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全ては安住のため  作者:
絶望希望ニューゲーム
5/32

地の底で……考察

「でも、調べるって言ってもどうやって調べるの?」

 マイは混乱したように、望月の頭の周りをクルクルと飛び回る。金色の鱗粉が空中で昇華する。

「まず、この世界とゲームでは微妙な差異があることが分かった。なら他にもこの差異はあるはずだ。これはプレイヤーはもちろん、サポートキャラも知らない情報になる」

 すなわち武器だ。と望月は頭の周りを旋回するマイに落ち着くようジェスチャーするする。

望月がダンジョンを製作する上で目をつけたのは差異であった。なぜならば現在の状況は、現実でありゲーム、ゲームであり現実であるという、相反するものが重なり合った世界だからだ。

VR。名の通り、ヴァーチャルリアリティ――仮想現実だとしても、所詮それは遊戯に過ぎない。現実のようだと謳われようと仮想は仮想。遊びの域を出ないのだ。

だが今は、死ねば終わりというまさにそのまま現実的な状況下、どうしてもその間にズレが生じてしまうと考えたのだ。

そして、そのズレは使えるはずであるとも。

「さて、まずは情報収集からだな」

 望月はダンジョンコアに向き合う。そして、一気に大小様々なマルチスクリーンを展開させた。

「さて、カーソルが無い代わりに大体の操作は頭ん中で出来るみたいだ。タッチ操作はその補助って具合かな」

 望月の指は、ピアノでも弾いてるかのように踊るように跳ね、空中に浮かぶホログラムウィンドが開いては消えていく。望月もタイピングが慣れているとはいえ、いつもならばここまでの操作は出来ないが、やはりそれは、ダンジョンマスターの恩恵もあるのだろう。かなりの並列思考が可能となっていた。もちろん、望月が土台としての素質を持っていたこともあるのだが、そうとは知らないマイは望月の後姿を唖然とした表情で見ていた。

「アキラ……貴方ってすごいのね」

「ん? うん、まあ……」

 望月は真実を濁し、格好つけた。


***


 しばらくの操作の後、ホログラムウィンドが一つ、一つと閉じられ、最初の状態に戻り、同時に望月はチェアに体を大きく預けた、脚がきしむ音が響く。マイは「もう終わったのかな」と、パタパタと望月の隣まで羽ばたいていく。

「どうだった?」

「……悪い、あまり分からなかった。けれど、俺の知っている『ダンクロ』とは、やっぱり少しずつ変わっているみたいだ、それが『差異』なのか、新しい機能かまでは判断つかなかったが」

 このダンジョンコアで出来ることは、ダンジョンの製作と、それに必要なものを生み出すという基本的なものだけだった。当然、セーブやロードの機能などついていない。また、オンラインならば出来るはずのチャットやテレホンなどの、他者との連絡手段はまったく存在しなかった。現時点で見つかった大きな差異はこの程度だ。

「もっと、有益なモンが見つかると思ったんだけどな、甘くねーか」

「甘くないってことが分かっただけでも大丈夫だよ、アキラ」

「……ポジティブだな」

「ありがと」

 マイは柔らかにはにかむ、望月は画面へと顔をそらせた。

「それとさ、この『トレード』の欄はさすがに俺だけでは判断できなくてな。マイの力が必要だ、頼めるか?」

「もっちろんよ、まかせなさい」

 望月は再び、タッチパネルに触れると、ホログラム文字が浮かびだす。

『トレード』の欄とは、すなわち、このダンジョンで生きていくにあたり必要なものが手にいれられる手段である。何故トレードと言われるのであるかというと……。

「今回も10000000Dをやりくりしてのダンジョン製作か。これは前と変わらないな」

 Dと呼ばれる通貨を元手に、品物を買っていくような図式になるからである。Dとは、この世界でのダンジョン運営におけるポイントの単位だ。D通貨と何かを引き換えにダンジョンの中に罠や財宝、ひいては魔物までを作り出すことが出来る。ちなみにこの世界で流通している硬貨の単位はGであるが、GとDではその価値がかなりバラけている。

「そうね、言うまでも無いかもしれないけれど、これは慎重に使わなきゃ駄目よ? 一千万なんて、大きな数字に見えるけど、けっして多くないからね。ダンジョン運営してたら、あっというまに飛んでいっちゃうんだから」

