優しい世界での1日 放課後
「…………!」
「大屋敷、授業中妙にそわそわしてたけど、放課後何かあるのか?」
「…………!」
春は「ライフ」に書き込みを行い、桜井宛に送る。
『クリーム! たっぷり! クレープ』
「んん? ああ、クレープ屋に行くのか。大屋敷は甘いの好きそうだもんな~。いつものメンバーとか?」
「おーい、春。 ダルイ授業も終わったし、とっとと行こうぜ」
「…………」
春はコクコクと頷き、立ち上がる。
『桜井も行く?』
「誘ってくれるのか、嬉しいな。行きたいのは山々なんだけど、用事があって……また今度誘ってくれると嬉しいな」
『わかった』
「じゃあまたな、大屋敷に大地」
「…………」
「じゃーな、桜井。お前ら隣同士にしてもよく話すよな。仲いいのか?」
『まあまあ』
「お前も何気に顔が広いよな。じゃあ庵子が便所から戻ってきたら、向日葵ちゃん迎えに行こうぜ」
「…………」
コクりと頷き、肯定した所で思い出す。今日返却期限の本があることを。
『その前に本を返してくる』
「一緒に行くか? って図書室といえば、ははーんあの子に会いに行くんだな?」
「……!」
それが目的じゃない、と少しだけ頬を赤く染めながら首を横に振るう。
「恥ずかしがることねーじゃねえか。わかった、わかった! 庵子と向日葵ちゃんには上手く言っておくから、行ってこい!」
「……」
こうなると何を行っても無駄だろう。
心の中でため息を吐きながら、春は頷いた。
「じゃあ、北側の校門辺りで待ってるからな! ゆっくりしてきていいぞ~」
「…………」
彼の声を背に受けながら、春はとぼとぼと図書室に向かった。
「…………」
「返却ですね? 少々お待ち…………って先輩! 来てたんですね。もう図書室では会えないかと……」
「…………」
春は、ごめん、というように軽く頭を下げる。
「謝るようなことじゃないですよ~。折角だし、少しぐらい話したいなー……ちょっと待っててくださいね」
彼女はそう言うと、他の図書委員のこの方へ向かって歩いていった。
暇になった春は、彼女――加瀬 美夏と会ってもう1年半以上になるんだな、とぼんやり昔のことを思い出していた。出会った時の彼女は――
「先輩! お待たせしました。ちょっとの間だけですが、他の子に変わってもらいましたので、いつもの場所でお話しましょ!」
「…………」
頷いたあと、いつもの場所に向かいながら「ライフ」に書き込みをおこなう。
『喋れないけども』
「もう先輩! そういうブラックジョークは禁止って言ったじゃないですか~」
『図書室……静かに』
「なっ、納得いきませんけど、確かに図書室では静かにしないとですね。では、私も失礼して……」
彼女もスマートフォンをタップする。おそらく「ライフ」に書き込みを行うのだろう。
それにしても、いつ見ても彼女は図書委員ぽくない見た目だと、春は思った。
明るい髪、パッチリとした目、バリバリ運動してますよと言わんばかりの体。
やっぱり自分のイメージする図書委員とは違うな、と春は思うが、同時にかなりの本好きだというのも知ってた。
『せんぱい! そんなにジロジロと見られたら恥ずかしいです……』
『そーりー』
『否定しないんですね……初対面の時も妙に堂々としてましたもんね』
『そうかな?』
『そうですよ。あっ、着きましたね。いつも通り図書室の中でも一際目立たない場所ですね』
彼女はそういうと木製のベンチに座った。春もそれにならい、座る。
それにしても、本当にこの周辺は人がいないし、目立たない。
そんな場所で彼女と出会ったのだけど、と春は思った。
『うーん、今だにここに来ると落ち着きます』
『自分も』
『図書室の妖精っぽいですもんね。先輩って』
『失礼』
『冗談ですってー』
春も言葉は淡々としているが、口元には笑みがこぼれていた。
『で、わざわざこの場所に来たのは、先輩に改めて感謝を伝えようと思いまして……』
『もう気にしなくていい。充分』
『そう言うと思ってましたけど、先輩には感謝してもしきれないんです。先輩があの時いてくれなかったら私……』
「…………」
