がんばらない王三位決定戦
「さあ今年もやってまいりました!がんばらない王をかけた争い!決勝戦が行われる前に、まずは三位決定戦をお伝えしようと思います!」
「司会進行そして現場リポートは羽柴さん!」
「よろしくお願いします!」
「そしてここ実況席のゲストはがんばらないことで有名なニートの実弟を連れてきました!」
「……」
「何かしゃべれ!……それはともかく、実況・解説はこの私、吉田がお送りいたします!」
会場が沸き立つ。そう。それは毎年開催される、そして名誉ある戦いの幕開けだからである。
「いやー今年も大盛り上がりですね、吉田アナ?」
「そうですねー羽柴さん。まあ今年も出場者はやってくれるんじゃないですか?」
「……」
「いい加減何かしゃべれ!」
「……!」
「えー私の実弟は必死に顔芸しておりますが実況席にカメラはございません!残念!」
「ではまもなく伊藤中掃除株式会社presentsがんばらない王三位決定戦を開始いたします!」
羽柴がそう告げると大歓声が巻き起こる。
「いやーすごい盛り上がり。何せがんばらない王は三位決定戦が一番アツいところですからねー、吉田アナ?」
「そうなんですよねー、羽柴さん。がんばらないことで一番になってしまうとその時点でがんばってしまったことになりますからね。三位というのが中途半端でまたいいんです!」
「……」
「事実上の決勝戦と呼ばれる所以ですね~」
「さあ始まります三位決定戦!まずは赤コーナー。がんばらなくて早五十四年。あまりのがんばらなさに全国のニートたちが頑張ってくれと激励のお便りを出すほどのツワモノ!ミスターニート、頑腹内一徹!」
会場の脇においてある幕が引き上げられる。いかにも無気力なおっさんがケツを掻きながらぼーっとしていた。
「名前からしてがんばってませんからね。これは家系なんでしょうねー」
「……」
「そしてそれに立ち向かいます青コーナー!準決勝では惜しくも敗れましたが二十九年間布団から出たことがない完全無欠、ザ・ニート、二位戸忠志!」
歓声がどよめきに変わる。
「おおっとこれはどうしたことでしょう!?」
会場の反対側の幕が引き上げられていたが、そこに対戦者の姿はなかったのである。もぬけの殻であった。
「いない!いません対戦者が!これは棄権でしょうか……?」
「今日のアンパイヤは熱血漢常雄さん。彼のジャッジやいかに……?」
じっと会場を見回した審判だったが、何を確認したのか白旗をさっと挙げた。
「おおっと有効!認められました!青コーナー二位戸は出場していると認められました!これは一体どうしたことでしょうか、羽柴アナ?」
「そうですね、これはおそらくアンパイヤの視線の先が答えの一つになっていることでしょう!」
「それは一体……」
「……!」
その視線の先。そこには一つのモニターが設置されていた。そして誰かが布団で寝ている。どよめきがじわじわと歓声に変わる。
「……そうか!さすがはザ・ニート!がんばらない王決定戦にも関わらず布団から出る気はない!さすがのがんばらなさです!」
「さあアンパイヤの常雄さんがゴングを鳴らす!これより伊藤中掃除株式会社presentsがんばらない王三位決定戦、試合開始です!」
「その前に一旦CMでーす!」
……
…………
(CM終了五秒前、四、三、二……)
「……さあ、始まりました伊藤中掃除株式会社presentsがんばらない王三位決定戦!司会・進行・現場リポートは羽柴さん。そして実況・解説はこの私、吉田がお送りいたします!」
「……!」
再び場内はどよめきに包まれた。そのとき試合終了の鐘が鳴ったのである。
「おおっと開始二秒で幕引け!何なんだこの試合はァ?!吉田アナ?!」
「これは一体どうしたことでしょうか……長年がんばらない王決定戦の解説を務めさせて頂いておりますが、これは椿事です!」
「勝敗の行方や、いかに?」
「……?!」
「アンパイヤの常雄さんがマイクを取った!」
「えーアンパイヤの常雄です。今回の勝負、一旦持ち越しといたします。一位決定戦が行われた後、その敗者を含めて再戦ということにいたします」
「一体どういうことでしょうか?吉田アナ?」
「そうですね。さすがは熱血漢常雄さんと言ったところでしょうか」
「と、言いますと?」
「やはり決勝戦でがんばらないを貫き通し、結果中途半端に一位にならなかったものが一番がんばっていないのではないか、という意見があったんです。そういった意見を取り入れた判断だったと思います!」
「えー何言ってるのか意味不明ですが、とにかく三位決定戦は持ち越しとなりました!」
「……!」
「それでは皆さん!また来週!」
その後結局三位決定戦どころか決勝戦も行われることはなかったという。視聴率0%という脅威の記録を叩き出し打ち切りとなったからである。
しかし彼らのがんばらない戦いは今なお続いている。生きることすなわちがんばらないをモットーにしている彼らの勝負が決まるのは彼らが死ぬとき。一生涯をかけた壮絶な戦いは、今なお続いている。