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全ては安住のため  作者:
絶望希望ニューゲーム
7/32

地の底で……穴

 流石にあのまま部屋で実験を続けると瘴気が部屋に充満し、二人の気がふれる恐れがあるのでダンジョンの場所決めに移った。

 今の状態で言えば、『嘆きの森』『最奥の毒土』は流石にダンジョン激戦区だったが、後半はやはり、ダンジョンの侵略合戦に巻き込まれる恐れがあると各サポートは判断したようで、意外とダンジョン位置は散っているようだ。

 マイは巨大グラフィックマップの前で唸っていた。

「でも、やっぱり皆、妥協してるわね。どこが良いかしら」

「…………」

 その頃、望月はウィークと戯れていた。

 膝の上にウィークを乗せ、撫ぜているとウィークは気持ちよさそうにプルプルと体を振るわせる。望月も掌から伝わる独特の感触と冷たさが心地良いのか、先ほどからずっとこの調子である。

「アキラは何してんのよ!」

「ウィークを愛でている。設置場所は街から近くて、広く深く掘れる所。あと、瘴気が発生しなくても良いから『瘴気が逃げにくい所』。以上」

「あのねえ。ダンジョンは瘴気が命。『森』と『毒土』が人気なのは、もとから瘴気が堪っていて、半ダンジョン化しているからなのよ。他のダンジョンも、少なくとも瘴気が発生しやすい場所なの。堪りやすくても肝心の瘴気が無ければ意味無いじゃん」

「いいから」

 そう言って望月はウィークの観察に戻っていた。

「……もう、何か考えがあるんでしょうね」

「ある、大丈夫だ」

「……了解したわ、信じるわよ」

「ああ」

 マイは疑問に思いながらも、その条件通りの場所にダンジョンを設置した。『不明の遺跡』というところだった。その瞬間から只の土壁だった小部屋が、石レンガが詰まれた遺跡然としたものに変わった。どうやらダンジョンは、周りのフィールドに合わせたコンセプトに変化するらしい。

 二人がこの世界に来てから二週間が経っていた。ちょうど折り返し地点で、ダンジョンが地上に強制開放されるまで、残り二週間と少しと言うところまで迫っている。

「さて、ダンジョンを作ろうか。マイ、サポートをよろしく」

「はいはい、久しぶりのサポートの仕事ね。じゃあ、ダンジョンの作り方を教えるわ。ダンジョンコアのホログラム画面にある『ダンジョン』の項目を押して」

 鈴の音と共に、今まで見れなかった画面が開いた。

「これは?」

「ここでダンジョンの設計図を作れるの、広さは……すごい、人の居ない場所に作ったから『森』で後期に作られたダンジョンの三倍の広さはあるわ」

「隣接するダンジョンが無いとこうなるのか」

「それだけじゃなくて、土質も良いのよん! 私の知識に感謝しなさい……とはいえ、流石に広すぎるかしら」

「そんな心配はいらないさ。うん、ありがとう。でも階層は二階しかないのか?」

「ええ、自分のレベル足す一の階層になるから、アキラの場合レベル1でしょ? まあ、全員1だろうけどね」

「二階層までか……心もとないってのが本音だな」

「因みに最深部の部屋にダンジョンコアを置くのが定石よ……でもこれだけ広ければそうでなくてもいいかもね」

「何だ?」

「ダンジョンコアを一階に置いても二階に置いても変わらないってことよ、階段を増やせばね!」

 マイはフフンと言った風にその白い髪を掻き上げた。

 またドヤ顔を……と心の中で思う望月。

「……ああ、なるほど」

 望月もマイの考えを理解しニヤリと笑う。

「そう、一度、地下二階に行かせてから違う階段でもう一度地下一階に行く構造にするの。このダンジョンは広さもあるし、ダンジョンの壁や天井は設定上、『自軍の作用・行動以外では、何をされても壊れない』。穴をあけられて、強行突破をされる恐れも無いわ。それに、階段を複数置いて、間違いのルートを増やせばその繰り返しが延々続くことになるって事。ま、これも横に広いダンジョンだから出来るんだけどね」

