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全ては安住のため  作者:
絶望希望ニューゲーム
4/32

地の底で……ゲーム

「このゲームはさっき説明したように、ダンジョン対冒険者の戦いで成立している。そして私たちはダンジョンマスター、つまりはダンジョン側。誰かに突破されて、このダンジョンコアを略奪か破壊されればゲームオーバー、さらにコンティニューは無し、って訳よね」

 これはゲームであっても現実だから。やり直しはきかない。

「死亡ってわけだ……マイはサポートキャラなんだよな? プレイヤーじゃないからゲームオーバーは無いんじゃないか?」

 しかし、マイは首を横に振った。

「この世界があのゲームの設定通りなら、私の種族は『ダンジョンピクシー』っていう特殊種族のはず」

「ああ、なるほど。確か、特定のダンジョンの中でしか生息できなくて、そのダンジョンのダンジョンマスターと奴隷契約みたいなものを交わしている設定だったっけ」

 望月もダンジョンについてまったくの素人ではない、前身となるゲームはやりこんでいた、基本的なことならば理解している。

 なので、問題は彼の知らない箇所、変化した箇所がどこにあるのかということなのだ。

「そう、だから。コアが破壊されれば、おそらく私も死ぬわね、コアが壊された瞬間に死ぬのかどうかまでは分からないけど」

 望月はその話を頭の中でまとめるようにフム、と手を顎につける。答えはあっさりと出た。

「それって。俺がマイの命を背負ってるってこと?」

「……そう言う事ね。本当に申し訳ないのだけれど、ダンジョンの管理は基本、あなたになるでしょうから。私の命を預ける形になるわね」

 望月は、急に重くなった責任からその場に沈みこみたくなるのだった。自分の命を割りと軽く考えていた望月にとって。他人の命を背負うということなど、人生初であり、それはあまりにも重かった。

「なら……絶対死ねなくなった」

「え、あ、あらそう、ありがとう……」

 かなり真剣な声で応えられてしまったため、マイは若干恥ずかしさに顔が赤くなる。

「難攻不落のダンジョンか……なあ、これ今扉も何も無いよな、このまま過ごしてたらずっと安全なんじゃないか?」

 望月は再び部屋を見渡す。

 確かに、誰かにダンジョンコアを破壊される事によってゲームオーバーに至るのであれば単純な話、入り口を開かなければ良いのだ。

 何も冒険者に合わせる必要はない。今こそまさに、難攻どころか、確実に不落のダンジョン(小部屋)ではないか。

 しかし、マイは残念そうに肩を落とす。

「多分無理ね……理由はおそらくなんだけれど。やっぱりこのゲーム、前身と言ってもいい『ダンクロ』に色々と似ていると思うのよ」

 確かにそうだ、と望月も肯定する。

「本来の予定では、このテストゲームは宣伝をかねているって言ったでしょう? つまり、世間にはVRMMOという科学の先駆けとして、そしてプレイヤーには、オンライン以上の自由度をアピールするためだった。ようするに一般人には技術力を、ゲーマーの人たちには、それにプラスして前身の『ダンクロ』との変化やゲーム性をアピールしたかったわけ」

「つまり、世間的にダンジョン設計や、冒険者の武器選びなどは見所ではないが、プレイヤーにとってはそこが気になるところってわけか」

「ダブルバインドよね、世の中に知ってもらわないといけないけれど、現『ダンクロ』プレイヤーには是非移ってきてもらいたい、それで、ダンジョンの設計も初期から八割がた出来ている状態だしたわけ、ま、お試し版によくあるものよね。そうじゃないと……」

「一からだと時間がかかりすぎるから、全国で放送させる予定があるのに、そんなにプレイヤーにしか分からないようなマニアックなことをチンタラさせる気は無かった。なるほど、マイの言いたいことが分かった」

「そう?」

「本来の予定では八割がたは出来ているはずのダンジョンが、見ての通り一から作らなくてはならない状態にある、そして、このゲームが『ダンクロ』の性質を受け継いでいるのだとすれば、今この状態は『設定期間』だと考えたほうが良いわけだ」