春は苦笑いしながら
『どういたしまして』
と、一言だけ書き込んだ。
『はあ……先輩には敵いそうにありませんね。何か私にお願いしてくれていいんですよ?』
『そういうのはいい』
『残念です。なんでもしてあげられるんだけどなぁ……じゃあ今年もチョコを作るので、それぐらいは受け取って下さい!』
『もちろん。楽しみにしてる』
『あとあとっ、図書室ではもう会えませんけど、「ライフ」では今までみたいに話しましょうね!あと遊びにも!』
『加瀬と話すのは楽しい。一緒にいると落ち着く』
「せんぱいっ…………だ、大五郎!」
『大五郎?』
「なんでもありません! 忘れてください!」
『わかった』
「こういう時は先輩淡白ですよね……はあ、私があと1年早く生まれてればなあ」
『自分も残念。でも来年にはまた一緒の高校。だから待ってる』
「はい、待っててください! あ、なんでしたら留年してくれても……!」
『それはない』
「ですよねーってもう20分近く経っちゃってる……名残惜しいですけども」
『自分も用事があるから気にしないで』
「なら引き止めちゃってすみませんでした。一緒に受付の方まで戻りましょう」
『うん。話せて良かった』
「私もです!」
歩きながら、彼女の後ろ姿をじっと見る。
桃色のオーラを纏っている彼女の姿が見える。
良かった、と春は安心する。出会った時のような色でなかったことに。
そして願う。彼女が幸せでありますようにと――
「…………」
校門前で待っている3人を見つけた。
あちらも気づいたようなので、春は手を振る。
「おいっす! 来たな。もう少しゆっくりしていても良かったんだぞ」
「……」
首を横に振りながら、「ライフ」のグループに書き込みをおこなう。
『お待たせ。充分。クレープ』
「そっか。ならいいけどよ。クレープ屋は駅の方にあるからこっちだな」
大地は話しながら、駅の方に向かって歩き出した。
「春~先生に呼び出されたって、何かあったの?」
「……?」
春は庵子の言葉を疑問に思ったが、気付く。
大地か、大地がそう言ったのかと。
「……」
大地の方をチラリと見る。
他に何かいい言い訳はなかったのか、という思いを込めて。
その視線に気付いたようで、ウインクをしてきた。
ウインクを含めた行動について春は一言、大地に向けて「ライフ」へ書き込む。
『キモい』
大地もすかさず返信をしてくる。
『そりゃねーよ~。感謝の一言があってもいいんじゃねえの?』
先生に呼び出されたなんて言ったら、自分が悪いことをしたみたいじゃなか、と春は苦い顔をする。
何より間違いなく心配される。現に――
「お兄様? 何かあったのですか?」
心配そうな顔と声の向日葵の姿があった。
「……」
春は何もなかったよと苦笑いをしながら、書き込む。
『図書室に本を返しに行ってただけ。大地は勘違いしてた』
「そうなのですか……安心しました。ですが、それにしては随分と長く……あっ加瀬さんと会われていたんですね」
「…………」
「あれ? 向日葵ちゃん、あの図書委員の子知ってたの?」
「はい、何度か家に遊びに来られましたし、お泊りもしたことあるんですよ?」
「えええっ! 初耳だぞ、春! お泊まりってそんなに進んでたのか!?」
『大地が想像してたようなことはない』
「加瀬さんは元気でしたか?」
「…………」
「そうですか、なら良かったです」
「私も春が図書委員の子と仲が良いのは聞いてたけど、お泊りまでしてたなんて知らなかったよ。向日葵は色々と心配じゃなかったの?」
「心配なんてしませんよ。お兄様を信じていますから」
「うー向日葵は大人だね。私は春が遠いところに行っちゃったみたいで寂しいかも」
「庵子は大げさね。お兄様だって恋の1つや2つぐらいするもの」
「……!」
「ふふっ違うのですか? でも私もお兄様に彼女が出来たとしたら、寂しいですね」
『出来る予定はない。安心して』
「それはそれで、残念というか……」
『わがまま』
「妹とはそういうものです」
向日葵はそう言いながら、微笑む。
「お兄様は私に彼氏が出来たらどう思いますか?」
