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オロの勾玉  作者: 柳瀬 真人
6/10

第五幕

 「ねぇ、おじいちゃん」  ヒビキは、竹箒(たけぼうき)で畳の上の(ほこり)を掃きながら呼びかけた。


 「ん?  なんじゃい」  シグレは縁側で胡坐(あぐら)をかき、一人で将棋を指しながら返事をする。


 「今週末、綿津見祭(わたつみさい)でしょ」


 「ああ」


 「(うち)も、そろそろ準備しなくちゃいけないんじゃないの?」


 「ああ、そうじゃな」  シグレは、将棋盤から顔も上げずに答えた。 


 「まったく、もう。  毎年毎年、ギリギリになるまで動かないんだからぁ」


 「わかっとるよ」


 「ふぅ、そろそろお昼ね。  あっ、そういえばカイト君にお昼ご飯どうするのか聞くの忘れちゃった」  


 「ワシは、冷えた蕎麦(そば)がええのう。  ん!?  こいつは――」   シグレが境内(けいだい)に張ってある結界内で何かを感じ取り、顔が急に険しくなる。


 「どうしたの?  おじいちゃん」 


 その時だった。


 「頼もう!!」  


 玄関の引き戸がガラガラと開かれる音と共に何者かの声が家中に響き渡る。


 「はぁ~い、どちら様ですか?」  ヒビキが返事をしながら玄関まで出向くと、そこには薄汚れた身なりをした小柄な老婆と若い女が立っていた。


 ヒビキと目が合った若い女が頭を下げる。


 「おっ、これはこれは。 もしやヒビキさんですかの?」  小柄な老婆が問うた。


 「はい、そうですけれど、そちらは……」 


 ヒビキから少し遅れてシグレが玄関へと出向いた。


 「やはり、お主か……ベンテン」  シグレは、小柄な老婆を睨みつけながら言葉を吐いた。


 「ふん、久しいのう。  シグレ」 


 「え? おじいちゃんのお知り合いの方?」  ヒビキがシグレに問いかける。


 「一体、何の用じゃ。  何しに来た」  シグレがヒビキの言葉を無視しながら問う。    


 「なに、いま旅の道中でのぅ。  ちと、三日ほど厄介になりたいんじゃ」


 「はぁっ!!  貴様、よくもぬけぬけと――」


 その時、ベンテンの隣にいる若い女がシグレに向かって頭を下げた。


 「むぅぅ……」  若い女と目が合ったシグレの言葉がつまる。


 「で、そちらの娘さんは――  ん?  まさか……」  シグレが頭を掻きむしりながらベンテンに問うた。


 「ああ、そうじゃ。  オルガ様じゃ」


 「なぜに此処に?」  シグレの目が点になる。


 「おひさしぶりです、シグレさん。   そ、その、急にお邪魔して申し訳ありません」  オルガが一歩前に出て、再度シグレとヒビキに頭を下げる。


 「相変わらず心の狭い奴じゃのう。  ほれ、オルガ様もこうして頭を下げとるんじゃ。  三日くらいかまわんじゃろ」  


 「貴様も相変わらず礼儀の知らん不躾(ぶしつけ)な奴じゃ。  ちっ、好きにせい!」 


 シグレは、乱暴に下駄を履くと外へと出て行った。


 「おじいちゃん!  どこに行くの?」 


 「本殿で祭りの準備じゃ!」


 「あ、ありがとうございます」  オルガは、シグレの背に向かって頭を下げた。


 「すみませんなぁ、ヒビキさん。  急に押しかけるような真似をして」  ベンテンが頭を下げる。


 「いえいえ、そんな。  では、どうぞ上がって下さい」


 「ところでヒビキさんや、あつかましいついでに悪いんじゃがの、長旅でワシもオルガ様もこの通りでの、ちと先に湯にあたらせてもらえんかの、部屋を汚すのもなんじゃし」  ベンテンは腕を広げながら自分の汚れた身なりをヒビキに見せた。


 「あっ、そうですね、あはははは。  では、すぐにお湯を沸かしますんで、こちらへ」 


 ヒビキは、ベンテンとオルガを離れにある風呂場の方へと案内する。


 「……本当に申し訳ありません」  オルガは、恥ずかしそうに頬を赤らめながらヒビキに頭を下げた。





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