イケメンを、嫌いな人がいるのですか?
「おお! 水!」
「……魔法見るのは初めてなのですか? そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいのです」
オレはこの村で支援をし始めた。おじいさんは嫌な顔をしながらも、してほしいことを話してくれた。嫌な顔をされていたけど、少し嬉しかったなぁ。
そんなオレはからからになった畑を何とかしようとしている。一緒にいるのはジャスティンと行動しているロゼッタと言う魔導士だ。うす赤紫の髪の三つ編み姿で、魔導士らしく紺のマントと同じく紺のつばの広い帽子を被っていた。
「初めてだよ。すごいなぁ」
「これは、一時しのぎにしかならないのです。水が引ければいいのですが……」
ロゼッタは魔法で水を出していたが、大地はあっという間に飲み込んでしまっていた。
若干湿り気は出てきたが、きっと何日か経てば元に戻ってしまうだろう。明らかに水の量が足りないのがオレでも分かる。
「水の精霊を呼びます」
「精霊……!」
「大地を潤す、水の精霊よ。我が問いかけに応え、ここに姿を見せよ」
おお、すごくそれっぽい。
魔法に関してはからっきしだったから、精霊はどんなものなのかすごく気になる。水の精霊と言えばもしかして、キレイなお姉さんとかなのだろうか? ちょっと期待してもいいかな。
「……勇者さん、変な顔していますよ。あ、すいません間違えました。いつも変な顔でしたね」
「おい。どういうこと、それ」
「どうせ、『水の精霊ってキレイなお姉さんかなぁ? ぐへへ』とか思っていたんでしょう?」
「なっ……! 『ぐへへ』はない!」
「ほー。それ“は”ないんですねぇ。ま、想像は自由ですよ」
くっ、痛い所つかれた。だって、精霊って言ったら少しくらい夢見てもいいじゃないか。
そうこうしている間に、強い光が差す。どうやら現れたみたいだ。さて、水の精霊とはどんなものなのか。
光がすうっとひいていき、その姿がだんだんと現れる。
スラリと伸びた細い脚、程よく付いた筋肉がよりキレイに見せていた。そして、六つに割れた腹筋。厚い胸板と……胸板と?
「……は?」
オレは目を擦ってみたが、見える景色に変化はない。
「やぁ、私を呼んだのはキミかな?」
「ええ、そうですの」
オレの間抜けな声をよそに、ロゼッタは現れた水の精霊に目を輝かせていた。
さすが、水の精霊は腰に布を巻いただけで、右手には水瓶を持っていた。顔はイケメン。切れ長の目とさらりと揺れる髪の毛がその顔面偏差値の高さを表している。しかも、体つきは細マッチョで、割れた腹筋と胸板が逞しい。普通に服を着ればそうごつくも見えなさそうなところが憎さ倍増だな。
だけど、水の精霊だけあって身体は水で出来ているのか、向こう側が透けて見える。
「わー。驚くほどイケメンですね。ロゼッタさんの好みはなかなかですなぁ」
「は? 好み?」
オレが疑問と共にプリンを見ると、「そんなことも分からないのか」と言わんばかりの表情をされる。……悪かったな、知らなくて。
「分からない勇者さんに教えてあげます。精霊、エレメンタルは気が集まったものだとか言われています。ゆえに、実態は不確かなんですよ。だけど、自然でもなんでも崇拝できる人間が、祈る都合で生まれたのが精霊って感じですかね。何か象徴があった方が祈ったり願ったりしやすいじゃないですか」
「……それがどうしてロゼッタの好みに繋がるんだよ」
「精霊にはこれと言った姿がありません。なので、魔導士などにより現れる精霊の姿はその魔導士の想いの影響を強く受けます」
「想い……」
「簡単に言うと魔導士が思う精霊の姿ですねぇ。別の言い方をすれば、魔導士が“こうであってほしい”と思う姿ですね」
プリンの解説を聞いた後、改めてロゼッタと水の精霊を見る。
ロゼッタは満面の笑みだ。
「なるほど」
水の精霊と話し終えたロゼッタがようやくオレたちの方を見た。
「あ、あの。どうやら、この辺りの水源に魔族がいて塞いでしまっているようなのです」
「それは、どうにかしなきゃだな……」
「そうですね。魔族を倒すのです」
「……あ、ちなみに、大地の精霊を呼んでもらってもいいですか?」
「え?」
よく訳が分からないという表情をしていたが、大地の精霊も呼んでもらった。
案の定、細マッチョの同じようなイケメンが現れた。……プリンが言ったことはこれで確かになった。プリンをちらっと見ると腕を組んでどや顔をオレに向けている。
「精霊を呼んだようだね、ロゼッタ。何か分かったのか?」
「ジャスティン……! あ、あのね……」
オレの目の前を素通りし、ロゼッタに話しかけに行くジャスティン。……やっぱり、オレのことがどうしても気に食わないらしい。
おじいさんやこの村の人たちをどうにかしたいという思いは同じでも、ジャスティンはオレに鋭い視線を向けるだけだった。一緒に協力しようと言って手を差し伸べても、その手を払いのけられてしまった。
「水源に魔族がいるらしいのです。そこをどうにかしないと……」
「分かった。いろいろありがとう」
「ううん」
どうでもいいけど、ロゼッタなんか嬉しそうに見えるな。
思い当たることがあって、ジャスティンをよく見る。……ああ、なるほど。そう言えばここにも居たな、イケメンが。
「じゃ、僕はマークと共に水源にいる魔族の討伐に行く。ロゼッタはここを頼んだ」
「それなら、オレも行く!」
「……どうして?」
ジャスティンが向けた視線は絶対零度だ。声もドスがきいている。
「いや、ど、どうしてって……。オレだってゆうし――」
「認めない。だから一緒にはいかない」
それだけ言うとジャスティンは身をひるがえして行ってしまった。
「……なんだよ、ジャスティンの野郎」
「分からなくもないですけどねぇ。勇者であること誇りを持っているジャスティンからしたら、勇者さんはクズですからね」
「妖精なら、オレの精神面もサポートしろよ!」
「やだなぁ、勇者さんの精神力を鍛えてるんじゃないですか」
「頼んでない!」
そんなやり取りをするオレとプリンを見て、ロゼッタはくすくすと笑っていた。
「ロゼッタもなんか言ってやってよ」
「え。……うーん」
オレはロゼッタに助けを求めてみる。この理不尽妖精もロゼッタのいうことなら聞くだろう。
「プリンさん。精神力鍛えたら、ブレイブさんもイケメンになりますか?」
「うん、なりますよー」
「んなわけあるかぁああ!」
で、結局オレはロゼッタと一緒に村で留守番することになった。