表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オロの勾玉  作者: 柳瀬 真人
3/10

第二幕

 「御馳走様です」  カイトは朝食を食べ終え、空になった食器を重ねて台所に持って行った。


 「はい、御粗末様でした」  ヒビキがニコリと笑みを浮かべながら食器を受け取る。


 藺草(いぐさ)が香る畳が敷き詰められた居間で、すでに朝食を食べ終えていたシグレがキセル煙草を吸いながら新聞を読んでいた。


 「おい、ヒビキ。  お茶いれてくれ、お茶。  熱々のシッブ~いヤツを」 


 「はいはい。  ちょっと待って、洗い物先に済ませてからね」  


 この会話のやり取りを毎朝目にするカイトは、なぜか顔がほころんでしまう。


 何故だろうか?


 一度ヒビキさんに代わって、お茶を淹れた事があるけれど、シグレさんの「不味い」の一言で僕のお茶いれ担当は終わってしまった。


 ヒビキさんがいれてくれたお茶と、僕がいれたお茶を飲み比べてみたけど、やはりヒビキさんのいれてくれたお茶の方が断然美味しかった。  不思議だ。


 「カイト君も飲むでしょ。  お茶」  洗い物を済ましたヒビキが尋ねる。


 「あっ、あの、僕、これからカラクリ屋に行こうと思ってて……」  カイトが申し訳なさそうに答えた。


 「それって、町外れにあるカラクリ屋さんでしょ?  ちょっと風変わりな店主さんがやってる」  


 「えっ、う~ん……風変わりというか、なんというか……まぁ、ちょっと変わった方かもしれないですけど心配ないですよ」


 「なんでぃ、お前とコレでもしようかと思ってたのによ」  シグレが将棋の駒を指す仕草をする。


 「すみません。  今日、頼んでいた部品が届くはずなんです」 


 「ああ、もしかして、この前話してた、カイト君が造ってるって言ってた馬移駆(バイク)?」  ヒビキが思い出したように問うた。


 「はい、足らなかった部品が今日届くはずなんです。  僕は、ほとんど手伝っているだけですけどね」 


 「じゃ、気をつけて行きなさいね」


 「はい。 じゃ、行ってきます」  カイトは席を立ち、出かける準備を済ませ玄関へと向かった。


 「カイト君、忘れてるわよ」  見送りに来たヒビキが自分の目元に指をさす。


 「おっと!  忘れてた。  なかなか習慣づかなくて」  カイトは洗面所へと向かった。


 洗面所に設置されている棚の扉を開き、眼鏡を取り出すと洗面鏡に向かって自分の顔を見つめた。


 鏡に映るのは見慣れた自分の顔に不自然な深紅の瞳。  


 深紅の瞳で自分の顔をジっと見つめる。


 「カイト君。  何、ボ~っとしているの?  大丈夫?」  ヒビキが、カイトの背後から声をかける。


 「あっ! はい、大丈夫です」と、カイトは眼鏡をかけた、すると深紅の瞳が眼鏡越しから見ると黒い瞳に変化した。


 「じゃ、行ってきます」と、カイトは玄関口でヒビキに挨拶を済ませると出かけて行った。 


 「いってらっしゃい」と、カイトを見送ったヒビキは、考え深い表情で立っていた。


 「なんじゃい、突っ立ったままで」  便所から出ていたシグレが不思議そうに尋ねる。


 「大丈夫かしら、カイト君」 


 「まったく、お前は、ほんとぉ~に心配性な奴じゃなぁ」 


 「だって……」


 「そんなに心配せんでもええわい」


 「……うん」


 「あいつが此処に住むようになって、そろそろ二年近く経つかのぉ。  時間(とき)が経つのは早いもんじゃて」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