00:00 桐生久遠
この村はまるで地獄のような場所だった。
稲穂が沢山なっていたであろう田畑は荒れ果て、大きな岩がゴロゴロと転がっている。原形を留めていない台車に乾ききった風がぶつかり、音を立てる。それはまるで悲しみに泣いているようだった。
村のあちらこちらが腐り果て、人が住めるように変えるには、とんでもない労力と時間が必要になるだろう。そんな場所だった。
いま、その村の片隅で一人の男が戦っている。相手は文字通り化け物だった。その姿からは生気と言うものを一切感じられない。頭や目から血を流し、ボロボロの服を着た人の形をした人でない‘ナニカ’。目は白く変色し、生気を感じさせない。体格から辛うじて性別が分かる程度だ。恐らく男。
「化け物の分際で・・・人間様に楯突いてんじゃねーぞ」
桐生はポツリと呟いた。その声は怒気を含んでいる。
血まみれの男が咆哮と共に一気にこちらへ駆けてくる。それと同時に持っている鉄パイプを桐生の頭上目掛けて振り下ろした。
風を切る音が桐生の耳にも届く。寸でのところで迫りくる鉄パイプを躱した桐生は、右手に持っている金属製の警棒で男のこめかみを思いきり殴打する。
しかし、男は少しふらついただけですぐに体勢を戻した。追い打ちをかけようともう一度警棒を振りかぶる。その時、不意に左肩に衝撃が走った。ミシミシと骨が嫌な音を立てる。
「ぐッ・・あ!」
苦痛に声が漏れた。後ろを振り返る。先ほどの男の雄叫びを聞いたのか、木製バットを担いだ化け物がもう一体後ろにいた。
「くそったれ!」
腰のホルダーから拳銃を引き抜くと、バットを持った化け物の額に当てて頭をゼロ距離で吹き飛ばす。
バットを持った化け物は、脳漿を撒き散らしながら倒れた。そのまま半回転し、後ろにいる鉄パイプを持った化け物の頭に警棒を突き刺す。
ゴキッと何かが砕けるような音が響いた。警棒が音を立てて相手の脳へ沈んでいく。
30センチほどあった警棒は半分くらい相手に頭に埋まった。もう脳は機能しないだろう。何体も相手にしていると化け物たちの生態もすこしはわかるようになった。奴らは脳に依存している。脳を破壊してしまえば奴らは動けない。もう一体もすぐに倒れた。
化け物たちが血に伏せるのを確認すると、桐生の身体から力が抜けた。元より疲労はピークに達していた。それに追い打ちをかける様な連戦。体力は続かなかった。近くの岩にもたれかかり、足を投げ出す。
「どうなってんだよ、この村は・・・」
悲痛な声が闇夜に溶け込んでいく。
男の問いに答える者は、いない。