「そういうわけよ」

『設定期間』とは、名の通り、ダンジョンの設定を好きに弄れる時間帯のことを指す。なぜそのような時間帯が必要なのか、それは、ダンジョンの性質を考えれば分かる。

 ダンジョンは常に姿を変えるものとしてこちら側の世界に存在する。

 魔物が住む、宝が眠る。それだけならば、そこは只の洞窟と言っていい。何をもってダンジョンとするのか。それは、そこを支配するものが居るかどうかである。

 ダンジョンでは地図がほとんど意味を成さない。なぜならば、地図を描いたとしても、その数日後には道が変わっているからだ。他にも、摂理に合わない魔物の大量発生や、自然では起こりえない人為的な罠、誰かが隠したわけでもないのに湧き出るように現れる財宝や美術品など。ありえないことが起こる空間、それがダンジョンである。

 そして、それらを管理するのがダンジョンマスターだ。

 道を変え、魔物を生み出し、罠を仕掛け、財宝を設置する。

 全てはダンジョンマスターがやらなければならないことだ。

 そのためには必然、それだけに専念する時間が必要となる。

『設定期間』の条件を望月は思いだしていた。

 一つ、ダンジョン内に生きている人間、及び亜人が居ない状況下のみ、設定を変更することが出来る。

 一つ、ダンジョン内に生きている人間、及び亜人が居ない状況下のみダンジョンと地上を繋ぐ出入り口を完全に閉鎖することが出来る。ただしその状態は四時間までしか保持できず、四時間を超過した場合、強制的に出入り口は開放される。開放後、二○時間以内に再度『設定期間』を設けることはできない。

 一つ、ゲーム開始時のみ『最初期設定期間』が設けられる。その状態は七二○時間までしか保持されず、七二○時間を超過した場合、強制的に出入り口は開放される。開放後、『最初期設定期間』を設けることが出来ず、通常の『設定期間』のみが使用可能となる。

 確か、このような感じだった。と、望月は思い出す。

 要は、誰もダンジョンに居ないときに、ダンジョンを締め切り、四時間以内にいろいろと必要なことをする時間が設けられるというだけの話である。

 しかし、今回は単なる『設定期間』ではなく、『最初期設定期間』だ。

『設定期間』がメンテナンスだとすれば、『最初期設定期間』はゼロからの構築に他ならない。

 そして、今がその状態にあると、二人は理解した。

「『最初期設定期間』か、なつかしい、『ダンクロ』でも張り切ってやっていたなぁ、ほぼ一ヶ月間、寝ずにやっていた気がする」

「そうなの? うちの部署では、この『最初期設定期間』が一見さんを遠ざける一番の理由って考えていたから……それに、『最初期設定期間』を使わずに始められる設定の方を選択する人がほとんどだったわよ? だって、一ヶ月もゲームを始められないし、一ヶ月も何やるんだって意見が多かったわ」

「いや、本気でやってる奴や上位プレイヤーは、ほとんどが『最初期設定期間』を使ってた。実際、設定は一ヶ月でも間に合わない。やればやるほど課題が見つかるし、俺も途中から、半年は必要じゃねーかと泣きに入ってたレベル。『最初期設定期間』を使用するとカツカツだし、それを使わないと、その後のプレイがかなり制限されるしで、このゲーム作ったやつは絶対性格悪いと思ったね」

「へえ、そんなに『最初期設定期間』って大事なのね。うちの部署にはやり込み型の人は少なかったってことかしら。作ったやつは、まあ、そうね、性格悪いでしょうね」

 あまりにもすんなりと軽口を受け入れられて望月は違和感を覚えた。もしかしたら、このゲームを作った重要人物を知っているのだろうかと思った。

 しかし、今はそれを聞くときではないと望月も分かっている。

「嫌でも何でも七二〇時間後、ここは外部へ開放される。しっかりと対策を練っていないと、入ったとたん最深部でダンジョンコア丸裸とか言うダンジョンになってしまうわ」

 設定するのに一ヶ月というのでも短いのに、安全が保障されるのが一ヶ月だと、さらに短く感じられてしまう。

 望月はあくまでも考え抜く。何か抜け道はないものか、と。

「……『ダンクロ』ではダンジョンコアはダンジョン外には持ち出せなかった。それはあくまでもゲームプログラムで動いていたからだ。だけど、この状況なら、外に持ち出せるんじゃないか?」

