3 状況整理する
まずは神からの知識を確認してみる。この世界の常識、俺の中ではすでに当たり前に根付いているが違いとして比べてみるべきか。
日本に比べれば人の命はかなり軽い。科学文明ではなく魔法文明。時代背景は中世ヨーロッパに、神が俺のいた世界から呼び込んだ奴等がもたらした知識や文化が融合してる。
知的生命は人以外にもかなりの種族がいる。地球では幻想の世界で存在していたエルフやドワーフ、ホビットなんかが普通に生活しているようだ。獣や鳥類と人間のハイブリッド種等もいるようである。
それら以外も結構な数の種族がいるが、今は必要でない。
俺がいる場所は王都にあるスラム街であり第5防御壁の内側にある。城がある第1区、上流階級が住まう第2区、商売メインの第3区、一般住民が多く住まう第4区、そして第5区のここだ。
第3防御壁内までは上下水が完備されているがここはそうではない。この部屋も結構な臭いがただよっている。
第4防御壁と第5防御壁には王都外からの入場門があり、第3防御壁内には第4防御壁の入場門からしか出入りは不可能である。
第5防御壁の入場門はほぼザルな監視下で、簡単に出入りできるが、ここから第4防御壁内に行くのは不可能に近い。まず門は開かないからのようだが、その辺りは過去に色々あったようだ。
第5防御壁から外に出ると、あまり整備されていない街道があり、道なりに進むと森の方へと入っていく。
この森をさらに進むと山脈があり、その麓には砦と規模の小さな街がある。砦の先からは一般人ではまず生きて抜けられない地域帯となっているが、今の俺には関係ないかな。
第5街から外に行くのは今の俺にはとって死を意味する。普通の獣に襲われれば、割りと簡単に死ねる自信がある。
正直に言えばこの部屋から出た瞬間から、死が付きまとうんじゃないだろうか。
その部屋の中を漁った結果、かっちかちのパンが出てきた。長期保存が可能なパンであり、貧乏人は皆これが主食といってもいいものである。
麻の袋に結構な量がつまっていたけど、これは神のサービスの一部なんだろう。
食べ物はそれだけだが、俺の自殺した時のナイフ、壁に取り付けてあった鉈のような刃物、わずかながらの、金銭も見つけた。すぐにピンチとならないような環境だけど、神に踊らされているようにしか感じない。
環境的には外にさえ出なければすぐに詰んでしまう事はない。だけど、俺自身に問題がある。ハゲは見た目の影響だけで済む。しかし、老化と不摂生は肉体に制限がかかっているようなものだ。
老化による身体の衰え、不摂生による身体の衰え、元々の肉体の感覚ではまず動けないのは目に見えている。おなじ感覚で動けるはずはないとしても、最初はそのギャップに戸惑うだろう。
そしてこの三重苦による見た目の崩壊は、俺の磨いてきた技術を尽く潰してくれるだろう。
俺の一番の技術といえば女の懐に潜り込むことである。潜りこむには第一に外見、次に話術である。イケメン過ぎると警戒心が高まり、不細工すぎると取り付く島もない。
俺の持論だが、見た目を10段階にしたさい、4~7までの外見がヒモには向いている。何もしなければ俺は6の位置で、服装や髪型をいじり7まで高められた。人の好みに当てはまれば8や9の評価にもなるだろうがそこにはなんの意味もない。
外見には清潔感も重要である。不衛生にしていると当たり前だがどんなに顔やスタイルが良かろうと、嫌悪感を与え距離を与えてしまう。潔癖レベルまでいくと駄目だが、身だしなみは大事である。
外見的要素は死んだと言っていいだろう。話術を駆使できる段階になったとしても挽回は厳しく、懐に潜りこむなど相当変人じゃなければ不可能ではないだろうか。
このあたりを踏まえると、俺は年齢外見合わせて総合評価1以下だろう。しかもスラム街に生活に余裕があるものなど極わずかしかいないといえる。まして余裕のある女となればなおさらだ。
無理ゲー過ぎて考えることさえ嫌になってくる。
しかし、悲観していても何も始まらない。とにかく現状を打開しなければならない。
この世界でどこまで通じるかわからないが、俺にもまだ武器といえる技術はある。それが通じればそう簡単に死ぬこと無く行動できるかもしれない。あくまでもしれないだ。
よし、知識はあってもこの部屋から出た環境はまだ何も確認できていではどうにもならない、外へ出てみよう。
見るに耐えない出っ張った下腹の下に申し訳ない感じでズボンを固定するベルト。ベルトというより紐だな。そこに壁に吊り下げられているナタを手に取ると腰紐に固定する。
ナイフは懐に隠し入れ、金銭の入った小さな布袋も懐にしまい込む。その前に中の硬貨の半分は、念の為机の上に出しておく。
「なにかフード付きの羽織るものはないだろうか」
独り言を漏らしながらベッドの下なんかを確認してみるが、そこまで都合は良くないらしい。せめて頭部は隠したかった。
出るままに任せたため息で少し心を軽くした俺は、テーブルの上に置いてあった簡素な作りの鍵を持ち、これまた簡素で隙間のあるドアの前に立ち自身に軽く気合をいれる。
もっと考えることはあるだろう。だからと言ってずっとそうすることは出来な。
理由はある。
「しょんべんしたい」
そう、この部屋にトイレはなかったのである。




