アークとミノンの運命
桃太郎たちの前に、ゾーン司令官の三次元映像が現れた。気負った猿が一匹、その映像に飛び掛ったが素通りして壁にぶつかった。
「桃太郎、お前の為に我々の目標は達成できなかった。まさか邪心の無い動物たちをうまく組織して、ここまで来るとは思わなかった。我々に少し油断があったのも事実だ。我々はここを引き上げる。だが、いずれお前にも地球人の良心など当てにならないということが分かるはずだ。愚かな人間の歴史がそれを証明している」
「ゾーン、そんな事は心配しなくて良い。人間の歴史は確かに愚かだったかもしれない。しかし、人間に良心があったからこそ人類は今まで滅亡しないでここまでやってきた。耐え難い地獄のような境遇にあった人もいる、神はいないと叫んだ人もいる。しかし、そんな歴史を繰り返したくないという本心の声もある。だから人類は生まれ変わる事ができる」
「甘いな!一時的にはそう思っても、時が経てば、やがて邪な心が芽吹いてくる。何度信じても何度でも裏切る。それが人間だ。せいぜい頑張ってみる事だな。宇宙の何処かで地球の行く末を見ているぞ。ところで桃太郎。お前の両親はまだ見つけ出していないようだな。お前の両親だと分かった時、何かの役に立つかと思って監禁しておいた。だが、それも用がなくなった。我々がここを去った後、10分でこの基地は爆破される。俺が言えるのはここまでだ。それではさらばだ」、そう言い終えるとゾーンの映像も消えていった。
「なんだと、ゾーン。俺の両親は何処だ」と怒鳴ったが、もうゾーンからの返事は無かった。
「ユリカ、ゾーンの言葉を聞いたか。この基地は爆破されるぞ。皆を連れてこの基地から脱出してくれ」
「桃太郎さんはどうするの」
「俺は両親を探す」
「それなら私も一緒に探すわ」
「それはダメだ。俺だけで十分だ。ユリカはみんなと一緒に逃げるんだ」
「それはダメ」、ユリカの目は必死に訴えていた。
しかし、桃太郎はユリカをこれ以上危険な目には絶対に合わせたくは無かった。
「お父さん、ユリカを頼みます。サスケも皆を守ってくれ。俺は絶対に両親を見つけて生きて帰ってきます」。桃太郎は一人で行く決意を固めていた。
マイソンは「ユリカ、桃太郎の気持ちを分かってやれ、桃太郎はきっと我々の元へ戻ってくる。信じるんだ。さあ行こう」。ユリカは渋々父に従った。
「桃太郎さん、死んだらダメだからね」、泣き出しそうになる気持ちを抑えてユリカは叫んだ。
「あたりまだ」と桃太郎は自信ありげに笑顔を見せた。
サスケも、桃太郎の決意の強さを見て取っていた。
「桃太郎、また森で会おう!」
桃太郎は、Vサインをして、それに応えた。
そして、皆を見送ってから急いで両親を探しに走った。何処にいるかは分からない。感だけが頼りであった。
しばらく走っていると、後ろから「待て、桃太郎。そっちの方じゃないぞ」という声がした。桃太郎は驚いて「誰だ!」と叫んだ。
「俺だ、カーマンだ。俺はお前の両親の居場所を知っている」
「おお、生きていたか!」
「当たり前だ。そう簡単には死なないぞ」
「ああそうだな。ところで両親の居場所を知っているんだな、案内してくれ」
「もちろんだ、俺について来い」
その時、宇宙船の発射する音が響いてきた。
「あれは、ゾーンの宇宙船だ。ということは爆発まで、残り10分しかないぞ。急ごう」
二人は誰もいなくなった基地の中を全速力で走って行った。
一方、アークとミノンは厳重に鍵の掛けられた部屋で不安な時間を過ごしていた。
「母さん、さっきの音はネビロン人の宇宙船が発射した音だ」とアークが言った。
「何ですって、ネビロン人はこの基地を見捨てて逃げ出したのね」
「うむ、そのようだ」
「桃太郎って名づけられた私たちの子どもが、ここへ攻め入ったと言っていたけど、それがうまくいったという事かしら」
「ああ、恐らくそうだろう。立派な男に成長しているようだ」
「まあ、頼もしいわね。会いたいわね、あなた」
「ああそうだな。しかし、ここから出ない事にはどうにもならんぞ」
そんな会話をしていると大きな爆発音がしたと同時に建物が崩れるような音がした。
「ミノン、まずいぞ。ゾーンは、この基地を破壊するつもりらしいぞ」