「ふうん、マイも中々あくどい事考えるんだな」

「そこは褒めてよ!」

「褒めてるんだよ」

 望月はウィークを命令で膝の上から下ろし、最近ずっと座りっぱなしだったせいで凝り固まった背を伸ばし、席を立つ。そして、出入り口も無いような小部屋の壁に歩み寄った。

「ダンジョン製作となると。さて……俺は一体どこまで出来るのかな?」

 壁にゆっくりと手を当てる、望月が念じるように目をつぶると、近くにホログラムウィンドが出現した。どうやら、かなり細密な制御で無い限り、ダンジョンコアの近くでなくてもダンジョンのコントロールは出来るらしい。そして望月は、地形を変形させ、目の前の壁に穴を開け、もう一つ小部屋が出来るよう念じた。

 瞬間、目の前の石壁がグニョリと、まるで緩い粘土のように凹んだかと思うとさらにそのまま風船に息を吹き込んでいるかのように広がっていき、角張った形になるまで膨張していき、ものの数秒で、今まで存在しなかった、もう一つの小部屋が完成した。

「細かい設計図が無くても、これくらいなら大丈夫なわけだ」

「うわー……今までも魔物だとか私の羽だとか、現実的でない光景は見てきたけど、こうも分かりやすい現象だと、改めてこの世界が普通じゃないって感じちゃうわね」

「だな……さて、色々試してみるか。まずは変化の速度と、どの程度まで弄れるか……」

「ああ、分かっていたけど、やっぱり……この研究者気質めが……」

 望月がブツブツと何かを呟きはじめ、魔物の研究を始めた時と同じ空気を醸し出して、マイはげんなりと肩を落とした。

 そこからは望月の発想と、ダンジョンコアとの限界との競り合いだった。

 例えば。ダンジョンコアのある部屋は、ダンジョンの入り口から辿り着けるように設置しなくてはならないということ。

 望月のことなので、やはり、『どのルートを辿ろうが、たどり着けない最深部』と言うのを考えたのだが。そうした場合、ダンジョンコアの効能が発揮せず、ダンジョンの中に居る魔物の統制、罠の発動などに不具合が生じ、最悪、ダンジョン自体が形を保っていられないようだった。

 さらに、どれだけ道を細く出来るのか、ということもやってみたが、どうやらこのダンジョン設定上。『ダンジョンコアから地上まで、半径一メートルの球が通れるような設定』にしなくてはならないらしい。逆にどれだけ広く出来るかという実験では、天井を取っ払って二階層分広さま――ダンジョン領域内全てまで広げることが可能であった。

 他にも、天井を低くして細かく区切ったり、坂道や穴ぼこばかりで階層という概念を消そうとしたりしたが、どうやらそれではだんじょんこあが正常に機能しないようだった。

 正確なところはわからないが、あの神様的な存在は、かなり細かいところまで制限をかけているらしく、あくまでもダンジョンは、階層を一つずつ突破していくもの、というルールからは外れられないようだった。

「あの存在は、多分俺達が試行錯誤して、もがく姿を見たいらしいし、変に安全思考に偏らずに、とにかく強いダンジョンを目指した方がいいかもしれない」

 と言うのが、この二人のペアの最終見解だった。

 望月がある程度のダンジョン操作の限界を知った後、本格的な内装設定は置いておいて。

 彼は……再び魔物の実験を再開していた。

 このときになると彼は集中するのでマイは一人、つまらない思いをするのだ。しかし彼の集中力を削ぐのも気が引けるので、彼の緊張の糸が切れたのを見計らって声を掛けるのが彼女の日課になっていた。

 十数日に同じ空間で過ごしていると、どのくらいの周期で相手の集中が途切れるかなども分かってくる。

 望月が空中のホログラムを見る目を労わる様に眉間を人差し指と親指で押さえ、背もたれにもたれかかった。集中力が切れたときのポーズだ。

 ここでマイは話しかける。

「私を放っておいて、次はどんな実験してるの? マッドサイエンティストさん?」

「ん? ああ、これはな、瘴気の発生量を試してるんだ」

「瘴気の発生量?」

「ああ、ここはもともと瘴気が無いだろ? だから瘴気は自分で作ることにした」

「そう言う思惑があったの? でも、発生量なんて、どうやって調べるの?」

「これだよ」

 そう言ってホログラムを指差す望月。

 そこに移っていたのは……。

「マッドリーフ? ……と、し、死体の山ぁ、うげぇ……」

 見て気分の良い映像ではなかった。

 六つに分かれたモニターには、スライム、ミニコボルト、ゴーレム、レッドバグ、マッドリーフ、ウィークがそれぞれ積み重なっており、その前にまるで備えの華のようにマッドリーフが植えてあった。

