18:30 神崎木葉・天宮壮介
何処からともなくカラスの鳴き声が響いた。
先ほどまで青く透明に澄み切っていた青空も、まるでオレンジ色のペンキをぶちまけたかのように、ゆっくりと紅く色づいていく。
そんな空を見上げながら、二人の人影がほぼ同時にため息を吐いた。しかし、二人の顔にはそれぞれ別の感情があった。一方は疲労感と焦燥感からなのか険しそうな顔をし、もう一方はまだまだ楽しそうに笑っている。正反対の表情だった。
神崎木葉と天宮壮介の二人は遭難していた。比喩表現などではなく、本当に遭難していた。どこを見ても木ばかり。地図を見ても現在地を一切把握できない。携帯電話は圏外で電波が入らない。さらに日が落ちかけているので視界が悪くなっている。懐中電灯は何本かバックの中に入れてあるが、それだけで真夜中の森を歩くには少し頼りない。無い無い尽くしとはこのこと。まさに八方ふさがりだった。
遠くの山でオオカミが一鳴きする声が聞こえる。その鳴き声はまるで、何かに怯えているような、そんな風に聞こえた。
八月の空は時間を追うごとに少しずつと暗くなっていく。それに比例して空気も少しずつ冷えていった。
「なんか寒くなってきたね・・。壮介、カイロ持ってない?」
「なあ、木葉。もう帰ろうぜ」
とぼとぼと歩く少年、天宮壮介は、自分の隣を歩いている黒髪の少女、神崎木葉にそう申し出た。白いショルダーバッグを肩にかけ、紺色のプリーツスカートと黒い半袖のパーカーという服装をした彼女は、うーんと悩むような素振りを見せる。
壮介は早く帰りたかった。これ以上日が落ちると帰宅はおろか、下山することが不可能になる。だが、それ以上に彼にとっては夜になった森が怖かった。それは幼少の頃、真夜中の森に放置された経験から夜の森というものが大の苦手となった。幽霊などはもっての外。とにかく帰りたい。なのに、
「やだ」
帰ってきたのは予想の遥か上を行く回答だった。
「だいじょぶ。私はこの山に詳しいし」
木葉は笑いながら言った。
(僕はそういう意味で言ったんじゃないけどねぇ!!いや、それも少しはあるけどっ!)
叫びたくなったが本当に叫ぶなんてしない。口が滑っても言えない。言ったら最後、タコ殴りにされるのがオチだ。しかも、どれだけ逃げても執念深く追ってくるからさらにタチが悪い。小さい頃に受けた木葉からの一方的な暴力は、幼い壮介には深いトラウマを植え付けていた。
(ぅおッ!なんか背筋に悪寒が・・・)
不意にあの時の悪夢を思い出して身体を震わせる。
「どしたの?寒い?」
木葉が顔を覗き込みながら尋ねた。震えている理由が自分にあるとは思っていないのか、きょとんとしている。突然のことに思わずドキリッと心臓が跳ね、背中に嫌な汗が流れる。ばれたらやばい。今はやられないだろうが、帰ったらボコボコにされる。
「あ、あはは・・なんでもない、です」
引き攣った笑みを見られないように俯いて歩く。木葉は少し怪訝な表情になったがそれも一瞬。すぐに前を向くと足早に歩きだす。
誰だって自分の身が一番なのだ。
(いつになったら帰れるのかなぁ)
空を見上げるともう、オレンジ色から紺色へ変わっていた。
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二人は木の根に腰を下ろし、束の間の休息を取っていた。そしてまた同時にため息を吐く。
「なあ、ここ何処だよ」
「たははー、何処だろ」
「おいこら」
壮介の憤怒の声をおちゃらけた表情と返答でのらりくらりと躱す木葉。片方はくすくすと笑い、もう片方は痛む頭を抱え込む。