「まあ大変。もう私たちは助からないのかしら」
「ミノン、最後まで希望を捨てるんじゃない」、アークはそう言って励ましつつも、最悪の時が来ることを覚悟していた。と、その時である。遠くの方から、「父さん、母さん、いますか。私は桃太郎です」という声がしてきた。
アークとミノンは思わず顔を見合わせた。
「あなた、桃太郎って言っていますよ」
「ああ、確かに私もそう聞こえた。桃太郎が助けに来てくれたんだ」
二人は急いでドアの所まで行き、そこを叩きながら、「桃太郎、桃太郎、私たちはここにいますよ」と何度も何度も繰り返しながら大声を出した。
桃太郎にも確かにその声が届いた。
「分かりました、直ぐに行きます」と桃太郎が返事をした。
だが、その直後、再び二度目の爆発があり激しく揺れた。同時に近くでガラガラと天井や壁の崩れる音がしてきた。続いて明かりが消え、暗闇となった。暗闇はいやが上にも恐怖心を煽った。
「ミノン、大丈夫か」とアークが言った。
「私は大丈夫よ、それより桃太郎は?」
二人は桃太郎の声が聞こえなくなったので、何かあったのではと不安になった。
「桃太郎、大丈夫、大丈夫なら返事をして!」と母は絶叫した。
桃太郎は瓦礫の下敷きになっていた。だが、上手い具合に隙間が出来ていて押しつぶされずにすんでいた。しかも、多少打撲はしていたものの、軽症ですんでいたのである。
「桃太郎、大丈夫か。意識はあるか」とカーマンが叫んだ。
「カーマン、俺は大丈夫だ。しかし、ここでは身動きができん。上の瓦礫を取り除く事はできるか?」
「おお桃太郎、大丈夫のようだな。瓦礫は私が取り除いてやろう。怪力をみせてやる」。カーマンは、瓦礫を一つずつ持ち上げ取り除いていった。そうして、あと二、三取り除けば桃太郎を救い出せると思ったとき、桃太郎は自力でその瓦礫を取り払いつつ出てきたのである。カーマンは桃太郎のタフさに唖然とした。
「お前、まだそんな力があったのか」
「これぐらいの事で参ってたまるか」、桃太郎は自分の体についた埃を払いつつ、にこっと笑った。
カーマンは『この男を敵に回したら大変だな』と心底思ったのである。
桃太郎は両親のいる部屋のほうを見た。ドアの前に瓦礫がうず高く積まれ、このままでは、そのドアまで短時間で辿り着くのは不可能であった。更にいつ爆発があるかも分からない。
そこで桃太郎は、大声で「父さん、母さん、部屋の隅に移動してください。今すぐに救い出しますから」と大声で叫んだ。
ドアの向こうから微かに「分かった」という声が聞こえてきた。
そして次に桃太郎は、目をつむり精神を集中し気を体内に溜めていった。ほんの少しの間静寂の時が流れた。十分体内に気を集めたとき目を静かに開け、ドアに向かって右手を上げ、手のひらを垂直に立てた。 そして体内にある気を右手に集中させ、それを一気に放出した。
凄まじい音がすると同時に、ドアの前にある瓦礫は粉々になり、続いてドアに穴が開き、更にはドアの向こう側の壁まで穴が開いた。
「桃太郎、やったな。これで救い出せるぞ。急ごう」とカーマンが言った。
桃太郎は、呼吸を整えると「よし行こう」と、元気に言った。
桃太郎とカーマンは粉々になった瓦礫の中を進み、穴の開いたドアを蹴破り、部屋の中へ入っていった。部屋の片隅には、アークとミノンがかばいあうようにして座っていた。
「父さん、母さん、桃太郎が来ましたよ」
「おお、お前が私の息子なのか?。立派になったな」とアークは言い、ミノンは桃太郎に抱きついた。
「ああ、本当に私の息子なのね。あの川で別れた時、もう二度と会えないと思っていたのよ。ああ本当に生きていて良かったわ」とミノンは嬉しくて感動の涙を流していた。
「本当に、お母さんですね。お母さんの胸の鼓動を感じます。肌の温もりを感じます」桃太郎の目も涙で滲んできた。
しかし、今は再会の喜びに浸っている時間は無かった。
「さあ、お父さん、お母さん、まずここから脱出しましょう」
「あとは私に任せろ、ついて来るんだ」、 カーマンは先頭を切って皆を導いた。
しかし、この間にも爆発は続いている。天井や壁が次々に崩落し、カーマンが知っている限りの出入り口への通路も、ほとんど塞がれてしまった。
