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魔法学園クロムナード  作者: 華城
1/1

プロローグ 暇を持て余した神々の遊戯

コメントや評価など、是非よろしくお願い致します。


 人間の価値は何で決まるのだろう。


そんな唐突で返答に困る難題を考えて、早くも五年程の歳月が過ぎ去っていた。

俺、白峰黎人しらみねれいとは未だ、答えを出せずにいる。


昔から取り柄も無ければ特筆した武器もない、ただの凡人だった。


 勉強も運動も、最低限の行動はできるけれど、それ以上の動きは出来ない。夢も未来も野望もなく、刹那的に自分の好きな事だけをして流れていく日々。多分、俺のような凡人や一般人は沢山居るんじゃないかと思う。あくまで直感だけれども。


何もしないから何も出来ない。ではなく。

何も出来ないから何もしない。それが俺のやり方だった。


 基本クラスでも影を薄めて細々と生活する事で、空気の良し悪しに鋭いリア充な人間達は挙って俺を空気として扱う事にした。勿論、それを狙って俺は行動していたし、彼らもリアクションが薄くて面白味に欠ける人間を無理に気遣うような態度は避けたいに決まっている。


別にここは戦国時代じゃない。配下も家臣も必要ない。一人でいたって問題ないんだ。

例え一人きりであろうが、即座に命が狙われるわけじゃない。


斜に構えた考えだというのは理解している。

結局俺は何も出来ず、故に何も起こらない、平淡な日常を繰り返す。

まるでタイムリープしているかのように、俺には毎日が同じように見えたのだ。


……さて、では話を戻そう。


人間の価値とは何で決まるか。

多分それに唯一無二の答えはなく、回答者によって正答は千差万別なはずだ。


 人望、資金、コミュニケーション能力、ルックス、性格……それ全ての総合評価こそが人間における最大で最高の付加価値だ。言ってしまえば、人望に厚く、大金持ちで、対人の会話スキルに長け、顔も良くて、性格も良い。アニメにありそうな、そんなキャラを演じることで、そして天性的に持ったモノを活かすことで、人間として最大の価値を得ることができる。


だが、そんな人間は居るはずがない。

完璧じゃないが故に、人間には羨望や嫉妬の感情があるのだ。

不完全である事を正とする醜い人間に、完全を求めること自体間違っている。


しかし、不完全だからこそ完全を望むのは当たり前というのも事実。


結論を言えば、価値とは等しく同じくあるはずのもの。

長短があるのと同じく、評価されるポイントにおける良悪があるのも当然。


それでも、やはり底辺と頂点が存在し、そこには明確な格差が生まれる。


 顔が良い人間は異性に好かれ、そしてその人間に群がる異性をお零れでもらうが為に同性がその人間に付きまとう。人望に厚い人間は言うまでもなく、異性同性関係なく人柄を好かれる。資金のある人間は金にモノを言わせて人間を従える。コミュニケーション能力に長ける人間は、巧みな話術と飽きさせない対人スキルで相手を引き込む。性格が良い人間は、人望に厚い人間同様に、自然体で居ることでより人間に好かれていく。そういうシステムなのだ。


つまり、評価されるべきポイントに特化していない俺は、全てがゼロ。

下手をすればマイナスという評価を下されているわけなのだ。


普通の檻から抜け出せず、天才の領域で胡座をかく人間を羨望する。

結局俺のような人間はギャラリーに過ぎず、生まれ持っての脇役にしかならない。


だが、それは《普通で平凡な人間》だけに限った話だ。

いや、もっと厳密に言えば、《何もしないから何も出来ない人間》だけなのだ。


多分、俺はそのシビアな判定基準で審査された結果、違う部類に属された。

つまり、平凡の枠を、普通の檻を、抜け出した。


そう、俺は━━━







◆      ◆      ◆







 「異世界……転生…?」


そう呟いた俺に対して、気怠げな妙齢の女性はコクンと頷いた。

現在俺が居る場所は、目の前の自称神様曰く《次元の狭間》なのだそうだ。


ここに来て早数十分、俺は彼女の無駄話に付き合わされていた。


「だからねぇ、アナタは強い力を持ってるしぃ、なんていうかぁ、まぁ、その……言っちゃえばぁ、適正があるってことよぉ。転生して、チート能力手に入れて、世界を変革するに足る人物ぅって事になるんでしょうねぇ。多分。アタシはよく分からないけどぉ」


語尾を伸ばす独特な喋り口調、聞き取りづらい上に内容が入ってこない。

彼女の話は先程から要領を得ず、何度も無限ループを繰り返していた。


俺がここに来たのも、彼女の気紛れだったのだろうか。


 俺は普段通り帰路についていた。学校が終わってから放課後に残るようなリアルを充実した人間ではないので、早々にその席から退出、学校から脱出させて頂いたわけである。

 そして、家を目前にした残り数百m付近で、反対車線から飛び出してきた車に衝突。否、衝突する瞬間に意識もそして肉体も消えていた。厳密に言うならば、死ぬ寸前にワープ能力的な何かでこの謎の空間に召喚された、と言うのが正しいのだろう。