「ああ、それに、Dがなくなれば、ほとんどそのダンジョンはつぶれたも同然だからな……」

 ダンジョンに存在するもののすべてを、D通貨でまかなうことになる。そんな状況下でDがなくなれば、もはや新たな魔物や罠を創る事は出来ない。

「狩られるのを待つだけになる、足掻くのも難しくなるしな。なんせ、D通貨を増やす数少ない方法が、ダンジョン探索をする人間、冒険者を倒すことだからな」

「それが、一番効率がいい方法だからね……まず、私たちがダンジョンでやらないといけないことは、D通貨を増やしていくこと、攻略しにくいダンジョンの造形。加えて、レベルアップや、魔物の種類を増やしていくこと、って感じかしら」

 望月もその考えで違わなかった。

「だからこそ、ここでどんな設備、魔物を揃えるかで、ダンジョンの方針はかなり変わる。俺の知っているアイテムもあったが、大半は知らないものだ。だからここはマイの知識が必要なんだ」

「分かったわ、ちょっと待ってねー、えーと。今ホログラムに移っているのがカテゴリね」

  二人はその項目を目で追う。日用品。食料。家具。アイテム。魔物。罠。薬剤。

 薬剤の欄で、マイが不思議そうな顔をした。

「あれ? あの薬剤なんて欄。私が知っているプロトタイプのゲームには無かったよ」

「そうなのか?」

「だってゲーム内で風邪なんか引かないし、毒や麻痺の時に使う薬は『ポーション』として『アイテム』のカテゴリに入るはずだし」

「これも差異、なのか?」

 望月が空中の『薬剤』の文字を押すと、様々な薬が立体ホログラムとそれに関する説明、あとトレードに必要なD通貨が表示された。

「なんで薬剤なんて欄が出来たんだろう? 単純に考えたら、この世界でも病気になるから、とかかしら。あと思い当たる節は……あ」

 マイは何かを思い出したように声を上げ、しばらく考え込む

「……何かあるのか?」

「いや、うん、とね。このゲーム、もとは世間ですごい注目されてたでしょ? もちろん初めてのVRMMOっていうので有名だったんだけど。業界ではどちらかというと、他の目的、例えば医療目的だったりの活躍が期待されていたの」

 ああ、と望月は相槌を打つ。

 確かに、この技術が娯楽のみでとどまるはずが無い。むしろ、娯楽として世に出たこと事態がかなり異常なことなのだ。もっとも、この技術を確立したのが『GOKURAKU社』だったから、ゲームが真っ先に開発されたと言えば、それまでなのだろうが。

 望月も少し考えて、確かにそうだと思った。

「ヴァーチャルリアリティなら建築でも何でも、どんな事業でも活躍できそうだものな。けど、医療ってのは、夢の中で病気を治すのか? いや、確かに病は気からとも言うし。それにこの場合はプラシーボ効果の方が正しいのか?」

「そうね、医療分野なら、たとえば人体のデータを綿密に打ち込んで、何度もリアルな手術の練習が出来るっていうのもあるし。他には、うん、辛い病気でベッドから降りられない人たちのための娯楽だとか。あと、リハビリの時とかね、特に生まれたときから持っている病は、全快した時のイメージがされにくいから、この機械でそのイメージを植えつけてからなら回復が早いんじゃないかって研究もあったわ……」

「なるほどねぇ……あ」

「ん? どしたの……あ」

 画面をスクロールし見ているとこんな文字が流れてきた。

 媚薬。

 二人の間におかしな空気が流れる。

「……これも?」

「そ、そういう病気の人もいるでしょう!? こ、こういうのは、精神的なところから来る人も、その、多いらしいし……」

 マイが赤面する様子を少し面白がりながら見る望月だった。マイは「もういいでしょ!」と言って、薬剤のカテゴリを閉じる。

望月は続いて魔物の欄を押す。

六体の魔物が選択可能だった。他は全て『?』で隠れている。

「……思ったんだがこれ、少なくないか? 前身の『ダンクロ』だって、最初で選べる魔物は十数体からだったぜ」

「どうやらここは、テストプレイのルールが適用されたみたいね。テストゲームの最初はダンジョンマスター全員、選択できる魔物は六体から始まるわ、出てくる魔物は決められたランクからランダム。これからレベルが上がったり、そのモンスターに遭遇したりすると『?』が取れるの」

