10 家畜の世話をする?
短い時間、と言っても数分は連なり歩いただろうか、袋の下から結構見えているがあてにならないくらいぐねぐねと歩かされた。
歩いた先でどうも建物に入らされた。俺達以外の人の気配がするが確認の仕様がない。
2つほど部屋を抜けた先で少し待機させられた。その時に何か重そうな物が動かされた気配と物音が聞こえる。
音が止むとまた列が動き出し、静かに後を追うと、たぶん地下へと続く階段を降らされる。その際には軽く注意されたので特に問題なく進むことが出来た。
ロウソクでも立っているのだろう、揺れる弱々しい光が足元をなんとか照らし、踏み外すこと無く降り進んでいけた。感覚的には5~6メートル分は下ったところで階段は終わり、土の地面だが室内らしきところでフード野郎の声が響く。
「よし、布を外していいぞ。その布は私物入れに使っていい」
汗が引かない俺の袋は顔に張り付き過ごし脱ぎにくかった。むわっとした熱気が袋を外したと同時に逃げ出し、呼吸のしやすさと相まって中々に清々しい気分になった。
一呼吸入れて周囲の様子を伺うと、所々木材で補強された土がむき出しの部屋だとわかった。部屋の四隅と天井中央にカンテラがぶら下がっており全体を照らしている。
「まだ多少歩く。その際周りの物に触れないようにな」
フード野郎は顎でついて来いと意思表示出すと、先に見える薄暗い通路に向かって歩き出した。俺達は言葉もなくただ黙々とつて行く。
色々と聞いてみたいこともあるが、このタイミングじゃないだろうな。場所を特定させない為なんだろうがこんな地下通路を通らされるとは思いもしなかった。
たいした距離がなかったのか、皆が入り込むには辛い空間に到着し、そこには重圧そうな金属製で両開きの扉が設置されていた。
扉の備えられた石壁。フードが何か呟くと俺達に少し下がるように指示をだす。
フードも俺たちも少し下がったところで扉が此方側開かれる。フードはとっとと中に入っていくので、それに続き俺達も中へ入っていく。
中に入ると現代風に言えばコンクリート打ちっぱなし見える室内となっており、武装した盗賊風の数名が表情無くこちらをみている。
あちゃー、これやっぱきちゃいけない感じだったかもな。キョロキョロすると睨みつけてくるくらいで特に何もしてこない。そしてこの部屋では特に説明もなく次の部屋へと通されていく。
「こっちだ。席につけ」
次の部屋は長机が10台ほど設置されており、一つの長机に対し背もたれなしの簡素な椅子が6脚設置されていた。
コンクリートってよりは漆喰か? 部屋全体の雰囲気からは食堂っぽい。あまりどうこう見ているわけもいかないので指定されて席についた。スラム住人達も次々席についてゆく。
「ふむ、今から雇用について正式な説明をする。おい、入って来い」
俺達の座っている席から少し離れた別の出入口から黒い外套をまとった男が入ってきた。年の頃は30代くらいか。短髪で黒髪、茶色い目をし掘り深く角張った顔。背は170前後で体型は隠れているが太くも細くもないだろう。目つきは鋭い。
「オーベルと言う、お前達の管理は俺に一任されることとなる」
俺達の前に来てそうそう軽い自己紹介。軽く俺達を睨むように見回し、俺に視線を向けたところで目を見開いた。
俺はその目をそらさずジッと見つめ返す。オーベルと名乗った男は俺の頭髪に注目、舐めるように全身を見るとまた頭髪に視線を止めた。
「ひ、卑怯者め!」
少し渋目の声だったのだが、あっひゃっひゃとちょっと高音な声で笑い出しやがった。フードも釣られるように俺を見て肩を小刻みに震わせ始める。
俺の横のやつもブハッと吹き出し、その笑いは伝達し俺以外は俺を見て笑い出した。
姿見に映した俺の姿を思い出し、俺も笑った。
でもなんでだろう、涙が出だした。
「静まれ!」
笑い声が少し落ち着いたタイミングでフードの鋭い声が響き、皆が一斉に笑うのをやめた。
「明るいところで見るとお前は酷いな。このままでは良くない、こだわりがあっての髪型だとしてもそれは受け入れられん。説明の前に剃らせてもらおう」