何せ相手は神様だ。自称ではあるが。

そして、何気なく呼び出された俺は、ここでとある提案をされている。


異世界へ行って、チート能力受け継いで無双してみない、と。


あくまで要約だ。もう少し小難しい言葉を並べていた気もする。

謂わば転生チート。夢に見た異世界転生が、この俺のもとに降り注いだのだ。


「今なら三つ特典ついちゃうよぉ。なにせぇ、今から行く世界はぁ、魔法第一主義な世界だからぁ、全属性魔法に対する適正能力なんかをぉ、つけちゃうよぉ?」

「凄く有難いし、めちゃくちゃ魅力的な提案なんだけど、なんで俺なんだ?」

「言ったでしょぉ? 適正があるってぇ。これ以上聞くのは野暮ってもんよぉ。良いから決めちゃいなさいよねぇ。男ならぁ、ピシっと決めるのがぁ、礼儀じゃないのぉ?」

「それは心意気とか意気込みに近いけどな…」


既に親切な接待すら満足に出来ないご様子である。

今も怠そうに上半身を透明な箱状の何かに突っ伏して話しているのだ。

長引かせるのは悪いと思いながらも、やっぱり聞かずにはいられない。


何故俺なのか。俺が選ばれる資質とは一体何なのか。


別に誰でもいいなら俺以外にもっと適任が居たはずなのだ。

それこそ世のリア充なんかは、一も二もなくオーケーを出して今頃異世界だろう。


「無理強いはしないけどねぇ。アナタはぁ、あっちの世界じゃぁ、取り柄もなくてぇ、平凡な高校生活送ってるわけでしょぉ?」

「大方間違ってはいないが、随分失礼だな」

「良いじゃなぁい、ならさぁ。心機一転、セカンドライフってやつよぉ。何せアナタはぁ、天性の能力で既に最強の領域に片足突っ込んでるのよぉ? 後はアンタの努力次第でどうにでもなるわぁ」