「図鑑的な役割も果たしてるのは同じか」

「そゆこと。そう考えれば、ダンジョンの場所を決める前に魔物を選ぶって言うのは確かに重要だったわね、私も焦りすぎたわ……魔物と場所の相性もあるしね」

「それにしても、相性も何も、六体って制限じゃなあ」

 そう言って六体の魔物を見る。それぞれの名称と説明、呼び出すのに必要なD通貨が記載されていた。

 スライム。ゲル状の魔物。生物であるが内臓や骨格といったものが存在せず、薄い皮膜に液体状の細胞が包まれている形となっている。体表から染み出す粘液は弱い酸性を持つ。周りの液体を濃度関係なく体内に取り込もうとする性質を持つ。

 ミニコボルト。二足歩行の犬型の魔物。体長五十センチほどで、表情は愛玩動物のようだ。地質を変化させる固有魔術を持ち、外的から身を守るため地中で生活している、地中の移動速度は地表で走るときとそうは変わらない。

 ゴーレム。二メートル程の大きさで体が岩で出来ている魔物。自我を一切持たず。自重のせいで動きはかなり鈍い。間接部分が魔力によって接合し動いている。

 レッドバグ。発火しながら飛行する五十センチほどの虫型の魔物。普段は羽を閉じて生活する甲殻昆虫だが、羽根を広げるときに自らの羽の周りに固有魔術により炎を纏い飛ぶ性質を持つ。

 マッドリーフ。瘴気の濃さによって、発する毒の強さ、成長速度が変わる、移動は不能。草型の魔物。

 ウィーク。ウミウシのような魔物。弱くて弱い。

「……明らかに差別を受けてる魔物がいるんだが」

 ウィークと呼ばれる魔物だけ、かなり説明が短い、さらに他の魔物が最低でも三桁のD通過が必要なのに対し、ウィークは驚くことに必要D通貨はたったの二〇Dであった。

「あちゃー! ウィークに当たっちゃったか。勿体無い」

 マイは頭を大げさに抱える。

「何? そのウィークって」

「うん、名の通り。もう悪ふざけで作られたんじゃない勝手ほど弱いの。多分魔物の中で最弱」

「ふーん……でも安いな」

「最弱だからね」

 望月は顎に手を当て考えてみる。しかし、考えるのも面倒なのかあっさりと「よし、呼んでみよう」と判断した。

「え!」

 ここでマイがあせった。

「無駄使いは止めようよ! 私達は一匹でも多く魔物を作らなくちゃいけないのに!」

「机上で考えても意味が無い。百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず、だ」

「そりゃそうだけど……」

 望月はウィークの立体ホログラムをマジマジと見つめたあと、『ウィーク』を呼び出すイマージをする。すると、ダンジョンコアが光りだした。

「そう言えば魔物はコアから出てくんの?」

「いや、魔物はダンジョン内の決められた階層に出現するんだけど、今はこの部屋しか無いから……」

 ダンジョンコアから赤い粉塵が飛び散り望月達の頭上を越えていく。その粉塵が固まり、再び光ったかと思えば、何かの形を成し、ペチャと落ちる音がした。

 するとそこにはピンク色の全長三十センチほどのウミウシが居た。

「あ、予想よりも気持ち悪くなかった。私、ウミウシとナメクジの違いが良く分からなくて……」

「……まあ、気持ちは分からなくも無いけれど、ウミウシは海の宝石と呼ばれるものもいるくらいだからな、どっちかってーと綺麗だ」

 席を立ち、ウィークに近づく望月。

 それを察し、ウィークは部屋の隅まで、その体矩からは想像できない速さで逃げた。

「……おい、あいつ魔物なのに逃げたぞ」

「命令を出してないからね」

「命令?」

「そ、ダンジョンマスターのスキルには、このダンジョンにいる魔物のある程度の動きと性質を制御する力があるの」

「ふーん、じゃあ怯えるな。か」

 望月がそう念じると、ウィークはうろうろと部屋を徘徊しだした。

「命令しなかったら普段通りの本能に従った行動を取るのか」

「そ。いかにウィークが弱いかわかったでしょ、人間相手におびえる魔物よ」

「……こいつの利点って無いの?」

「そこまでは私も知らないわよ。そこら辺はゲーム開発部じゃないと」

「ふうん」

 望月は顎に手を当て考える。

「マイー。お前の好きなようにして良いから、この部屋の模様替え頼む」

「……確かにこの部屋何にも無いもんね。了解。アキラは何するの?」

「俺はコイツ《ウィーク》を調べる」

「ハアッ!?」

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