ゾーンと彦一
奇妙なロボットが立ち去ってホットしていると今度は、そのロボットと入れ替わりに赤い服を着た一人の大男が入ってきた。 頭には角のような物も有ったが良く見ると、それは通信用のアンテナのようでもあった。顔は眉毛が太く長く、目の瞳は猫に似ている。鼻は丸く顔の中央であぐらをかいている。どうみても悪役面だ。
彦一は、ぎょっとして頭痛がする頭を押さえながら半身を起こしその男を凝視した。
「お目覚めのようだね、彦一君。頭は痛むかね。乱暴な事をして悪かった」と以外にも綺麗な日本語で言った。
彦一は、悪役面にも関わらず丁寧な喋り方に安心した。『こいつなら、まともな会話が出来そうだ』と思った。
「お前は何者だ。赤鬼なのか?」彦一は囚われの身ではあるが、気持ちだけは、負けないように大きな声で言った。
「鬼とは、日本の昔話に出てくる生物の事だね」大男はそう言いながら、ベッドの脇に置いてある椅子に座った。
「へ、良く分かっているじゃあねえか、図星だろう」
「そう思いたいなら、そう思えば良い」
「なに、なんだか遠まわしな言い方しやがって。赤鬼なら赤鬼と言ったら良いだろう」
と思って、彦一はじろじろと相手を見つめた。
もちろん彦一はその男の服装をみて鬼でないことに気づいていた。だが鬼よりもっと恐ろしいもののようだと感じていた。
どうやら何処かの国の軍人のようだ。
「あれ、その胸にあるのはひょっとして階級章かい?」
「その通り、なかなか感が良いじゃあないか、そして、青い服は文官、赤い服は武官、白い服は研究員という訳だ」
「わっはっは、それで赤鬼とか、青鬼とかの噂が流れたという訳か?」
「それでお前から地球の事や人間の事を色々と聞かせてもらいたい」
「なに?人間の事だと。やはりお前は人間ではなく、鬼だということなんだな。そんな事を調べてどうしようと言うんだ」
「ふふ、何も煮て食べようという訳ではではない。我々が人間と付き合って行くのにどのような手段が良いかを考えている」
「人間と付き合う? だったらなぜ暴力を使って俺を拉致したんだ。とても友好的だとは思えないが?冗談じゃないぜ。どこのどいつだか知らんが、そんな物騒なお前たちに協力なんかできるもんか」彦一は自分が拉致された時の事を思い出し一層腹が立った。
「君に暴力を使った事は謝ろう。それもこれも我々が人間の事をよく知らないからだ。ただ、君たち人間は至るところで争いばかり起こしているように見えるんだがなあ?」この男、彦一の感情の揺れを面白そうに観察している。
「それで俺をこんな目に合わせたと言う分けか。しかし礼儀正しい人間だって大勢いるんだ」
「なるほど、しかしそれは表面だけで本性は違うんじゃないのかね」
「かといっていきなり暴力を使うってのは常識的じゃねえってもんだ。目には目を、歯には歯をだ。」
「うむ、それはどういう意味かな?」
「やられたら、やり返す。暴力には暴力でやり返すということだ。良く覚えておくんだな」
「ありがとう。その調子で色々と教えて欲しい」
「ふん、信用できねーな。お前達が人間と礼儀正しく付き合えるのかね?」
「言葉を返すようだが、人間も人間以外の動物に対しては随分横暴な事をやっているようだし、人種差別のようなものもあるようだが」
「なに、だから人間を動物のように扱たってわけか」
「それは君達がどれだけ知的で寛容な生物なのかがまだ解らないからだ。それによって我々の態度も変わってくる。君達次第ではあるが、これからは注意することにしよう」
「そうだ、充分注意する事だな。まあ、お前の態度を見ていると、思ったほど乱暴な奴でもなさそうだ!」
大男は満足し、心の中でにんまりとした。
『この男、案外単純だな。いろいろ利用出来そうだ』
「さて、これで協力はしてくれるということだな」
「そのまえに、お前はいったい何者なんだ。何処から来たんだ」
「そうだな、しかし理解できるかな」
「話して見なけりゃ分からんだろうが」
「よし、なら話そう。この地球からおよそ1220万光年離れた場所にネビロンという惑星がある」
「ちょっと待ってくれ、まさかその星からきたと言うんじゃ無いんだろうな。宇宙人なのか?」彦一は、予想外の返事に目を丸くして驚いた。
「そんなに驚く事では無い。彦一、君だって立派な宇宙人だろう。宇宙にいくつ星があると思っているんだ。そこに知的生命体がいたって不思議な事ではない」
「まてまて、それじゃあ俺は異星人と話をしているのか? こりゃあ大変だ。早く帰って母ちゃんに教えてやらなけりゃあな。いやいや待てよ、そんなに簡単には信じねーか」
「彦一、彦一!そんなに興奮するな、冷静になりなさい。だから人間は遅れていると言うんだ」
「それではなにかい、ここは宇宙船の中なのか?」
「そうではない。ここは鬼ヶ島の地下だ。ここに広大な基地を作ってある。勿論宇宙船だって置いてある。後で案内してやろう」
「是非、案内してもらおうじゃあないか」
「それでどうなんだ。協力してくれるんだろうな」
「良いだろう、人間との付き合いかたを教えるぐらいだったら協力してやろう。ところでお前の名前はなんと言うんだ?」
「わたしはゾーンだ。ここの最高責任者だ。とにかくこれで契約は成立だな。それで契約が成立した時には握手をするんだろう」、そう言いながら椅子から立ち上がり、彦一に向かって手を差し出した。
「分かってんじゃあないか」
こうして彦一はゾーンと握手し協力を約束した。