「それは私にも分からないわ、どっちにしろ、今は出入り口が無いし、持ち出せないか証明できない。けれど、そんなことよりも、まず直面する問題があるわ……食料よ」

「食料だと」

 何故今そんなことを言い出したのか、望月には一瞬分からなかった。

「待てよ、ダンジョンマスターは不死身なんだろう。なら最悪、飯は食わなくても大丈夫じゃないのか」

「ダンジョンマスターなら、ね……アキラ、さっき私はダンジョンコアが貴方の命だって言ったよね? あれは間違いよ」

「はあ?」

「正確には、今はまだ、ってことね。今のアキラは、なんだか妖精になっちゃった私が言うとアレだけれど、まだ『普通の人間』のまま……一ヶ月、何も食べず水も無しで人間は生きていけない。だから、この一ヶ月を過ごすことすら出来ない。あなたはまだ、ダンジョンマスターなってすらいない。ダンジョンマスターになるところから、このゲームはスタートするのよ」

「…………」

 望月は煌々と輝くダンジョンコアを見つめる。まるで絶世の美女が誘っているような印象を受ける。何故そう感じるのか。

 それはダンジョンコアの美しさは大前提であるだろうが、一度、あれに命を預ければ、もう戻れないというところがあるからかもしれない。

 つまり、あの神様的な存在は望月に求めているのだ。

 自ら人間を辞め、ダンジョンマスターという日陰者で不死身の怪物になるという選択肢を自ら選ばせることを。

「……あの神様的な存在は、どうしても俺たちにゲームをやらせたいみたいだな。わざわざ選択を迫るあたり、かなり良い趣味してるぜ」

 望月は大きくため息をつく。その瞳は波紋を立てぬ水面のよう。

 望月はどこか悲しげにコアに触る。ひんやりとした表面の感触が伝わってくる、それと同時に、不思議な感覚も流れ込んできた。まるで己の皮一枚の下で、身体が作りかえられているような変な気分。

 望月自身は分からないが、その漆黒の瞳が血のような赤へと染まっていく。

 そして、ダンジョンコアの赤の輝きも段々増していく。宝石自体が発光している。やはり普通の宝石ではない。

「なるほど、これが」

「……ダンジョンマスターの認定よ」

 マイは伏せ目がちに言葉をつむぐ。

「あなたに背負わせてごめんなさい、代われるのなら、私がダンジョンマスターをやるのに……」

 ダンジョンピクシーという特殊種族はダンジョンマスターになれない、ダンジョンピクシーはダンジョンマスターに隷属する種族であるという設定故である。

 望月はマイのその言葉で思い出した。

 彼女は、望月がダンジョンコアに触れる前に、自分からダンジョンコアを触れていた。

 あれはもしかして、自分がダンジョンマスターになれるかどうか、試したのだろうか。

 ダンジョンマスターは、不死身であり、ダンジョンの管理者で、役割は人を殺すことだ。

 つまり人類の敵で、怪物である。

 ゲームならばそんな身分も良いだろう。仮想の世界では、偽りの自分が楽しめる。しかし、こと現実で、そんなものになりたい筈がない。不死身の身など、いわば呪いでしかない。

 望月は考える。

 その役割を、マイは引き受けてしまおうと考えたのではないか。

 もちろん、自分に都合の良い推測に過ぎない。不死に憧れていたのかもしれないし、そもそも、そんな気はなかったのかも知れない。しかし、そんなのは抜きにして、目の前のマイの様子から出会ってすぐの自分を慮る気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

 望月は、自分ごときに気を使って――と若干自虐気味ながらも、素直に感謝したい気持ちになった。

 しかし、どういう風に礼を言って良いか分からなかった。

「……まあ、ここで止まっていても仕方ない。さっさとダンジョンを形にしないとな」

 感謝の念は、心の内に秘めることにして、今は目の前の問題を片付けていくことに集中する。

 コアの光が弱まり、そしてコアの光が空中に文字を描く。空中にまるでパソコン画面のようなホログラムが浮かび上がる。

「何このサイエンスファンタジー……」

「ゲーマーにとっては慣れ親しんだパソコンの方が操作しやすいだろうってゲーム開発部が言ってたわね」

「ならキーボードはないのか?」

「さすがにそこまでいくと世界観がおかしくなるからタッチパネル式だよ」

 望月は、なんだそりゃ、と思いながらも空中に浮かんだ文字を追っていく。どうやら全て英語、日本語(ひらがなカタカナ漢字を含めた)になっているようだ。

「項目はいくつかあるな」

「うん、これでやっと始められるね。まずはステータスを開いて」

 ステータス画面には、概ね分かりきっていたことが書いてあった。名前、年齢、いくつかの項目に分かれた能力値は平均的で特に着目すべきではなかった。少し気になるのは、種族が人間ではなく、ダンジョンマスターになっているところだろうか。

