5 四重苦
ちょっと死にたくなった。こいつはクレイジーだ。キモかわいいとかゆるキャラ方向に進んでくれればよかったのに。
さっき殺された記憶より、新たな罰が気になった俺は起き上がるとすぐに姿見に向かった。まぁ向かう前から違和感は凄かったんだけどさ。
脳内に追加された罰も見てみないふりし、映しだされたその姿は俺を崩れ落ちさせるのに十分な破壊力を要していた。
いつまでも落ち込んでいる意味は無い。も、もう一度確認から始めるんだ! 体を起こし膝の汚れを払いながら視線はまだあげない。こんな行動にも違和感が半端ない。
よし、受け入れ体制は整った。大きな深呼吸と軽い気合とともに再度姿見に視線を向ける。
「は、ははは」
乾いた笑いが俺の喉を通して漏れだした。もう、これってモンスターって言っても通じるんじゃないんだろうか。いや、人間だ、人間。いるいるこんなやつ。
目の前に映る、ハゲでデブでチビのジジイ。追加された罰は【縮小-25】である。女性でも小柄な部類に入るほどの身長となった。
体重計がないので正確な重さが分からないが、死ぬ前の体重はそのままに縮んだんじゃないかと思える肉の塊。手足は合わせるように短くなっているが顔のでかさは変わらない。
おおよそだが177cmで120kgぐらいだった俺が、152cmで120kgに変化したと思われる。日本じゃ殆どの奴等に二度見されんじゃないだろうか。
ここに年齢と汚らしいハゲが合わさっているわけだ。髪は剃ってしまえばいいだろうがそれはそれでヤバイ予感がする。
次死んだらここにまた一つ何かが加わることを考えると、間違いなく死ねない。今のところ肉体に対する罰で済んでいるが、それ以外の何かかもしれな。
今でさえギリギリな状況に新たな罰が加わるとか、考えただけでかなり億劫だ。
あ、そういえば奪われたナタはどうなったんだろうか! そう考えたところで罰以外の状況を確認することにした。
ナイフやナタ、小銭に関しては元の位置に戻っていた。ボロ着も縮んで一段と太くなった体型に合わさったものに変化している。
部屋を出る前に動かした物は全て元の位置に戻ったんだと思われる。やっぱ時間が戻っているということなんだと推測出来る。
「外に出てさえもなかったことになってんだろうか」
まだ扉をあける勇気はない。なので確認が出来ないことは想像することしか出来ない。そしてふと気づく。喉が乾いていることに。
一回目は割りとすぐ死んだので喉の渇きを感じた記憶はない。二度目の死に関しても部屋を出るまでに喉が渇く事も、ましてや腹が減ったりなんかもなかった。
これってまさか、死んだことに対する部分は無かった事になり罰は追加されるが、それ以外に関してはそのまま進んでいるって事になってるんじゃないか? 動き回っていた事で息切れし汗をかなりかいたことで喉が渇いている。その経緯はそのままに俺は蘇ったのではないか。
推測の域を出ることはないが、取り敢えず水瓶に向かい水を飲んだ。炊事場付近に欠けた茶碗のような器があったのでそれを使ってだ。
外に出るのに必要そうなものに関しては調べていたが、生活用品に関してはあまりしっかりと確認してなかった。よくよく見れば必要最低限の生活用品は置いてある事を再確認できた。
生き抜く為にはずっとここにこもるわけにはいかない。何かしら対策をとり、慎重に行動しなくてはならないだろう。
安易に外に出ることは出来ないが、いずれ確実に外に出る事になる。決意を新たに生き延びる手段を模索しなければな。
まず大事なのはこの肉体に関して把握することだ。一度外に出た時、思った以上に体力が無いことが分かった。それと外の住人に比べれば力があることも分かっている。武器を使われたり、当たりどころが悪いと簡単にやられてしまう事も。
歩く程度なら動きにくいこともなかったが、たいして動きやすくもない。体型の変更によって余計肉体は落ちぶれたと言っていいだろう。
これは確認せねばなるまい。
さっきから何もしてないのににじむ汗を感じつつ、腕を回してみると肩以上に腕が上がらない。しかも痛みが走る。まさかの五十肩か!
腕の可動域はかなり狭い。肉が邪魔をしている事も追加され余計に動かない。首もそんなに回らないし痛みも走る。これだけで汗が噴き出る。
その場で垂直跳びをしてみれば、10cmくらいしか飛び上がれず、肉が大きく波打った。床に対する振動もたいしたものだ。走るほど広くない部屋であるので、走ることは叶わない。
ならば前屈だ。
「ふふ、これはすげーぞ!」
肉が邪魔をしマイナス何十cmだこれってくらい酷い有様。上体を戻すのにも一苦労だ。座って柔軟してみようとしゃがみ込むと
「おわっ」
ケツを付く前に背中を床に付ける勢いで後ろに転がってしまった。全くもって前途多難な肉体だなーと、そのまま床に寝転ぶ。寝返りもきっつい!
さっきから見ないふりをしていたが、俺の手はぷるぷる震えている。ブルブルではなく肉のせいでぷるぷると。震えの原因は分かっている。鮮明に思い出せる。ついさっき殺されたばかりだから。
考えていないと死への恐怖が俺にまとわりついてくる。あの痛みも苦しみも。腹を刺された記憶でさえまだまだ新しい記憶なのだから。
ぐっと拳を握りしめ俺は思う。まだ向か合う時間じゃない。今考えても足枷にしかならない。
そしてまた一つ浮かび上がる記憶。
「ハンスつったかな、あいつ死んだのかな」
時間が戻っているのであれば生きているかもしれない。ただあの瞬間、なんとなくだが首の骨が折れた気がする。骨の折れる音を聞いた気がする。
神に植え付けられた知識の関係か、殺したとしても罪悪感は薄い。日本人としてだけの常識にこだわればその限りでは無いかもしれないが。
スラム街は死を身近に感じる場所で、当たり前に死が転がっている。携わる事も多い。奪うことも奪われることも極自然におこなわれている。
殺されることにはなれないが殺す事の抵抗は無くせそうだ。
そう思いながら日本での常識と、この世界での常識の違いをみている時、決定的な違いがあることに気がついた。
これが今後の打開策になると、知識を読み解いてゆく。