「くそ、これでは出られないぞ」とカーマンは困惑した表情を見せた。四人は最悪の事態を覚悟したが、その時、桃太郎が、
「あそこを見ろ、天井の亀裂から光が差し込んでいるぞ」と叫んだ。
桃太郎が攻撃を仕掛けたときは真夜中であったが、今は夜が開け、朝の光が差し込んでいたのである。
桃太郎は天井の亀裂に向かってジャンプし、そこから外に出る事ができた。そして、その亀裂から下にいる人に向かって、「亀裂の真下にいないで下さい」と言った。次に、ユリカから借りていた笛を取り出し、それを吹いた。
そうして桃太郎は空を見上げた。暫くすると、超高速で飛んでくる飛行物体を確認できた。その物体は桃太郎の頭上で悠然と旋回した。それはキジ型ロボット飛雄二号であった。
二、三回旋回した後、飛雄はその亀裂に向かって突進し大きな穴を開けながら入って行った。
「みんな大丈夫か」と下に向かって大声で叫んだ。すると、下から「大丈夫だ」という声が返ってきた。
飛雄は巨大化し、アークとミノンを背中に乗せて外に出てきた。カーンは自力で這い上がってきた。
「飛雄、二人を乗せて皆のいるところまで行ってくれ」と桃太郎が言うと、飛雄はうなずいた。
すると、飛雄の背中に乗っていたアークとミノンが「桃太郎、あなたたちはどうするの」と言ってきた。
「私たちは大丈夫です。また後で会いましょう。さあ飛雄頼んだぞ」と言って、手を振った。飛雄はそれを合図にひらりと舞い上がった。
上空から「桃太郎、きっとまた後で会いましょうね」という声が響いてきた。
桃太郎は二人を見送ると、カーマンに向かって「俺について来い。まだ氷の道が残っているはずだ」
「なに、氷の道だって、そんなものを作って島に上陸したのか」、と言ったら桃太郎は悪戯っぽく、にやっと笑った。
二人は次々に爆発が起きる中を走り抜けた。あと少しで氷の道がある所まで辿り着こうとしていた時、最後のそして最も強烈な爆発があった。二人は激しい爆発の中を、間一髪海に飛び込んだ。しかし、その爆発は氷の道に亀裂を作り、道としての機能は失われてしまったのだ。更に鬼ヶ島は炎に包まれた。戻ることもできない。
「桃太郎、あそこまで泳いでいくつもりか」とカーマンが疲れきった表情で言った。
「仕方が無いな。生きているだけでも良かったと思わなければな」
しばらく二人はお互いに励ましあいながら泳いでいた。二人の体力は限界を超えていたが、力を振り絞りぎりぎりの戦いをしていたのである。やがて、カーマンが遅れだした。それを見て桃太郎が手を貸した。このままでは、やがて体力を使いきり二人とも海の藻くずとなってしまうのも時間の問題のように思えた。
風が吹き、海が荒れてきた。
遠くに岸が見える。
あともう少しだ、と思いつつも体が思うように動かないよう。
二人は遂に力尽き、海の中へ沈んでゆく。
薄れていく意識の中で、サスケやムサシ、ダイモンたちとの楽しかった思い出が蘇る。
更に、両親の優しい笑顔が見つめている。
桃太郎は、これで死ぬんだなと思った。
そう思った時、今度はユリカが出てきて、怒ったように叫んだ。
『桃太郎! 何をしてるの、早く戻って来なさい!』
その時、何者かが桃太郎の足をつついた。
「おい桃太郎、俺を忘れるな」と言ってきたのである。桃太郎は覚醒し、目に生気が蘇ってきた。
「おう、シーザーじゃないか。まだここにいたのか」
「それは無いだろう。地球の未来がかかっているんだからな」
「おお、それは失敬した」
「桃太郎、お前はサメとも話が出来るのか」とカーマンが、朦朧とした意識の中で呟いた。
そして、桃太郎とカーマンはシーザーに何とか捕まり、岸を目指した。
「ふふ、お前はサメにも知り合いがいたとはな」
「ああ、そうだとも」
「以前、お前がサメの群れにやられてしまったと思っていたが、こういう裏があったという分けだ」
「そうだ、友達は大切にしないといけないぞ」
「その通り」、そう言って、二人は笑った。
二人がふと空を見上げると、いくつもの巨大な宇宙船が空を覆っている事に気付いた。それはペルシカ星からやってきた平和維持軍であった。
いよいよ次回で最終回となります。
色々とご愛顧たまわりありがとうございました。
桃太郎は、終わりますが新たに『パラレルワールドの謎』の連載が始まりますので期待下さい。