まだ数名の目は笑いを堪えてるのがまるわかりで、それでも声は出すこと無く静かに様子をみているようだ。
フードが腰からよく切れそうなナイフを抜き出し、俺に近づこうとした。
笑いものにされた俺に更に不運がやってきたようで、座っていたいた椅子がミシリと音を奏でると、脚の一本が俺の体重にこらえきれなくなり折れてしまった。
後ろ側の脚だったようで、当たり前だが俺は後ろに転がるように倒れ込んだところで場の空気が完全に死んでいた。
そして生き返った。笑い声で。
十数分後。
汚いハゲがボウズに進化した。だが脳内にでは罰の表記に変化はなかった。
「余計な時間を過ごしたな。オーベル! 説明を始めろ」
フードの言葉にオーベルが頷き一歩前に出た。
「では、説明を開始する。どこまで説明をされているか知らないが、質問は最後に受け付けるので静かに聞いていろ」
また椅子を壊されてはたまらないと、俺だけ立たされまま説明が始まった。
「お前達には家畜の世話をしてもらう。その家畜は食用であり、ストレスを与えると品質が下がる。なので……」
一つ、家畜の側で声を出さない事。
二つ、家畜を傷付けない事。
三つ、決まった時間以外に餌を与えない事。
四つ、どれだけなつかれようが情は持たない事。
五つ、家畜に関しては上の者に尋ねられない限り一切口にしない事。
この五つを念頭に世話をしないといけないらしい。この決まりは絶対であり破ると罰がくだされるらしい。ここでも罰かよ。
家畜は何種類かおり、全て別々に管理されているようだ。この為、餌の時間や清掃時間、運動をさせる時間など全てバラけるために数名でローテーションを組んで管理することとなる。
今いるメンバーは三種類の家畜を管理する事となり、すでに働いているグループに組み込まれるようだ。
細かい指示は、オーベル以外にいる数名のリーダー達に任されており、ここで働くと確定後引き合わされる。
食事は今いるここで食べられる。一日に二枚の食事券が支給され、自身で管理しある程度好きな時間で食べていいとのことだ。世話している時間以外は全て自由時間になるらしく、リーダー管理の元決まってくるらしい。
相当忙しい時期じゃないかぎりは働き詰めと言う事はない。
「部屋は一部屋に8人、認められれば個室も与えられる事もある。服はこちらで支給する。洗濯は二日に一回回収があるからその時出す事になる」
部屋の掃除は五日に一度は必ず、体も清潔に保たねばならず、水浴びなどに馴染みのないスラム住人は戸惑ってた。外出の際に支払われ中に戻る時は必ず預けなくてはならないようだ。外出許可が出ると口外禁止の誓約魔法を受けさせられる。外出の際、規定の額しか持ち出し出来ず、逃亡はしにくくなっている。仕事を辞める時はその時に説明がはいるそうだ。
「ほとんど意味は無いかもしれんが雇用が正式に決まった際には熟練カードを持ってもらう。これはここで働いている時だけの貸出だ。それとギフ…」
「そこは任せてもらおう」
フードがオーベルの説明に割って入ってきた。
「ギフトについて確認させてもらう。今お前達の中にギフト持ちはいるか? 言いたくないなら黙っていても結構だが…」
そこでフード野郎が自らフードを外し、長い髪を後ろにかき分けた。
あー、女か…も? 20代半ばくらいだろうか、男にも女にも取れる不思議な顔立ちをしていらっしゃる。キレイめな顔ではあるが声質も相まって判断しにくいなぁ。
「このフードは少々特殊でな、ギフトを持っている、もしくはギフトが出てくる可能性のある者に反応し、身に着けている者に知らせてくれる。無作為に声をかけたわけじゃない。スラムに落ちているくらいのお前達だ。つまらんギフトか、利用法も理解してないかどちらかだろう。だがそれを判断するのは我々だ。ギフトの内容によってはここで指し示した生活以上が望めるかもしれんぞ。僅かにでも可能性を信じ報告してくれたまえ」
しばしの沈黙が訪れる。ギフトの現れる可能性か。現状罰4つしかないけどなぁ。脳内で何度確認しても罰しかない。これに反応したんじゃないか?
