないとか…困るんだけどー…」

「私に言われましても…」

「まあそれもそうだねー。…スドボの方にはまだ勇者現れないらしいし…」

「…そうですか」


 スドボの街とは距離が離れている。

 徒歩で男の足でも最低五日はかかるだろう。

 定期連絡は赤、青などの色のついた煙玉を焚き火に焼べて行うらしいのだが距離があるのでたまに読み間違えることもあるそうだ。

 一応この街で一番高い見張台から目のいい役人がスドボの街からの定期連絡を読み解くのだが、昨日の時点ではまだあちらに勇者は来ていないという事だ。

 …伝書鳩とかいないのだろうか、この街。

 大きな街なのにな?


「勇者が二人、参加してくださるのはいいですが…」

「むしろさー、その新しく来た勇者の人は指揮出来ないの?」

「…印象として…わ、私の個人的な印象としてですよ?」

「うん」

「…………」


 無言で首を横に振る。

 アレク様のようにパーティーを部隊として指揮するのは多分無理だろうなぁ。

 勿論、人は見た目によらないのかもしれないけれど…。


「そっかー。…正直僕も兄様たちほど指揮能力に長けてるわけではないのだけれどー」


 ぱくり。

 八個目のパンに齧り付き、咀嚼するアレク様。

 …この人のあの的確な指示の出し方で…お兄様たちよりも下だと?

 そんな事はないんじゃ…。


「アレク様の国には魔物は出ないんですか?」

「魔物は出ないよ。魔獣と呼ばれるモノは毎日出るけど」

「魔獣? 獣型の魔物では?」

「ううん。僕らの国…世界はこの世界と根本が違うんだ。世界を作った神様が違うからねー」

「…神様が違う…ですか?」

「この世界を作った神様は多分千年とか二千年以上生きた神木だろうねー。人間や動物より、元々長寿な鉱物や樹木の方が神格化し易いんだよー。まあ、そこから意志を持って創世神になるモノは多くないみたいなんだけどー」

「は、はぁ…」


 なんだか小難しい話になってきたな?

 …樹? …あ、もしかしてそれが世界樹のお伽話と…?

 …確かに世界樹のお伽話は…そんな内容だったな。

 真っ暗な闇の中に一粒の小さな種が流れてきて、世界樹は生まれた。

 世界樹が育ち、大きな実がなり、その実が大地や空や海になった。

 大地や空や海から生き物が生まれて、今の世界になった…。


「僕らの世界は鉱物や樹木の神々ではなく、神格化した獣が作った世界なんだー。その神は人間が嫌いで、生まれてきたら必ず国を作り争いを始めると思っていたー。だから、人が悪いことをしたりあまりに偏った考え方をしたら魔獣になってしまう呪いを世界のシステムとして組み込んだんだよー」

「…ひ、人が魔物になるということですか⁉︎」

「そうー。人はそれを学び、周りの人に助けを求めるようになり、それでも魔獣化したら国の騎士や勇士、傭兵が助ける。…うちの大陸は国が一つしかないから国同士で戦ったりもないよー。種族同士のいざこざがないわけじゃないけどー…みんな魔獣にはなりたくないから戦争にはならないよねー」

「…………」


 人が魔物になる世界……。

 でも、そのリスクがあるからこそ人々は争わない。

 私の世界は国同士が利権を争う。

 魔王軍が侵略に現れても、そこは特に変わっていない。

 …魔王軍に勝利しても…勇者たちは…。


「…本当はねー、魔王っていうのは魔王族とも呼ばれていて人間が数を増やしすぎて世界を滅ぼす要因になると判断した創世神が喚ぶモノなんだよー」

「…え⁉︎」

「僕はこの世界に来た魔王は『仕事』で来てると思ってるんだけどー……創世神は人に『チャンス』も与えているしねー。…さぁ、本当に勝ってもいいのかなー…? ねぇ、オルガ?」

「…………っ」









 ********




 …アレク様があまり奪還作戦に乗り気ではなかったのは、あの話のためなのだろう。


「オルガ〜」


 魔王軍…いや、魔王が世界樹の助けを呼ぶ声に応じたものならば、我々人間の方が間違っているのではないのか?

 国同士は利権を争い、時には武力による衝突もあった。

 我が国は政略結婚や特産物らしい特産物が全くない事で隣国シン帝国に見逃してもらっているけれど…。


「…聞いてる? オルガ〜?」


 父や母も出会いは戦場。

 元は敵同士だったという。

 魔物が現れる前からこの世界は争いに満ちていた。

 創世神…世界樹はそんな人間たちの愚かな争いの連鎖を止めるために、魔王をこの世界に呼び寄せた?

 ならば何故各国に聖剣を与えたのだ。

 一振りならば国は争うことなく勇者を一人に定めただろうに…。

 ………いや、一振りしかないならば、国同士はその一振りを求めて新たな争いを始めるのでは…。

 な、なんということだ!

 世界樹はそこまでお見通しだったのだな…!