今こうやって真夜中の森を彷徨う破目になってしまったのは全て木葉にあるのだが、当の本人は反省していないだろう。あまりにも軽いその返答が何よりの証拠だ。
「ごめんて、今度何か奢るから・・・何アレ」
木葉の手に握られた懐中電灯が一本の枯れ木を照らす。
「何って枯れ・・・・うぎゃあァ!!」
ただ単に木の皮の模様が人の顔に見えるだけなのだが、ビビりの壮介には辛かった。思わず仰け反りそのまま頭から後ろへ倒れる。あまりの痛みに思わず唸る。
「ぬぐおぉぉ・・・」
「あっひゃひゃっ!!壮介サイコー!」
壮介の苦しみ方がツボにはまったのか、隣の彼女はゲラゲラと腹を抱えて大爆笑。その屈託のない笑みに今は少しだけ殺意が湧く。
太陽の光が届かなくなった森はすぐ暗闇に支配された。頼りは懐中電灯の頼りない光だけ。静まり返った森は、フクロウや野良犬の鳴き声しか聞こえない。夜風に揺れる草木はあの世へ手招きしている様にも見える。恐怖によって気力と言うものが根こそぎ奪われた壮介の目は完璧に死んでいた。
「だいじょぶ?顔が死んでるけど」
木葉は一体何を思ったのか、壮介の顔を覗き込む。ニタニタ笑いながら。
「これが大丈夫に見えるなら即眼科に行くことをお勧めする」
思いきり睨む。届くことのない精一杯の皮肉を込めて。
「私は目悪くないから行かないよーだ」
「うん、マジで少し黙って」
木葉は何故かクスクス笑うと立ち上がり、一人で歩き出す。壮介も急いで立ち上がると後を追う。そのときだった。
突然目の前が真っ白になった。二人の足が止まる。
濃霧。
なんの前兆もなく現れた不自然に濃い霧は壮介達の視界を奪った。一メートル先すら見えなくなるほどだった。
(なんだ、これ)
壮介は妙な悪寒に襲われて凍り付いた。虫の知らせと言うものだろうか。自分たちの身になにか大変な事柄が起こるかもしれない、根拠はないが何故だかそう思った。しかし、今なにが起きているのかはさっぱり分からない。二人は小さいころから幾度もこの山に登って遊んだりしていたが、こんなことは今まで一度もなかった。こんな霧は初めて見た。自分たちの知っている森はこんなことなかったはずなのに。
言いようのない恐怖に足が震える。ここにいては危ない、本能がそう告げる。頭の中で警鐘が鳴り響く。今すぐに動く必要性を感じた。はやくここから離れないと取り返しのつかないことになりそうな気がした。
だというのに、壮介は動けなかった。立ち尽くしていた。
やがて、多すぎるほどの時が流れ、凍り付いていた時間が解けるかのように、ゆっくりと動き出す。
その時だった。
遠く、濃霧の向こう側から、まるで雄叫びのような音が聞こえた。人間の声には聞こえない。だからと言って動物と言う訳でもない。聞いたこともない鳴き声だった。
二人は顔を見合わせる。
「今の、何?」
「私も、聞いたことない」
壮介はふところから護身用のスタンガンを抜き取る。リーチはほぼ無いに等しいし、使ったことは皆無。精々無いよりはましというレベルだろう。スイッチを押すとスタンガンの電極から火花が散る。瞬間、けたたましい警報が響いた。空気を無理矢理引き裂くような轟音が耳を劈く。
「なに、コレっ!」
木葉は懐中電灯を落とすと、両手で耳を塞いだ。
「知らねえよ!耳が、痛い!」
夜の山を駆け抜ける冷たく、低く、尖った警報が、二人を貫く。
より一層大きくなる警報が猛烈な頭痛を引き起こし、意識を混濁させていく。
ドサッ、と隣で何か倒れる音がした。だが、確認する余裕がない。
まるで金槌のような鈍器で殴られたかのような痛みが頭を襲った。全身から力が抜けていく。