「……俺TUEEEEを批判するわけでもないし、本当に良い提案だとは思うよ」

「それならぁ、何を躊躇う必要があるのぉ? 兄弟とか姉妹でも居たのかしらぁ? それともぉ、実はあんなスリルのない生活がぁ、大好きなんですぅってオチぃ?」


そうだ、何故自分はこんなにも躊躇っているのだろう。

自分を変える良いチャンスじゃないか。

あっちの世界の俺は、居て居ないような存在。消えたって変わりゃしない。


「(そう、だよな。俺は……)」

「決心はついたかしらぁ?」

「………わかった。その異世界行きの話、乗らせてもらう」


そう言うと、彼女の瞳は爛々と脈打つように輝き始めた。

どうやら言質は取ったぞ、という意味合いらしい。


「そぉう! 良かったわぁ~。それじゃぁ、アナタへの特典を発表しまぁすぅ」

「軽いノリだな…」

「まぁねぇ。今まで何人か送ってるしぃ、慣れてきた感じぃ?」

「……そうかい」


甘ったるい喋り方は好きじゃない。この自称神様と会話するのは気分が悪い。

俺は結局押し切られる形で同意してしまったが、まぁ、それも悪くはないだろう。

チートについても、取り敢えず現段階で異論はない。


「まずはぁ、《全属性魔法高位適正能力》でぇす」

「それは…一体?」

「五行の理ってヤツでぇ、火ぃ、水ぅ、風ぇ、土ぃ、雷ぃ、のぉ、五つの属性にぃ、強い適正能力を持つって意味合いでぇす。魔法使い放題って考えてくれていいよぉ」

「……その語調なんとかならないのか」

「それはぁ、無理ですぅ」


若干食い気味に答えられた。

尚も元気一杯な様子で、チートの発表と説明を続ける。


「次にぃ、《敵の攻撃を予測する眼の能力》でぇす」

「…まぁ、何となく予想はつくな」

「文字通りの意味ですねぇ。攻撃する技ぁ、方向ぅ、場所ぉ、全てが分かりますぅ」

「強いな…」


チート、なんて言葉では釣り合わないレベルまで来てしまっている気がした。

しかし、そんな事はお構いなしに、最後の能力を発表した。


「最後はぁ、《運動能力大幅向上》でぇす」

「……これはチートなのか?」

「一応そうですよぉ。運動能力の基礎が上がるだけでなくぅ、トレーニングによる上昇幅も大幅にプラスされるんですぅ。凄くないですかねぇ?」

「…まぁ、凄いな」


どうやら三つセットで使うと、想像以上の戦闘力になるらしい。

まるで通信販売の売り文句である。そう考えると、それしか思いつかなくなってきた。

取り敢えず雑念を払う為、大きく頭を振るった。


「さてぇ、準備は整いましたねぇ」

「え? いや、チート能力の発表はあったけど、それだけじゃ…」

「もうプレゼントしてますよぉ。だからぁ、アナタにはぁ、もう力が宿っていますぅ」


そう言われても実感が湧かない。

その点を含めて、あっちの世界で学んで来いという叱咤激励(?)なのだろうか。

取り敢えず、俺は自称神様の言葉を信じることとした。


「あっちに送る事自体はぁ、すっごく簡単なのでぇ、少しエキセントリックでぇ、スリリングなトコロに送る事にしましたぁ!」

「……それ完全に俺の死亡フラグじゃねえかよ」

「大丈夫よぉ。別に龍が蔓延る剣山の一角とかじゃないからぁ」

「そんな場所あんのかよ…」


比喩表現が既に比喩の領域を超えていて、思わず戦慄した。

まぁ、確かに、ここまで粘って同意の意思を勝ち取った俺をみすみす殺すのは無駄だ。

時間も努力も全てが水の泡。そんな事をするメリットは彼女にない。


「……ありがとよ」

「お礼なんていらないわよぉ」

「皮肉って言葉を知ってるか」

「聞いたことないわねぇ」

「…もういい。早く送ってくれ」

「せっかちなんだからぁ」


急かしてきたのはそっちじゃねえか、とは言わない。

心の中では大分叫びたい衝動に駆られたが、じっと我慢だ。

どうせ異世界とやらに行けば、このヘンテコな自称神様などすぐ忘れる。


そう思えば、こんな事━━


「さぁ、行くわよぉ?」

「お、おう…」

「じゃなくてぇ、いってらっしゃぁい」


トン、と軽く背中を押された。

すると、真っ白だった空間に黒い穴が出現し、俺はそのまま吸い込まれた。

混濁する意識と景色、俺は即座に深い眠りについた。







◆      ◆      ◆







 「………~~!」


「……ん?」


騒がしい声に俺の意識は引き戻された。

脳が稼働していく過程で、前後の記憶は無事脳内に収まっている事を確認。

しかし、問題はすぐさま発生した。


「ねぇ、そこの下着取ってくださりませんか?」

「あ、貴女のでしたのね。分かりましたわ」


聴こえてくるのは上品な言葉遣いをした、美しい女性の声。

そして、若干ディープな内容。


「(…おい、待て。何だ、今さらっと不穏なワードが混じってたよな? 今…)」


下着って……。

ここは、もしかして、いや、もしかしなくとも。


「(女子更衣室かァァァァァ!?)」


思わず暴れ、そして鋼鉄製の壁にぶつかってガタゴトと奇妙な音を鳴らす。

先程から視界が暗いと思っていたが、ここはどうやら更衣室のロッカーの中らしい。


「(あんの野郎……!!)」


何がエキセントリックでスリリングなトコロだ!


そう叫ばずにはいられないのだが、やはり我慢だ。

さっきの奇妙な行動で俺の存在がバレている可能性は高い。

無難に、尚且つ平穏にやり過ごす方法は。


「(バックれるしかねえ!)」


取り敢えず黙り込むことにした。

しかし、周囲の反応から完全にこのロッカーが怪しまれているのは明白だった。

その時。


「まーったく、アンタ達は仕方ないわね。アタシが見てあげるわよ」

「シュトラ! 貴女またそんな汚い言葉遣いを…」

「別に良いでしょ。ってかアタシが見ないで誰が見るのよ、ここ」


一人の女子生徒━━名前はシュトラと言うようだ━━がここを開けようとしている。

完全にマズイ状況なのは、俺、白峰黎人本人だ。


「(くっそ! なんとかなんねぇのか…)」


ちっちゃい子供程度ならもう一人入れそうだが、それでも空間は狭い。

俺が暴れては本末転倒だし、ここから出て行くのは以ての外だ。

となると、残る手段は一つ。


「(相手が開ける瞬間と同時に出るしかねえ!!)」


俺は身構えた。何せここは女子更衣室、失敗すればリンチでは済まされない。

ドクン、ドクン、と鼓動が脈を打つのが聞こえる。相当に緊張しているんだ。

そーっと、扉に手をつける、開けた瞬間と同時に扉を押して逃げる空間を確保する為だ。


「(………)」

「ほんと、怖がりなヤツばっかなんだから、こんなのはねぇ……」

「(……今だ!)」

「こう、すんのよッ!」


ガィン! と鋭い蹴りが放たれた。

まさかの蹴り。予想外過ぎる。場外ホームランもビックリだ。

しかし、マズイ事になってしまった。


何せ俺は勢い良く扉を両手で押した。

対して牽制に近い蹴りを放ったのは女子。


「「あ」」


扉は蹴りを跳ね除けて開き、右足をあげた状態を崩した女子に覆いかぶさる。

それと同時に、両の手に僅かな柔らかい感触が伝わってきた。


「………」


視線を戻すと、そこは少女の胸の中だった。

下の下着はつけているようだったが、上の下着がついていない。

つまり、完全に触ってしまっている。


その女子は、最初驚いたような顔をしていたが、すぐさま顔を真っ赤にした。


そして。


「死なすぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!」


起き上がる勢いで放たれた蹴り。

それを見事回避した俺。


「……三十六計逃げるに如かず!!」


そしてそのまま逃げる。ランナウェイだ。


「くっそがぁぁぁ! あの野郎、覚えてやがれぇぇぇ!」


加えて、俺はそう叫んでいた。


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