 備え花にしては、マッドリーフは只の陰気なねじれた樹木でしかないのだけれど。

「悪趣味~」

「そう言うな、大切な実験なんだ。あ、それぞれの山は同じD通貨分の死体だ」

 萎んだスライムが積み重なり、山と言うより水溜りが出来ている画面、石人形であるゴーレムは唯の石山になっている。

 一番むごたらしいのはウィークだった。二十五匹分のウィークが潰され、色鮮やかな体液をどくどくと垂れ流していた。

「うわあ、画面越しにも瘴気が伝わってきそう……で、これでわかるの」

「手前のマッドリーフを見てみろ」

 マイは言われたとおりマッドリーフを見る。

 見た目がグネグネとしていて、見るからに毒々しい。しかし、その画面よってその大きさには差があった。

 もっとも成長しているのは、ウィークの山の前にあるマッドリーフ。

 他の画面のマッドリーフが一~二メートルなのに対し、その背の高さは三メートルに届かんばかり、茎も葉も脈打っており。枝の先には、つぼみの膨らみがあった。

「どういうこと? なんでこんなに差が……」

「マッドリーフの特徴だよ」

「特徴って言ったって……あっ!」

 瘴気の濃さによって、発する毒の強さ、成長速度が変わる。

「成長速度!?」

「まあ、マイの言うとおり。ここまで綺麗に結果が出てくれるとは思わなかったけどな」

 クツクツと笑う望月。

「密室にして同じタイミングにマッドリーフを生やす。部屋の大きさ、土質、その他も全部同じ条件にしたから。結構信頼できる結果だ」

「比較対照実験って奴? こんなファンタジーな世界で中学理科を復習するとは……」

「結果は、発生量の断トツがウィーク、逆に最低がゴーレムか……」

「ねえ……その部屋の瘴気レベルを量ってみても良い?」

「そんな事が出来るのか? ……って待て、ならマッドリーフの実験いらなかったろ」

「瘴気はダンジョンの命なんだから正確な数値は出ないまでも量れるわよ。アキラもまだダンジョン製作やダンジョン監査機能は使いこなせてないみたいね。でも、私に瘴気の発生率を比べるなんて発想なかったわ。えーっと、ウィークの山の部屋に設定をあわせて……え?」

「おい、どうしたんだ?」

 固まっているマイの腹を人差し指で小突く。

 人にしてみれば、それは一種のスキンシップ、ただのタッチだが、ピクシーにとっては、そのダメージは腹部に右ストレートを入れられた事に等しい。

「ぐふう!?」

 マイは肺の中の空気を全て吐き出した。

「あ、すまん」

「ちょっと! 体格差考えてよね!」

 咳き込んで苦しそうに応える。

「悪い悪い。で、どうだったんだ?」

「これは……予想以上の濃さね……これはLv5くらいのダンジョンの平均瘴気と同じ数値ね」

「ふうん、まあ今の状態なら良いほうかな」

「……こういう策があったから、瘴気の少ないダンジョンで良いって言ってたのね」

「まあな」

 得意満面といった様子で決めポーズをする望月。だがそれと対照的に、マイの表情は冷え切っていた。

「でも、圧倒的に足りないわ」

「うん?」

「このウィークの死体、結構な量よね。これだけ殺して、密閉した部屋の瘴気濃度がこの程度なら、ダンジョン全域に渉らせるなら全然足りない。ダンジョンを守衛するには、魔物、ウィークを殺すだけじゃなくて、ちゃんと生きた魔物が必須だし、ここはただでさえ普通のダンジョンの三倍の広さを誇るのよ」

「つまり?」

「つまり……このダンジョンは広い割に瘴気が薄い。このダンジョン全体を……例えば、森に作られたダンジョンと同じ瘴気濃度にしようとすれば、ウィークをかなりの数、そうね……最低でも、ウィークを残り全てのD通貨分は殺しておく必要があるわ」

「と、なると圧倒的にD通貨が足りないな」

「そういう事……どうするの、これ……結構危ないわよ……」

「安心しろ」

 ここで、望月はマイの話を遮った。

 その笑みには余裕がある。そんな話は、されずとも解決済みだとでも言うように。

「大丈夫、一応それも考えてある」

「……まだ策があるとでも言うの?」

「むしろ、ここからが本番だ。瘴気も堪り、魔物も増えて、D通貨まで増える。ウルトラCの方法を紹介してやる」

 ダンジョンの開通はまもなくだ。

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