壮介は誰かの悲鳴が聞こえた様な気がした。
それが誰なのかは分からない。木葉の声なのか、それとも自分自身の声なのか。ただ、その声は妙に耳に残った。
膝が崩れ、そのまま倒れ込む。
倒れ込んだ瞬間、白い影が見えた。
意識が無くなる前に見た物は、木葉を見下ろして嗤う真っ白な少女だった。
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風が、辺りを吹き抜ける音がヒュウヒュウと規則的に聞こえる。遠くではフクロウの鳴き声。
木々が腐ったようなにおいがした。肌に触れる空気はカラカラに乾ききっていて、少し肌寒い。自分は何処かにうつ伏せで寝ているのか、胸や腹部に圧迫感がある。
一体どれくらい寝ていたのだろうか。そろそろ起きなくては。早くここから出なくては。なにか大事が起こる前に。早く・・・。
起きようとして、ようやく自分がどこにいるのか気が付く。辺りを見回してみれば壊れかけの民家や、見たことのない火の見やぐらがすぐ目の前に鎮座している。何故か頭が痛い。
何処か先程とは別の場所に来ているようだ。木葉が寝ていた広場らしき場所の付近には、広場を囲むようにして民家が立ち並んでいて、木葉の向かい側には舗装されていない砂利道が見える。木葉は広場の中央、火の見やぐらの真下で倒れていた。
――ここは、どこ?
ようやく根本の疑問に立ち返る。
自分はここまで歩いた記憶は一切ない。というか、森に入ってからの記憶があやふやになっていた。まるで記憶という映像が霧で霞んでいるような。恐らく寝ていた自分を壮介が運んできたと考えるのが妥当だろう。そして彼の性格上、人を置いて何処かに消える様な人間じゃない。この近くにいるはずなのだが、人どころか獣一匹いない。隣に彼がいないだけで、物凄い寂寥感に襲われた。
臆病だがいつも自分を支えてくれる少年。木葉にとって壮介は親以外で唯一信頼できる人間だった。
(壮介、どこにいるんだろ)
取り敢えず立ち上がろうとしたその時。火の見やぐらの向こう側、つまり広場から出る砂利道に人影が見えた。
「そう、すけ・・?」
人影は砂利道を走って消えていく。木葉も慌てて後を追った。
「待ってよ!壮介ッ!!」
それは無意識に出た言葉だった。見失ったらもう見つけることはできない、と何故かそう思った。
影の速度は速かった。足には自信のある木葉だが、追いつくどころか距離を詰めることさえできずに確実に距離が離れていく。後ろを見ると先ほどまでいた広場は、もう遠い後ろにある。民家はもう見えない。
「っきゃあ!」
足を掴まれるような感触と共に、地面がいきなり目の前に現れる。何が何だか分からなかった。右膝にくるヒリヒリとした痛みと眼前にある地面を見つめてようやく理解した。限界で走り続けてきたツケが回ってきたのか、足をもつらせて転んでしまったのだ。もう影の姿は見えない。
「はあ・・はあ、いったぁ・・」
木葉は血を流す膝を抱え座り込んだ。肺が猛烈に酸素を欲し、呼吸が荒くなる。
震える膝を押さえながら立ち上がり、足を引きずりながら大木へ歩く。血を滲ませる右膝を庇いながら大木の傍へ行くと背を幹に当てて座り込む。誰も居ないとはいえ、道のど真ん中で座り込むのに抵抗があったのだろうか。
「壮介・・」
声が漏れる。その声は震えている。
「壮介・・・会いたいよ」
涙が頬を伝い、地面に染みを作る。何故だか涙が止まらなかった。
一人の少女は寂寥感に襲われ泣き出す。いつもは気丈にふるまっても、心の芯は人のぬくもりを求めるか弱な少女だった。