『…………寂しい』
「でしたら、彼氏は作りません。お兄様を寂しい気持ちにさせたくありませんもの」
「多分2人はその辺のカップルより仲が良いよね……あん!もうー春休みになったら2人の家に泊まりに行くから!」
『どうぞ、どうぞ』
「前回は私達が庵子の家に泊まりましたからね。是非いらしてください」
「庵子だけずるいぞ! 俺もとーまーりーたーい」
『いつもの事なんだから聞かなくていい』
「春! やっぱりお前は優しいなあ」
「大地さん、泊まるのは構いませんが、あまりお兄様に触れるのは……」
「えっ肩に手を置くぐらいいつも……向日葵ちゃん、もしかしてまだ疑ってるの!?」
「い、いえそんなことはありませんよ? あっ着きましたね! 早速入りましょう」
「露骨すぎだよ! おい、庵子! お前のせいで向日葵ちゃんに誤解されちゃったぞ!」
「わー春、このクレープ美味しそうだね。寒いし、早く中に入ろう」
「…………」
「ちょっ、皆置いてかないでくれ!」
「はあ、あの店員さんいなくて残念だ。春に見せたかったのになあ」
『大地の将来の彼女が見られなくて残念』
「か、彼女って、そんなんじゃねよ、へへっ」
「どうせ話したこともないんでしょ? 春の頼んだクレープ見た目も値段も凄かったよね」
「くっ……否定できねえ。確かに春のクレープは凄かった。2000円って高すぎんだろ」
「高いよねー。私も迷ったけど、今月のお小遣いギリギリだからな~」
「庵子の家はそういった所厳しいものね」
「うう、向日葵達の家はあんまり厳しくないもんね」
「そうですね。普段会えない分緩くされてるのかもしれません」
『ガンガンいこうぜ』
「ガンガン行っちゃっていいのか……?」
「お兄様はあまり物を買われませんからね。これぐらいの出費は問題ないでしょう」
「時々感じる庶民と金持ちの差……! 悔しくないもん!」
『どんまい』
「春……そういう言葉が一番心に来るんだぜ……」
傷つけてしまったかと、春は大地をじっと見る。
薄くではあるが、橙色のオーラを纏っていた。よかった、傷ついてはいないらしい。
「お兄様、口にクリームがついてますよ」
向日葵はそう言って、春の正面に回り、口を拭きながら、目を見る。
また能力を使いましたね? と目で訴えかけてくるようだ。
能力を使うと向日葵は良い顔をしない。なぜだろうと春は考える。
「……」
「こらこら、私達もいるんだから、恋人の雰囲気を作るの禁止!」
「恋人だなんて! そんなのじゃ……」
「…………」
向日葵は頬を赤く染めながら、顔を横に振る。
助かった、と春は庵子を見ながら頭を軽く下げる。
それを見て、庵子はスマートフォンを操作する。
『どういたしまして。借り1ね!』
庵子は昔からよく気が利く。そして抜け目がないところも変わってない。
春は苦笑いしながらそう思った。
夜になろうとしている街を雑談しながら歩いていると、十字路に差し掛かった所で、庵子が
「私と大地はここで2人とお別れかな? それじゃあまた明日~」
「もうここか。じゃあな2人とも! 泊まりの件忘れるなよー」
「…………」
春は手を振りながら、2人を見送る。
いつも別れる瞬間、少しだけ寂しい気持ちになる。
「行ってしまいましたね。では私達も帰りましょう」
「……」
「寂しそうですね、お兄様……ですが、明日になれば会えますし、家に帰れば菫さんもいます。そして私も」
「…………」
コクり、と頷きながらこの寂しい気持ちと別れを告げる。
明日になればまた会える。そして家に帰れば菫がいるのだ。なにより向日葵がいる。
何も寂しがる必要なんてないのだ。
安心したら、なぜか、いつも側にいてくれる人へ感謝の気持ちを伝えたくなった。
「…………」
春は口を大きく開き、声の出ない口で伝える。ありがとうと――
最後までお読み頂きありがとうございます!
これにて優しい世界での1日 ~Color of the heart~ は完結です。
書いてて気に入っちゃったので、いつかバレンタインデーの短編や高校生編を長編で書きたいですね。ではでは、他の作品もよろしくお願いします。