「……そう言えばマイって年齢いくつなんだ?」

 自分の年齢はステータス画面に出ているから別に訊いてもかまわないだろうという気持ちである。望月はもう二十二歳だが、同じ年の者と比べて、デリカシーは少し欠ける人種だ。

「十九よ」

「その年齢でよくあの会社に入れたな」

 あの会社とは、もちろんこのゲームを開発した『GOKURAKU社』のことだ。

 世界トップとも言える会社、簡単に考えれば、そこに十九歳という若さで勤めるのは異常である。

「まあ、いろいろあってね……もともとアイドル声優を目指してたんだけど。事務所と折り合いが悪くなってね。業界で干されて。夢破れて。コネで末端に入れてもらった、なんて下らない話よ」

「ふーん、通りで声が可愛いわけだ。さらっと言ったけど中々波乱万丈だな。そんな簡単に言っても良かったのか?」

「良いの。どうせこの世界じゃあ、こんな話、意味無いし。アキラとは長い付き合いになりそうだしね」

 コネ入社なんて、実際あまり声を大にしては言えないことだ。確かにこんな状況であるから、このような話題でも彼女の人間関係や社会的信頼が崩れることはないだろうが、逆にわざわざ言う必要もない。

 それを何故あえて言ったかといえば、出来るだけ早く自分のことを信頼してほしいというマイの思いからだった。実はマイもそれほど世渡りが上手なタイプではない、信頼してもらうには、出来るだけ隠し事でも晒したほうが良いだろうという考えだけでの発言であった。

 望月は、マイのそんな考えを読み取って、その上でその不器用な真っ直ぐさは安心出来ると思った。

「長い付き合い、な。だったら、長い付き合いになるよう。頑張らないとな」

「……そうね!」

 二人ともくつりと笑った。

「さて、サクサク行こうか、マイ次は何をすれば良い?」

「……じゃあ早速だけど、場所決めするわよ。ゲームの時はスタッフからの助言は禁止だったけど、そんな状況じゃないから教えるわ。『嘆きの森』が良いと思うわよ。あそこは初心者の冒険者がよく来るところだし、ダンジョンにとって必要不可欠の『瘴気』もたくさん在るから」

「ふう……ん」

 ある程度のダンジョンゲームの常識は分かっていても、新たな舞台となる世界のことは全く分からない。ここはマイにおとなしく従っておくべきだろうかと考える。

 ゲームの知識を披露し、説明していくマイを眺めていた。

「とりあえず、マップを開いてみて」

「ん」

 言われるがまま、望月はポンとマップと書かれた項目を触る、すると、おそらくこのゲームの舞台となる大陸地図が出現した。相当よく出来たグラフィックのようで、かなり縮尺されているにもかかわらず、山の木々や町並みまでもが良く分かる。

 そしてそのグラフィックマップ上に、謎の赤い点が十三個、そのうちの殆どはある一定の場所に密集していた。

 それを見て、マイの赤い瞳は虚を突かれて揺れていた。

「あ……」

「どうした、マイ?」

「うっかりしてた、そうよ。私達の他にもあと二十四名。プレイヤーがいるんじゃない、それに、これは……もしかして、二十五人が、全員ダンジョンマスター!? 冒険者に割り振られている人が居ないの!?」

