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オロの勾玉  作者: 柳瀬 真人
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第三幕

 カイトは、海側に建てられている綿津見わたつみ神社から斑鳩(いかるが)の町へとおりた。


 斑鳩(いかるが)は町を分断するかのように山から海に向かって緩やかな川が流れている。  カイトは、その川に沿って山の方へと歩いて行く。  川の水面は太陽が照らす光でキラキラと輝いており、その中では小魚や亀が泳いでいた。  山の麓近くに架かっている橋を渡ってしばらく歩くと、カラクリ屋がポツンと建っているのが見える。 


 カラクリは、人々の生活には欠かせない物だ。   家庭用品、移動手段等、日常生活の様々な場所で利用されていて、蒸気機関の力で動く。


 詳しい業務内容は知らないけれど、このカラクリ屋は主に家庭用品の販売、修理を行っているらしい。


 ちなみに半年ぐらい此処に通っているけど、お客さんが来店しているのを僕はまだ見たことがない。


 「ん?」


 ちょうど橋の真ん中あたりで見えてくるカラクリ屋から二つの人影が出て来た。


 珍しいな、お客さんだろうか?


 こちらに向かって歩いて来る。


 橋を渡りきる寸前ですれ違った。


 僕は、軽く会釈をした。


 二人とも、えらく汚れた身なりをしている。


 服装の感じからして、たぶんこの町の人ではないだろう。


 一人は小柄なお婆さんだ。  白髪のお年寄りだけれど背筋がピンと伸び、どこか言い知れぬ迫力を感じる。


 そして、もう一人はとても綺麗な女の人だった。


 おそらく僕より年上だろうか。  背丈は僕より少し高い。


 一つに束ねた長い黒髪を揺らしながら、お婆さんの後ろについて歩いていた。


 綺麗な歩き方をする人だった。


 僕と彼女がすれ違う寸前、なぜか睨みつけられるような視線を感じた。


 気のせいだろうか。


 そんな二人とすれ違い、橋を渡りきって少し歩くとカラクリ屋に着いた。


 お店と工房、二つの建物に分かれており、お店の出入り口には『カラクリ屋』と大きな看板が掲げられていた。


 「こんにちは」  カイトは店内にヒョイと顔をだした。


 店内には、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫などのカラクリ機械が置いてある。


 しかし誰もいない。  工房の方へと行ってみる。


 すると、ちょうど工房の出入り口から作務衣(さむえ)姿の男の人が出て来た。


 「おっ、これはこれは、カイト君じゃないかい」


 「こんにちは、ヒサシゲさん」


 「今日は、どうしたんだい?」


 「えっ、今日は、あの、馬移駆(バイク)の……」


 「ん?  ああ、そうかそうか、そうだった。  届いてるよ、蒸気炎振(じょうきエンジン)


 「そうですか、よかった」


 「まぁ、中古品だけど状態は全く問題ないようだし、結構な掘り出し物だと思うよ。  カイト君、ついてるね。  じゃ、どうする?  さっそく取り付けちゃうかい。」


 「はい、お願いします」


 「じゃ、ついておいで」  


 工房へと入って行くヒサシゲの後についてカイトも中へと入って行った。






 青空にはサンサンと太陽が輝き、一番高い位置に浮かんでいた。


 様々な工具、何に使用するのか分からない部品等が整然とされている工房内では、蒸気炎振(じょうきエンジン)の駆動音が鳴り響き、馬移駆(バイク)の排気口からは蒸気が噴き出している。


 「そこ!  そのまま握競(アクセル)を回したまま維持してて!」  ヒサシゲが馬移駆(バイク)に取り付けた小型の蒸気炎振(じょうきエンジン)の微調整をしながら大声で伝える。


 「はい!」  カイトも蒸気炎振(じょうきエンジン)の駆動音に負けぬ大声で返事をした。


 この作業を何度か繰り返し調整を終えると、二人は一息つくことにした。


 「はい、お疲れ様」  ヒサシゲがお盆に冷たいお茶と羊羹を載せて、カイトに差し出す。


 「あっ ありがとうございます」  カイトは汗まみれになった顔を手ぬぐいで拭きながら答えた。


 「いい感じだね、あの蒸気炎振(じょうきエンジン)。  あとは慣らし運転をして問題がなければ完璧だね」


 「はい」  カイトは、嬉しそうに返事をすると、冷たいお茶をグビッと一息に飲み干した。


 「でも、本当にいいんですか?  蒸気炎振(じょうきエンジン)の代金だけで……」 


 「ん?  ああ、いいのいいの、気にしないで。  君には、何かといろいろ手伝ってもらっているからね」 


 「ありがとうございます。  あの、ところでヒサシゲさん」


 「ん? なんだい?」  羊羹をパクついているヒサシゲがカイトの方へと視線を向けた。


 「今日、僕が来る直前に来ていた二人は、お客さんだったんですか?」


 「ん?  二人?  ああ、ああ、あの二人ね。  あの人達はね、お客さんとして来たんだけれども、ちょっとした昔の知人でもあるんだよね。  ていうか、カイト君、あの二人に会ったのかい?」


 「会ったというか、すれ違っただけですけれど……」


 「ふ~ん、そうかい、すれ違っただけかい。  何か話でもしたのかい?」


 「いえ、挨拶をしたぐらいですけれど……」


 「そうなんだ。  いやね、あの人達、旅の途中らしくて、なんでも移動で使っていた三輪馬移駆(さんりんバイク)が故障しちゃったらしくてね、代わりになる物を貸してくれってさ。  ははっ、困っちゃうよね、急に言われても。  ほんと昔から変わらないなぁ、あの人は」  ヒサシゲは、何か思い返すかのように、そして何か嬉しそうに一人ごちた。  


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