サイモンとの論争
地下に作られた公園もある。気温も快適な温度に保たれている。
また地下であるにも関わらず太陽の光で照らされているようだ。しかも地上と同じように昼は明るく夜は暗くなる。地上の時間の流れと同じように設定してある。
しかも、朝焼けや、夕焼けなども地上とそっくりにつくられている。
ただし、ここは地下なので空といっても実際にはやや高めのドーム型の天井があるだけなのだが、彦一には本物の空のように見えるのだった。
更に、公園のあちこちには花壇が配置されており様々な花が咲き誇っている。これらの植物は、捕らえられた人間に管理を任せているようだ。
また公園の中央には大きな噴水があり、その周囲にはベンチが用意してある。そこに他のネビロン人たちも座り談笑している姿を見かける事もある。
彦一は、この公園がお気に入りの場所だ。それで、彦一とサイモンはよくここを散歩するのだった。
「やあ、サイモン。ここに来るとほっとするよ。とても地下にいるなんて思えないぜ」
「気に入ってもらって嬉しいよ」
「確かにお前たちは、俺に良くしてくれる。その努力は認めよう。ただし、いつまでこんなところに閉じ込めておくんだ」
「まだ地上が恋しいか?」
「当たり前だ。女房や子供のことも心配だ」
「わるいな、もう暫く待ってくれ」
「ふん、お前たちも随分勝手なもんだな」
「悪いな、もう少しの辛抱だから。それに彦一の家族には君の名前で仕送りをしているから大丈夫だ」
「仕送りねえ。食うには困らないかも知れねえが、心配しているだろう。まあ、お前に言っても仕様がねーか」
「彦一の家族は今まで以上に裕福な暮らしをしてて満足しているはずだ」
「分かっていないなあ。裕福で贅沢な暮らしをしているからって、それが幸せとは限らんぞ」彦一は眼を細目ながら、妻や子どもたちの事を思った。
サイモンは、彦一が妻や子供の事を心配している表情を見ていてつくづく羨ましかった。
「彦一、君は良い奴だな。君のような人間もいるんだな」
「あったりめーだ。まだまだ研究が足りんぞ」
「しかし、我々の研究では自分勝手な人間ばかりが目立っている。個々の人間は良くても全体的に見ると欠点が目立つ」
「なにい!何を言いたいんだ」
「例えばだ、人間は生活を充実させるために様々な生産活動を行い、その為に大気や土壌を汚染する。また貴重な生物が人間の利益のために必要以上に捕獲されたり、環境が悪化して絶滅の危機に瀕している生物もある。それにだ、貴重な資源があまりにも無駄に消費されている。こんな人間が地球を支配する資格があると思うかい?」
「うむ、中々痛いところを突いてくるね。だが最近は自然環境にも随分注意を払うようになってきているんだ。人間は失敗しながら、賢くなっているんだ」
「その失敗が取り返しのつかないようなものだったらどうするんだ。人間が賢くなる前にどんどん環境が悪化しているじゃあないか。絶滅した生物だってかなりある。人間同士でも欲と欲がぶつかり合って戦争まで引き起こす」
「今のところそうかもしれない。じゃあ、どうしたら良いんだ?」
「結局は、より高等な生物が下等な生物を支配するというのが当然の成り行きというものだ。要するに君たち地球人が自然環境と共存できないようならばより高等な知的生命体にその支配権を渡すべきだとは思わないかね?」
「なんだと、人間がお前らより劣っているとでも言うのか?優れているか劣っているかは科学技術力の差じゃあない。品格が問題だ」
「どうかんがえても君達の方が下等生物だ。とにかく悪いことは言わない。協力さえすれば生命は保証する。我々がこの地球を支配すれば地球はより美しくなるだろう。その後は君たちに仕事を与える。もちろん食料も与える。漁師をやるよりも快適かもしれんぞ」
「ふん、快適かどうかよりも、自由が欲しいんだよ。しかし、どうあがいても今のところお前たちの科学技術にはかないそうもないな。悔しいがそれだけは認めるよ」
「そうだ、素直になれば良い。今より増して我々に協力することだな。」
彦一は、そう言ったサイモンの得意満面な顔に苛ついた。
「ちっ、納得いかんなあ!ところで一つ質問があるんだが最近UFOの目撃者が多いが、あれはお前たちなのか?」
「そうではない。あれはペルシカ人だ。厄介なものが来たもんだ」と言いながら少し不快な顔をした。
「ペルシカ人だと。そいつらは何をやっているんだ?」
「恐ろしい奴等だ。そのまま何処かへ行ってしまえば良いんだが。おっと余計な事を言い過ぎてしまった。もうこの話はやめよう」。そう言いながらサイモンは嫌悪感を顕にした。