十分ほど砂利道を歩くと、一軒の大きな建物に辿り着いた。高さは五階建てのビルほどあるだろうか、広場にあった火の見やぐらと比べてもかなり高かった。
入り口らしき場所には立て看板が立てられている。薄れて読みにくいが、壁には『中央役場』と書かれていた。おそらくここがこの村の中枢だった場所だろう。損傷も民家と比べてまだ少なかった。
ドアを開けると、すべりの悪い不快な音と共に砂埃がパラパラと散った。中は外と違って、至る所が壊れていた。恐る恐る建物内部に足を踏み入れる。
その途端、とんでもない悪臭が漂ってきた。なにか生ものが腐りきった腐臭、あまりの刺激臭に目眩を起こしそうになった。
あまりの腐臭に、気持ち悪くなる。指を喉に突っ込んだような吐き気が込み上げてきた。慌てて口元を押さえる。生臭いような、鉄臭いような、奇妙な臭いだった。鼻の奥がツンとし思わず涙目になる。
鼻を摘まみながら辺りを見回す。外からの光で辛うじて確認できる程度だった。ボロボロの掲示板、真ん中で割れた机。この場で息絶えたのか、腐敗し悪臭を放つ鳥の骸。悲鳴を飲み込む。
オカルトにはある程度の耐性を持つ木葉も、この異常な風景には恐怖を覚えた。スカートのポケットからアウトドア用の小さなポケットライトを取り出し、電気を点ける。小さな光だが、木葉の心を軽くした。
一歩、また一歩と歩き出す。その度に床がギシギシ音を立てる。
部屋の中央辺りまで歩いた時だった。
ミシ、ミシ
ボロボロの掲示板に目を向けていると、床板が軋む音が聞こえた。音は部屋の中で乱反射し出所が分からない。
辺りに懐中電灯を当てたが誰も居ない。誰かがこちらに歩いてきているのか、軋む音が少しずつ大きくなってきた。それと共に、音の反射し難くなっているのか、音の出所が集中してきた。
背後からだった。振り返り部屋の奥を見据え、ゆっくりと懐中電灯の光を向ける。照らされたのは一つの木製のドア。手が震えているのか、光の輪が上下に揺れていた。
ミシ、ミシ、ミシ、ミシ
音が徐々に近づいてくる。同時に呼吸も荒くなっていく。
「来ないで・・・来ないで」
声に出して訴えていた。手に持っているポケットライトがチカチカと息切れをしている。まだ新しいはずなのに、何とも頼りない明かり。もっとちゃんとしたライトを持ってくるんだったと木葉は後悔した。外に出ようと思うが、出口まで歩くことができない。それどころか、呼吸することすら儘ならない。
床の軋む音がドアの手前で止まる。17歳の木葉には恐怖の正体がまだよく分からない。しかし、妄想と言う形で頭の中に勝手に膨らんでいく恐怖を知っている。
この恐怖は自分の頭の中で生まれた恐怖であってくれればいい。いや、そうに違いない。床板が軋む音は気のせいだ。これだけ痛んでいるんだから音がしても当たり前だ。
木葉はドアを開けたい衝動に駆られた。さっさと誰も居ないことを確かめて、一刻も早くこんな状態から逃げ出したかった。こんなのはただの思い込みだと信じたかった。
すべりの悪い不快な音を立てながらゆっくりとドアが開いた。
「ぬおっ、懐中電灯の光を目に当てんな」
ドアから出てきたのは、青い制服に身を包み、頭には旭日章という桜の紋章がついた帽子を被った人物だった。眩しそうに腕で目を塞いでいる。
「おまわり、さん?」
「はいはい、お巡りさんですよ」
頭をガシガシと掻きながらこちらを見つめる一人の警察官がそこに立っていた。
思わず腰が抜け、床に座り込む。息苦しい。そこでようやく今まで自分がろくに呼吸していなかったのが分かった。自分はどうしてあんなにも緊張していたのだろう。自分が情けなく思え、乾いた笑いが込み上げる。