「ねえ、ちょっと〜…焦げてるよ〜?」

「焦げ臭い⁉︎」

「遅いんだけど〜」

「あああああ…!」

「あははは、オルガ四枚目ー」

「まあ、これはこれで好きなやつがいるから大丈夫さ」


 食堂の店主は笑いながら皿に焦げた肉を乗せる。

 ま、またやってしまった。

 いくらボアの肉が豊富とはいえ、食材を無駄にするのはいいことじゃない。

 くっ…! ただ肉をフライパンで焼くだけなのに、その焼くことがこんなに難しいなんて!


「奥深い! 料理!」

「オルガは考えすぎなんじゃないのー?」

「アレク様は摘み食いしすぎだぜー?」


 ……朝食後、今後の旅のことを考えて世話になっている食堂の店主に料理を教わることにしたのだ。

 我々は全員料理が出来ない。

 王族のお二人は元より、母から料理を教わるということをしてこなかった私も。

 …かく言う私の母も料理は出来ないので、村の食堂の用心棒として働きながら三食現物支給してもらっていたんだが。

 …正直あんな小さな村の食堂を狙う奴なんていないだろう。

 食堂の店主が母の弟夫婦だったからだと思う。

 まあ、私が料理を教わらなかったのはまぎれもない事実!

 下準備や、包丁の使い方、塩と胡椒で下味をつけてから焼く、など、存外工程が多いのも初めて知った!

 料理、奥深い!


「まあ、アレク様もオルガ様もさすが筋がいいぜ? …クリス様は…」

「ボク興味な〜い。可愛いエプロンならやっても良かったけど〜。せっかくの髪の毛をまとめ上げなきゃいけないのも面倒だし〜、油臭くなるのヤダ〜」

「クリスならそう言うと思ったよー。頑張ろうね、オルガ」

「はい!」


 クリス様はカウンターの前。

 我々はカウンターの中の厨房。

 もうハナっからやる気がない。

 …そういえば店主殿、いつの間にか私のことまで様付けになっている。

 世話になっているのはこちらなのに…。

 むしろ料理を教わっているのはこちらなのに!


「じゃあ次はサラダのドレッシングにしてみっか。そっちの方が簡単だろう。あ、でもその前にちゃんと料理スキルを覚えたかどうか確認してくれ」

「はーい」

「はい」


 まずは『料理』のスキルを覚えるところからだ。

『料理』は生活スキルの一つ。

 ステータスを開いて確認するが…え? あれ?


「ありません⁉︎ 店主殿⁉︎」

「オルガ様四枚とも失敗しちまったからなぁ…。も、もう一枚焼いてまずはスキルを覚えようぜ」

「はい! 申し訳ない!」

「アレク様は…」

「ごめん細かくてどこにあるか見つけられない…」

「? 細かくて?」

「このステータス画面? 拡大出来ないのー?」

「か、拡大???」

「もしくは検索ー」

「検索ぅ⁉︎」

「スクロールでもいいんだけどー」

「スクロールってなんだい⁉︎」


 店主殿が困惑するのも無理はない。

 普通の人間が得られるスキルなど高が知れている。

 しかしこの方はレベルが1000を超えているのだ。

 所持スキルが多すぎて、スキル欄の文字が細かくなっているらしい。

 私も他人のステータスを見ることができないのでアレク様の話を聞いただけだが…まあ、途中で読むのも聞くのも困難になる。

 この人、攻撃魔法、補助魔法、回復魔法以外にも生活スキルに『政治』『経済』『軍略』『林業』『農業』『産業』『畜産業』『土木』『薬学』『生産』『社交』『礼節』『政治学』『考古学』『帝王学』…えーとあとなんだったかな…?

 とにかくすごい量の生活スキルを持っているのだ。

 さ、さすが王子…。

 生活スキルの量だけでこれなのだから、攻撃魔法、補助魔法、回復魔法などのスキルの数で文字が細かくなり読めなくなるのも無理はない…。

 魔法は特に技名長いやつ多いし…。


「えーと生活スキルの一番下は確かこの辺り…あ、あった…『料理レベル2』」

「いきなりレベル2⁉︎ 今四枚肉を焼いただけなのに⁉︎」

「昔からスキルレベルは上がりやすいんだー」

「すげえ、天才か…!」


 さすが王子!

 …………それに比べて私は…。


「そいつぁ教え甲斐がありそうだな! オルガ様はまず料理スキルを覚えてくだせぇ! んじゃあ、アレク様はドレッシングの作り方を教えます」

「よろしくお願いしまーす!」

「が、頑張ります!」


 集中だ、集中!

 何事も集中すれば出来る!

 朝アレク様に言われたことは今は忘れるのだ!

 私は今からこの肉を焼くことだけに集中する…。

 心を無にして、肉が焼ける事に全神経を集中させるのだ。

 表面、そして中。

 肉汁の量、表面の焦げ具合、漂う香り…。

 この肉となったボアの魂を感じ、最高のステーキを……焼く!


「たあ!」

「あ」

「あ」

「あ」


 からんからん。


 …………。

 胡椒の蓋が、お、落ちた、だと…?



「くっし! はくし! くしゅ! はくしゅ!」

「こしょ、こしょう…くし! はくしゅ!」

「うご、うごいちゃなんね、くしゃ! はーーーくしょい!」

「うわああ! オルガりきみすぎなんだけど〜⁉︎ ぎゃああ! こっちまできたぁぁ⁉︎ へ、へくちー!」




 …私が料理スキルを会得したのは、その一時間後だった。





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