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研究員サイモン

 ゾーンと握手している最中にもうひとり白い服を着た男が入ってきた。この男も大男ではあるが、やや細身で知的な印象を受ける。年齢も恐らく若いのだろう。

「閣下、お呼びでしょうか?」

「やあ、サイモン。彦一の面倒を見てやってくれ」

 あらためてサイモンは彦一に向かい合い「彦一さん。宜しく。先ずは基地内を案内しましょう」

しゃべり方も丁寧で、礼儀正しそうである。

 彦一はサイモンを見て、ホッとしたのだろう「それより腹が減った。何か食べさせてくれ」と要求してみた。

「分かりました。それじゃあ一緒に食堂へ行きましょう。ところで、体の方は大丈夫なんでしょうね?」

「ああ少し頭痛はするが、その他は大丈夫だ」

 彦一は、ベッドから出て下に置いてあったスリッパを見つけて履いた。

 サイモンが、例の自動ドアを使って出ていったので、彦一もそれに続く。

 そこに近づいて見たが、どうにも壁の様にしか見えない。恐る恐る右手をその壁に近づけると、自分の手の形分だけの穴が音もなく開いた。

 その穴の向こうから、サイモンが「何をビクついているんだ!」と言って、可笑しそうに笑った。

「ふん、生意気な奴め! 観察をしていただけさ」と怒鳴ったが、それに反して顔は笑っている。

 彦一は思いきって壁に向かって歩くと、いつの間にか外に出ていた。そして、直ぐに後ろを振り向いたが、そこには壁があるだけで穴も隙間も無かった。

 彦一が、不思議そうに壁を眺めていると、後ろから笑いをかみ殺したような声で「彦一さん、それで良いんですよ。その内、慣れるでしょう」言った。

 彦一は「どうせ俺は未開の人間さ!」とうそぶいた。

 彦一が、仏頂面をしたままサイモンの後に付いていくと、エレベーターのような乗り物があった。ただ、その乗り物には何階かを示す数字が無かった。サイモンがどうするのか注視していると、大きな声で「食堂」と言ったのみである。

「彦一さん、少し揺れますから吊革につかまって下さい」

すると、天井から二人分の吊革が垂れ下がってきた。

「どうしてエレベータに吊革が必要なんだ?」

「さあ早く、危ないですよ!」

そう言い終わらない内に、彦一はバランスを崩し悲鳴をあげながらエレベータの壁に背中をしたたかに打った。

「うわっ、どうなっているんだ」と、喚いたが、その直後にも激しい揺れがあり、床にうずくまってしまった。

普通エレベーターは上下に動くだけだが、どうもここでは違うようだ。まず下降した後、前に進んだり、右に曲がったりと自由自在に動けるようだ。

 暫くすると動きが止まり再び上昇した。ドアが開くと、目の前に食堂の入口があった。

 彦一は、うずくまったまま暫く立ち上がる事が出来なかった。酷くめまいがしていたのである。

「彦一さん、さあ肩を貸してあげましょう」

 こうして、ふらつきながらも漸く食堂に入る事ができた。

 かなり大きな食堂である。ただ食堂は二つに分かれており、一つはネビロン人専用、もう一つは拉致された人間やペルシカ人達の食堂となっている。そこには、壁があり交流する事は出来ない。また彦一のようにネビロン人に協力している人間はネビロン人専用の場所で食事ができた。ただ食事の量や種類に差別はなかった。

 ネビロン人も、何人かが食事を取っていた。だが、よく見るとテーブルの大きさがまちまちである。それぞれの人数に応じた大きさになっている。

 サイモンは、気に入った場所で立ち止まった。

 ここまで来て、彦一も何とかめまいから立ち直った。でも、まだ機嫌は良くない。

「サイモン、ここにはテーブルも椅子も置いてないじゃあないか」

「まあ見てろ!」サイモンは、イタズラっぽい顔を彦一に向けた。

「ここで食事をとる」と、一人言を言った。

 すると床からニョキニョキと、椅子二脚とテーブルが現れた。そして、テーブルは二人分の大きさに広がった。

 唖然としている彦一に「さあ、座って下さい」と、すすめた。

 彦一は、驚きを隠すこともせずテーブルや椅子を触って確認してから座った。

「随分と変わってるじゃあないか」

「スペースを有効に使うための工夫さ」と言って胸を張り、自慢顔になった。

「いちいち癪にさわる言い方をするな」、彦一はいまいましそうに、サイモンを睨んだ。そして、周囲を見回しながら「ところでサイモン、不思議な装飾品だなあ」と思わず言ってしまったが、またサイモンの自慢話が始まるのではないかと思い警戒した。

 彦一は、食堂の所々に立っている直径50センチ程の円筒形のオブジェを眺めていたのだ。

 そのオブジェの中には、オーロラを縦にしたような光の帯が生き物のように動いている。まるで暗い深海の中をうごめく神秘的な生物のようだ。

「どうかな? 我々の芸術のセンスを気に入ってもらえたかな」

「さて、俺にはよく分からないが、お前たちが芸術を創造し楽しむ習慣があるという事が分かって安心したよ」

「そうか、それは良かった。地球人と芸術論でも戦わせたら面白いかな」

「お前たちに、ピカソの絵がわかるかな?」

「ピカソだって、超一流の芸術家なのか?」

「ああそうだ。もうそんな事はどうでもいい、とにかく腹が減った。ところで料理の味はいいんだろうなあ」、実は彦一もピカソの事はよく知らないので、あわてて話をそらせたのだ。

「勿論だ。人間界の超一流のレストランにも負けやしない」

「嘘つけ・・・。まあいいや、どんなものが食べられるんだ?」

「そうだな。じゃあこれを見てみろ」

そう言いながら、テーブルの側面にあるボタンを押すと、テーブル自体がディスプレイとなっておりメニューが表示された。そこで言語も選択できる。驚いたことに地球上の様々な言語がある。しかも古代のエジプトのヒエログラフやインカ帝国の文字などもあった。

「おっと、これは凄いな。なるほど、こんなサービスは聞いたことがない」

「メニューだって豊富だ。ネビロン星の高級料理もある。食べてみるか」

「なに、これがそうなのか? ちょっと気分が悪くなってきた。そんなものを頼んで俺の前で食うんじゃないぞ」

「それは残念だ。しかし私も最近は地球の料理にも慣れてきたところだ。ただし鯛の活き造りはだめだ。吐き気がしてくる」

「こいつ、一本取ったというような顔をしやがって。しようがねーなあ」

 彦一は、こんな会話をしながら思った。『生意気な所があるサイモンではあるが、どうやら気が合いそうだ』と感じていた。

そうして、注文するとキラキラ光る制服を着た美女が料理を運んできた。

 彦一の前まで来ると、爽やかな笑顔を作って「お待たせ致しました」と、透き通るような声で言った。

「おい彦一、何を見とれているんだ 」と、にやにやしながら言った。

「うーん、あれはネビロン人なのか」

「そうじゃあない。あれはロボットだ。あれと同じものが何体もある。ただし、顔を付け替えたり、声の雰囲気なども変えて楽しむ事ができるんだ。今このロボットは地求人好みにしてある。」

「本当なのか。なるほど、これは人間のレストランにはないものだな」

「気に入ったら、一台やっても良いが?」

「いや、とんでもねー。母ちゃんに殺されちまうからな」

「彦一、だからあれはロボットだと言っただろう」

「ああそうだったな。嫌々、やっぱり要らねーよ」


 それから彦一は数週間サイモンと一緒に過ごした。

また自分と同じように拉致されて来た人達とも知り合った。

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