「ほら、大丈夫か」
警察官は木葉に近づき手を差し出す。その顔には苦笑が漏れていていた。まさか自分の姿を見て腰を抜かされるなんて夢にも思わなかっただろう。木葉は差し出された手を掴み、ふらふらと立ち上がった。
「なんか驚かしちまったみたいだな、すまん」
「い、いえ、勝手に驚いたこっちが悪いわけですし」
いきなり謝罪した警察官に慌てて弁明する。わたわたと手を振る木葉を見て小さく笑う。すると警察官は右手を差し出した。
「俺は桐生久遠、麓の交番に努める駐在警官だ」
よろしく、と差し出された手を木葉は握り返す。
「神崎、木葉です」
「神崎さんね、覚えた。それにしても、久しぶりに生きた人間を見た。俺以外にもここんなとこに人間がいたんだな」
警察官、桐生は腰に手を当て、ほっとしたように息を吐き出す。その顔には安堵が溢れている。だが、それに反比例して木葉は怪訝な表情になった。
「生きた人間?久しぶりに見た?どういう事ですか?」
「どういう事って、おまえあいつらを見ていなのか?あの化け物を?怪物を?今までどうやって生きてきたんだよ」
桐生が素っ頓狂な声を上げる。最後の一文はいらないだろと思ったが飲み込んだ。
「何を・・・言ってるんですか?」
会話が成り立たない。二人の間に妙な沈黙が流れる。沈黙に耐えかねた木葉は思い切って尋ねてみた。
「桐生さんが言ってる化け物ってなんです?」
「ついてきな」
桐生は手招きしてドアの奥へ入っていった。木葉も慌ててそのあとを追う。
ボロボロな廊下を抜けると会議室のような場所に出た。ロビーと違ってここはさほど壊れていない。机はある程度形を保っているし、花瓶なんかもある(当然花は枯れているが)。別段おかしなものは無い。
部屋の中央に置かれた机の上に放置されている人型の異物を除けば。
「それだよ。俺が言ってた化け物ってのは。ああ、それに近づくなよ。もしかしたら動くかもしれないから」
桐生は人型の異物を指しながら壁に寄りかかり煙草を吸い始めた。木葉は人型に歩み寄る。
木葉の頭は冷静で冴えていた。
人型は全身血まみれで、衣服であろうものも紅く染まっている。皮膚は灰色っぽい色に変色していて、右腕が欠けていた。そして何より一番目を引いたのは、人型の頭だった。
まず人型には両目がなかった。眼窩と思しき空洞が開いているが、その奥は暗く、何もない。頬の肉は抉れて歯茎が見えている。そして額に一つの穴が開いていた。そこからピンク色のブヨブヨとした物質が血と一緒に流れ出している。
理解できてしまった瞬間、先ほどとは違った恐怖が込み上げてきた。手に力が入らなくなり、ポケットライトを落とす。ポケットライトはコロコロと桐生の足元へ転がっていき、それを拾い上げる。
「あ、ぅわあ・・」
木葉は両手で口を押さえ、声にならない悲鳴を上げた。手が震え、呼吸ができなくなる。
「コレが俺の言った化け物だ。光や音に寄って来て生者を襲う怪物だよ」
「な、なんなんですか、これ。人間なんですか?私は夢でも見てるんですか」
声が震える。木葉は信じられなかった。
「正確には、人間だったモノ、というところかな。分かりやすく言えばゾンビだな」
「や、やだなぁ。ゾンビなんているはずないじゃないですか。映画じゃあるまいし」
木葉は嗤った。頬を歪め、口角が上がる。
「じゃあ、こいつはどう説明すんだ?」
桐生が入ってきたドアを指さす。
先ほどまで誰も居なかった廊下には、人影がある。
それは、目から血の涙を流していた。
それは、右手に人間の腕らしきモノを引きずっていた。
それは、半狂乱の雄叫びを上げていた。