そんな事を考えていると俺の隣の男が意を決したように声をあげた。
「あっ、あの!」
「よし、言ってみろ」
「お、俺には【風】てのがあるみたいなんです。そ、そのなんかいまいち意味がわからなくて…」
おどおどした感じで話し始めたのは線の細い大人になりかけってくらいの男だった。線が細いのは俺以外みんなだけどな。
「なるほど、よし、お前は仕事の合間に教育を施してやる。お前がやる気があるならばだがな。他にはいないか」
怯え、暗かった顔の青年は少し嬉しそうにはにかみ頷いている。
「俺もギフトある! 【生命維持】ある。死ににくい」
「ならばお前も教育の機会をやる」
ちょっと言葉足らずな感じで話す俺と同じ年代、いや、この世界に来る前の俺と同じくらいの男性は力強く頷いている。
ちなみに知識の中にあったのだが、ある程度の教育を受けていないとギフトの価値を理解出来ないとある。ギフトは感覚で使えるものもあるが、基本的には自身の知識レベルで利用法が分かるようになっているため、何を持っているかは分かるが利用方法が分からないということもある。スラムの住人等は教育を受けておらず、一生理解できないまま終わるものもいるそうだ。
「もう他にはいないのか」
フード、もう被ってないけどそう言いながら残りの俺達を見回していく。やっぱりと言うかなんていうか、やはり俺のところで視線がとまる。
「おい、ユージだったか、お前にこのフードは強く反応したんだが。…だんまりか。フードが反応しなければお前みたいな化物にまず声を掛けたりしなかったのだがな。素直に話した方がいいんじゃないか? 良い事はあれ損する事などまずないぞ」
言いたければいうっつーの。ギフトと言えるかもしれないが罰なんだよ! しかも普通にディスってんじゃねーし。悲しくなるから。
「出来れば言いたくない。いずれ話せる時がくれば話すかもしれないが。それじゃダメなんだろうか」
悩んだ様子でしばし俺を見つめるフードは、納得はしていない顔で仕方ないと呟いた。
「後の報告でもいい。新たにギフトが手に入ったものも話して損はないからな。以上だ」
問い詰めてこないだけここの組織はまっとうなのかもな。ゴミのように扱う気なら、ここに来た時点で無理やり口を割らせるだろう。
「説明は以上だ。働く気のあるものはこちらの用紙に名前を記入しろ。字が書けないなら代筆してやる。ここで真面目に働く限り生活の心配はする必要はない。記入の意思がなければ何も言わず袋を被れ。それと、質問があれば受け付けるがごちゃごちゃ言うだけならやめておけ」
この後誰も質問すること無く俺以外全員が代筆の上、名前の記入を済ませていった。俺は普通に書けたので自筆だ。もちろん日本語じゃない。
フードはここで別れ、オベールに引き連れられ更に奥へと入っていった。オーベルは俺達の行動出来る範囲と施設内の説明をしつつ、最後に飼育している家畜を見せてくれるらしい。移動中にすれ違う俺達の同僚となる連中は、肉付きはいいんだがどこか死んだような目をしている奴等が多かった。
しかしここ地下のはずなのにやたら広い。そんな感想を持ちつつもある一つの厳重な扉の前に連れてこられた。扉の両サイドには武装した兵士が立っている。
一切口を開くなと、当初の約束事を再度言い渡され全員が頷くのを確認すると、兵士に合図を送る。
そして開かれた扉の中に見えた家畜。
家畜を見た俺は驚愕の事実を知り体が硬直することとなった。