 失念していた、と額に汗を浮かべ、頭を抱えるマイ。

 つまり、あと二十四名が、現在の望月たちと同じような状況下で、望月たちと同じようにしている可能性が非常に高いのである。

「となると。この赤い点は」

「うん、他の、私たちと同じ境遇のダンジョン、でしょうね……」

 望月は顎に手をあてマップを見つめる。

 なるほど、確かに『嘆きの森』らしき所に点が密集している。全員がサポート助言を受けているのだろう。

「まあ、でも気にせずにそこに設置すれば良いんじゃないのか?」

「駄目なの、その説明もしなくちゃね……ダンジョンって言うのは侵略できるの」

「侵略?」

「ええ、ダンジョンコアを破壊して経験値を得る冒険者に対して、ダンジョンコアを略奪して。己のダンジョンコアに『吸収』させる事で。その能力を丸々奪える仕組みね」

「なんだそれ、そんなシステム『ダンクロ』にはなかったぞ」

「新システムだったの!」

「ってことは下手にあそこに行っちまうと」

「ええ……お互いに潰しあって、むやみに数が減って行くだけだし」

「そして全てを吸収した王者が残る、と」

 少し考える時間に入り、沈黙した望月に対し、マイの様子はひどく慌てているようだ。生えたばかりの羽をせわしなく動かし、望月の周りを飛び回る。

「ああ、どうしよう。こうなったら仕方ないわ、他のところにしましょう、『嘆きの森』には劣るけど『最奥の毒土』でも……あ、ここも駄目、他のダンジョンが三つも、えーと。後は――」

「――マイ」

 低く落ち着いているが、どこか重たいものが潜んだ声で、空中でフヨフヨ慌てていたマイを制する。その圧に肩を少し震わせ、マイは黙った。

「落ち着け。俺たちが先に動いてその『嘆きの森』に設置しなかったのはむしろラッキーだ、変な抗争に巻き込まれんでな。そして、一人で盛り上がるな……」

 望月の放っていた重たい空気が薄れていく。

 薄れて、どんどん軽くなっていき、ひどく軽妙な雰囲気になっていく。

「これはもともとゲームだぞ? 俺がこのゲームの体験をどれだけ楽しみにしてたと思うんだ」

 望月は悪戯っぽい、あの存在と同じような感情を表した笑顔を浮かべた。

「俺にも遊ばせてくれよ」

 その言葉にマイは絶句した。

 しかし開いた口が塞がらないと言っても、何とかして反論する。舌が数回空回った。

「あ、あなた……これは確かにゲームだったけれど、今は現実なのよ! 遊びじゃないし、確実に生き残る方法を、安全策を執らないと……それに、貴方だってさっきまで出来るだけ、ここから出ない方法を考えて……」

「それは分かっている、だけど、どうやら。あの神様的存在はそんな間抜けな奴じゃあない。ゲームを安全に降りるっていうルートは、おそらく全部潰している。もしそれが出来ていないような存在なら、その時は恐るるに足らない、いつでも抜け出してやる。けれども、馬鹿じゃなく、そして向こうには理解不能で絶対的な力があるのに、今の俺たちは何も持っていない。こんな状況は、もう、本当にどうしようもない。なら考え方のポイントを、いかにゲームを避けるかより、いかにゲームを掌握するかに置いた方が建設的だ。それに、そもそも俺らはあの神様的な存在を楽しませるために飛ばされたんだ。せこい事ばかりやってたら。逆に潰されるかもしれない。つまらない玩具は、飽きられたら捨てられるだろう」

 そんな事――と反論しようとしたマイだったが言葉は紡げなかった。あの存在はこのゲームに模した世界を作った。ならば壊す事も簡単ではないのかと思った。

 壊す事は、創る事より簡単である。

 そんな当たり前の事だ。

「だから、こうなったら俺たちもこのゲームを楽しむ必要があるんだよ。他人と同じ考え方や、守りに入った働きは、むしろ危険なんじゃないか?」

「でも、死んだら元も子も無いじゃない……」

 マイは振り絞るような声で言った。

「分かってる、俺も死ぬつもりは無い。なにも採算の合わない突飛なことをしようって訳じゃない。この世界で生き残るために、死なないために、あえてこのゲームを楽しむんだ」

 この現実を恐れずに。

 いつものように、このゲームで遊ぶこと。

「……そんな侵略行為も出来るとなると。本格的に信頼できるのはお前だけだしな。だから俺たちは、あいつら全員を出し抜く必要がある」

 マップを再度見る二人、ポンと言う音と共に、赤い点が一つ追加された。『最奥の毒土』だ、他のプレイヤーが作ったのだろう。

「さて、焦らず、けれども迅速に。限られた時間をフルに使ってこのゲームを、現実を調べて理解する。そして他のプレイヤーやサポートを出し抜くぞ」

 グラフィックマップに視線を戻す。

 果たして彼らは敵なのか味方なのか。

 望月は立ち並ぶ赤い点を静かに見つめる。

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